第10話

エミリアを囲む10人の部下達の輪が焦らすようにせまって来る。

それを牽制するように睨みつけるエミリアの表情すら男達の興奮を駆り立てる材料の一つにしかならない。


「まあ、初めは薬無しで遊んであげなさい」


イースバーンは注射器を手で弄びながら部下達に命令をした。


「せっかくだからこの女でゲームしようぜ。

一人づつ遊んで一番エロい声を出させた奴が一番最初に薬キメさせてから好きに出来るってどうだ?」


そう一人の部下が言うと歓声が上がる。

提案した部下は11枚のトラブルを用意してシャッフルしながらルールを決めていく。


「ジョーカー引いた奴からな。

あとは数字の若い順。

1人20分でいいよな?

体に触れてから20分にしよう。

もちろん本番は無しだぞ。

それが優勝賞品みたいな物だからな。

そう言えばお前は処女か?」


エミリアは顔を逸らして無視を決め込む。


「おい答えろよ」

「それによってゲームの本気度が変わるだろ」

「どんな屈辱的な命令も聞くんだろ?」

「さあ大きな声で言ってみろよ」


周りからのヤジにも目と口を震えるほど硬く閉ざして耐える。


「まあまあ、それを確かめる権利も優勝賞品って事でいいじゃないか」


ゲームを提案した男がそう言ってトランプのシャッフルし終えた。

部下達はエミリアにゲスい視線を浴びせながらトランプを引いて行く。


エミリアはその視線にもただただ耐え続ける。

その時間すら抵抗出来ないエミリアにとっては恥辱の時間だった。


全員にトランプが行き渡ったのち部下達は一斉に見た。


「ヤッホーい。

俺が一番だ」


トランプを配った男が喜びの声をあげる。

そしてエミリアの前まで出てニヤニヤしながら顔を覗き込む。


「たっぷり可愛がってあげるぜ。

特にその豊満なおっぱいをな」


男は視線をゆっくり胸に落とすと舌舐めずりをした。

エミリアの背中に悪寒が走る。

今すぐ蹴り上げたい衝動を必死に抑える。

そんなエミリアを嘲笑うかのように、男は全身を舐め回すように見ながら周りを歩き始めた。


「最初に触れてから20分だからな。

まずはしっかり目で堪能しないとな」


そう言ってゆっくりと歩きながらエミリアの全身に視線を浴びせる。

時間にしたら1分にも満たない時間。

だが耐え続けるエミリアには途轍もなく長く感じられた。


「おい!早くしろよ!」

「後ろがつかえてるぞ!」

「まあまあ、待てって。

何も抵抗出来ないんだ。

じっくり追い詰めていかないと」


そう言って後ろに回り込んだ時、男は後ろからエミリアに抱き付く。


「きゃっ!」

「はい、エロい声一つ頂きましたー」


思わず声を出してしまったエミリアは慌てて口を硬く結ぶ。


「うひょー。

超絶景」


エミリアの肩越しに胸の谷間を覗き込んで男は歓喜の声を出す。

エミリアはただ顔を背けて恥辱に耐えてる。


「これを自由にしていいんだよな?」


男はエミリアに語りかけるがエミリアは黙っている。


「おい?

聞いているのか?」

「……」

「命令だ答えろよ。

どんな命令でも従うんだろ?」

「……はい」

「この胸を自由にしていいんだよな?」

「はい」


エミリアは屈辱で表情が歪む。

それを楽しむかのように周りの部下達から響めきが起きる。


「おっと。

胸だけじゃないな。

その体をめちゃくちゃにしてもいいんだよな?」

「はい」

「お前ら、はいだってよ。

最高だね。

どうせならもっと色っぽく言って欲しいが、それは追々とするか」


そう言って男はエミリアの耳を舐めようと顔を近づけて行く。

両目を瞑り固く口を結んだエミリアの耳に舌が触れる直前、男が小さな声で囁いた。


「EMILIの毒はもう解毒してるよ」

「え?」


エミリアが目を開けた瞬間、入り口の扉が蹴破られてレイナとリリーナが突撃して来た。


二人は突然の事に呆気に取られた部下達を制圧して行く。


いつの間にかエミリアに抱きついていた男は消え、エミリアはヘナヘナとへたり込む。


彼女も理解出来ないうちにイースバーンと共に裏口から逃げだした部下達以外は制圧された。


「リリーナ様。

私はイースバーンを追います。

ですのでその子を」


そう言ってレイナは逃げたイースバーン達を追った。


「大丈夫!」


へたり込むエミリアの元にリリーナが近づく。

そして顔を見た瞬間に驚きの声をあげた。


「エミリー!

あなたエミリーよね!」

「はい。

リリーナ様」


まだ思考が追いついていない所に昔の名で呼ばれて普通に答えてしまった。


「生きてたのね。

よかった」


リリーナはエミリーをギュと抱きしめる。

その目には涙が浮かんでいる。


「生きてたなら会いに来てよ」

「リリーナ様。

申し訳ありません。

私はお会い出来るような人間ではございません」

「どうして?」

「私は――」

「私を監視する為に送られたサゴドン公爵の密偵だから?」

「知っていたのですか?」

「もちろんよ。

でも、そんなの関係無い。

あの地獄の中でずっと私の側にいてくれたのはエミリーだけだった。

私の味方はエミリーだけだった。

知ってるのよ。

あなたがわざと報告を誤魔化して私を守っていてくれた事も」


涙声で語りかけるリリーナにエミリアも感極まって涙を流す。


「エミリー。

本当に生きてて良かった。

また会うことが出来てよかった」

「リリーナ様。

私はもう二度とリリーナ様の前に現れる気はありませんでした。

でも本当はずっとお会いしたかった」


二人は再会の喜びに涙しながら抱きしめあった。

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