第9話
南都のはずれの半グレ達が屯していた場所にクラネット率いる騎士団が突撃していた。
しかし、当然の事ながらもぬけの殻である。
肩透かしをくらいながらも騎士達はガサ入れを行った。
「クラネット騎士団長!」
程なくして騎士の一人が大量の麻薬と金貨を見つけた。
「これだけの物を残して逃げたとは思えないわね。
となると、何かトラブルが起きた可能性が高い。
それか単純に口封じで消されたか……」
クラネットは悔しさで唇を噛む。
ガードラン家はクラネットが小さい時に当主が麻薬に溺れて没落した元貴族だ。
それによって幼少期のクラネットは大変な暮らしを強いられた。
その為クラネットは麻薬に対する恨みが大きい。
その事も騎士団のメンバーも良く知っていた為、今回の空振り悔しさが増した。
「どうしますか?」
「その物は全部回収。
念の為数人はここを監視しておいて」
クラネットの指示に従い騎士達は撤収をして行った。
その頃、イースバーンは自分の息のかかったバーで部下を引き連れ飲んでいた。
「オジキ。
あいつら失敗しました」
そこに部下の一人が入って来てイースバーンに報告をした。
「ほう。
で、あいつらは?」
「死にました」
「何故?」
「突撃現れた奇妙な女に殺されました」
「余計な事は?」
「口走る前にくたばりました」
「ならいい。
手間が省けた」
そこにもう一人部下が入って来てイースバーンに報告する。
「あいつらの屯場に騎士団が突入しました」
「そうか。
タイミングバッチリだな」
「はい。
囮で置いた薬と金で満足して帰って行きました」
「少し痛いが最小限の出費だと思おう」
そう言ってイースバーンは葉巻に火をつける。
「しかしオジキ。
エミリア製薬との交渉材料はどうしますか?」
「まあそれはおいおい考える。
今回のは上手く行けば御の字ぐらいだったからな」
「お話しなら直接伺いますよ」
全員が声のした入り口の方を見る。
そこにはドレス姿のエミリアの姿があった。
「はじめまして。
エミリア製薬の代表を努めております。
エミリアと申します」
「これはこれはご丁寧にどうも。
まさかお越し頂けるとは思ってもいませんでしたよ」
「我が社の者が大変お世話になりましたので」
「そうですか。
そんな事がありましたか」
「ご存知無かったと?」
「申し訳ない。
もし内の者が粗相をしたのなら謝るよ」
エミリアは無言でイースバーンを見る。
それにイースバーンはニッコリ微笑んで応えた。
「下の者の管理が行き届いて無いのは認めますよ。
だが、どいつもこいつも血の気が多くてな。
それに俺がちょっと冗談で言った事を本気にして動く可愛い馬鹿もいる」
「つまり勝手にやったと仰るのですね」
「そう言う事になるな。
あなたと交渉する為に接点が欲しいとは常々言っているからな」
「私と交渉?
一体なんの?」
「もちろんビジネスだ。
麻薬の製造にご協力を願いたい」
「私がそんな事するはず無い事ぐらいお分かりでしょ?」
「まあそう言わず話を聞いて頂きたい。
そちらにも利益がある話だ」
イースバーンが話している内に周りの部下達が音もなくエミリアを囲んで行く。
「よく考えてみてくれ。
薬の開発には莫大な資金がかかる。
あなたが作っている治療薬だって例外では無い。
なのに出来てこの国から麻薬が消えたらどうだ?
途端に使い道が無くなってしまう。
そうなると大赤字では無いか。
だから今から麻薬のストックを持っておけばいい。
それをまだ麻薬の無い国に流通させる。
そしてそこに治療薬を高く売り付ける。
それを繰り返せば莫大な利益になる。
薬の開発費も回収出来るというわけだ」
「まさか本気でそれを私が受け入れると思ってませんよね?」
「会社とは利益を追求する物だろ?」
「そうですよ。
でも、だからこそ人道を外れてはただ堕ちていくだけです」
「アハハハ!!」
イースバーンは突撃大笑いをした。
「あなたがそれを言うか。
俺には分かる。
あなたは人を裏切る。
あなたは人を殺める。
そうやって生きて来た。
そう言う人間だ。
いくら誤魔化そうとしても隠し切れない雰囲気が漂って来る。
俺もあなたも所詮同じ穴のムジナ。
なら仲良くしようでは無いか」
そう言って再びイースバーンは大笑いをする。
その笑い声が途切れるまでエミリアは無表情で黙っていた。
「当たっているだろ?
だから反論も出来まい」
「その通りですよ。
私はそう言う人間です。
だからこそ真っ当な道に必死にしがみつくのです」
「辞めとけ辞めとけ。
それは無理だ。
俺と仲良くした方がいい。
悪の道は楽だぞ」
「例え悪の道に進むとしてもあなた達とは仲良く出来ませんよ」
「そうか。
なら仕方ない。
おい、お前達。
そちらに麻薬の気持ち良さを教えてあげなさい」
部下の一人がエミリアに掴みかかる。
その腕を掴んで引き込んでバランスが崩れた所をエミリアが魔力で生成したナイフで頚動脈を切り裂く。
部下達が血飛沫が上がるのが合図となって次々とエミリアに襲いかかる。
しかし誰もエミリアを捉える事など出来ない。
「あなた達など悪党としての品が無い。
私はもっと純粋で恐ろしい悪党を知っています」
逆に次々と確実に急所を切られ絶命していく。
かなりの数がいた部下達が10人まで減った。
「そう言えばあのお嬢ちゃんは目覚めて無いのではないのかね?」
その光景を見ていたイースバーンがニヤけながら言った。
その言葉に部下達の襲う手も止まる。
「あいつらが人を攫う時に使う薬はちょっとヤバイ奴でね。
一瞬にして眠らせるだけで無く、解毒剤をうたないと目が覚めないのだよ。
そしてそのまま2日間置いておくとそのまま一生目を覚ます事が無くなってしまう」
エミリアはイースバーンを睨む。
そんな事には一切屈しずに続けた。
「もちろん俺は解毒剤を持っている」
「渡しなさい!」
「焦っている所をみると目覚めて無いみたいだな」
「その解毒剤はどこ!」
「とりあえずその両手の物騒な物を捨ててくれないか。
怖くて話も出来ん」
エミリアは仕方なしにナイフを手放す。
そこにゆっくりと部下が近づいて来る。
「ゆっくりと両手を後ろにまわして組むんだ」
エミリアは渋々言う事を聞いて後ろに手をまわす。
その手を部下の一人がキツく縛った。
「解毒剤を賭けてゲームをしようでは無いか」
そう言ってイースバーンは麻薬の入った注射器を取り出して見せた。
「今から24時間後に麻薬と快感に溺れていなければ解毒剤を渡してあげるさ。
もちろんその間は一切の抵抗もせずに、どんな屈辱的な命令にも従って貰うがね」
そこにいる全員の卑猥な視線がエミリアに注がれていた。
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