第12話
イースバーンを追ってレイナは駆け抜ける。
足止めして来た部下達は全員切り捨てた。
残るはイースバーンただ一人だった。
遠くを走るイースバーンが裏路地を曲がる。
少し遅れてレイナも後を追って裏路地を曲がった。
その先に居た人物を見て足が止まる。
「クラネット!」
「レイナ!
どうしたの?
そんなに慌てて、しかも剣まで持って?」
「クラネット。
イースバーンがこっちに来たはず。
見てない?」
「イースバーンって……
まさかレイナ!?
勝手に捜査してたわけ?」
「あっ!
えーと……」
「中央の騎士でもここは管轄外なのよ。
いくらあいつが要注意人物だからって、やり過ぎたら謁見行為で処分を受けるわよ」
「それは大丈夫。
現行犯で追ってるから」
「そうなのね。
わかったわ。
私はこっちを探すからレイナはあっちをお願い」
「ちょっと待って」
レイナは走り出そうとしたクラネットを呼び止める。
「どうしたの?」
「ねえ、クラネット。
どうしてこんな所に一人で居たの?」
「もちろん捜査よ」
「私はここら辺出身だけど、しばらく離れていたわ。
けど、すぐにイースバーンに辿り着いた。
それなのに何故南都の騎士団はまだ来ないの?」
「何が言いたいの?
もしかして私達を馬鹿にしてるの?」
「違うわ。
むしろ逆よ。
クラネットは騎士団学校時代から、いいえ子供の頃から優秀だったわ。
それなのに対応が遅過ぎる。
なにかあるんじゃないの?」
「何か証拠があって言ってのよね?」
「え?
いや、そう言う訳じゃないけど……」
クラネットはやれやれとばかりに大きなため息を吐いた。
「レイナ。
騎士団学校の時の事忘れたの?
そうやって先走って危うく犯人を取り逃がす所だったじゃない」
「それはそうだけど……」
「私が捜査に時間が掛かったのは正規の手順を踏んでるから。
それが重要なのは分かってるでしょ?
もう、しっかりしてよ。
私達の仲じゃなかったら問題発言になってたわよ」
「ごめんね」
「いいから、さっさと追うわよ」
「クラネット」
「まだ何かあるの?」
「何か困った事あったりしないよね?」
「何よ、困った事って。
まさか圧力かけられてるとか思ってる?
無い無い。
あったとしても、そんなのに屈する性格でない事知ってるでしょ?」
「信じていいんだよね?」
「バッカじゃないの?
行くわよ。
せっかく取り押さえるチャンスなんだから」
そう笑い飛ばしてクラネットは走り出す。
レイナも後ろ髪を引かれながらも別れて走り出した。
そんなレイナが再び走りだした先に今度はルリが立ち塞がり優雅に礼をする。
「お久しぶりです。
美しき騎士のレイナ様。
またお会い出来て光栄です」
レイナは反射的に構える。
その細剣から緊張感が伝わってくる。
「ナイトメア・ルミナスのルリ」
「覚えていてくれましたか。
大変嬉しく思います」
「あなた達が関わっているとは思っていなかったわ」
「はて?
それは麻薬の件ですか?
あんな品も節操も無い悪党と一緒にされるのは心外でございます」
「ならなんで邪魔をする?」
「それはもちろんマスターの為でございます。
マスターがお楽しみ中ですのでここでお待ち頂けませんか?」
レイナは返事代わりに細剣を繰り出す。
それをルリはステッキで受け止めた。
「やはりダメですか。
直接戦闘は苦手なのですが仕方ありません」
ルリはステッキを回転させて細剣を弾く。
「ナイトメア・ルミナス。
第二色、謙虚のルリ。
及ばずながらここで耐え忍ばさせて頂きます」
レイナの細剣から繰り出される連撃をルリはステッキで捌いて行く。
ルリは体制を崩そうと強弱をつけて捌くが、レイナの鍛え抜かれた体幹がその全てに対応していた。
「困りました。
これでは逃げるのも一苦労です」
「今日こそは逃がさない!」
「それはもっと困ります。
私が生き残るには逃げるしかありませんのに」
ルリは少し距離を取ろうと下がる。
そこにレイナは食い下がる。
激しい攻防が休みなく繰り返された。
だけどレイナの細剣は決してルリには届かない。
そんな時間だけが過ぎて行く。
その時は突然来た。
ルリが何かに気を取られた。
その隙にレイナが細剣を突き出す。
ルリは慌てて真上に飛んで躱した。
その顔は若干拗ねているように見えた。
「レイナ様。
私はこれにて失礼させて頂きます」
「逃すか!」
レイナは建物の壁を垂直に走ってルリ攻撃を繰り出す。
それをヒラリと躱してルリは優雅に礼をした。
「追っていた方なら元来た道を戻ってご友人の方が向かった方にいらっしゃいます」
ルリはそう言って霞のように消えた。
一方レイナの追跡を逃れたイースバーンは止まって上がった息を整えていた。
だが、足音が聞こえて彼に緊張が走る。
彼の前に現れたのはクラネットであった。
その姿にイースバーンは身構えた
が、その顔を見て安堵の溜息を吐いた。
「驚かせないでくださいよ。
こっちはもう歳なんですから」
イースバーンの言葉にクラネットは無言で見らだけだ。
「なんですかその顔は?
もしかして怒ってます?
いや〜確かに今回はヘマをやらかしましたよ。
だけど上手くやりますよ」
そう言ってクラネットに近づいたイースバーンの体を剣が貫いた。
「なっ!?
嘘、だろ?
どうして?」
「時代は変わったわ。
もうあんた達に忖度する必要は無いの」
「散々甘い汁を啜って来たのに……」
「ええ、そうね。
おかげでこのポジションまで来れたわ。
だからこそお前達との繋がりがバレるわけにいかないのよ。
レイナに見つかったのはマズイわね。
証拠は隠滅しないとね」
クラネットは剣を抜くと容赦無くイースバーンの首を刎ね飛ばした。
「サゴドン公爵がいなくなった時点で落ち目だったって事よ」
クラネットはイースバーンの死体を見下ろしながら剣を拭いて収めた。
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