第8話
エミリアはいつぞやと一緒でクロスホルダーネックのドレスを着ていて、その立派な胸の谷間がしっかり見えている。
いやこれは見せていると言っても過言では無い。
そして相変わらず超エロい。
そのエミリアがゆっくりと近づいて来る。
これは嫌な予感しかしない。
「エミリア。
本当に僕は何もしてないんだよ」
「そんな事はありません。
私はいつも助けられております。
いい加減お返ししなくては」
「お返しなんて無いよ。
僕はエミリアを助けた事なんて無いからね」
「胸揉みますか?」
「揉まない」
「そうですよね。
これは事業を成功した時の報酬ですから」
「その話はもう無かった事にしようよ」
「嫌です。
ヒカゲ様に揉まれるのを励みに頑張ってきましたのに」
「なんでやねん」
「好意を抱く男性に胸を揉まれたいと思うのは、女性の当然の欲求ですよ」
エミリアは冗談めかしに言う。
そうだった。
エミリアも僕の理性を破壊しに来てるんだった。
これは話を変えないとまずいぞ。
「そ、そうだ。
何か話があったんだよね?」
「そうでした。
ではヒカゲ様お座り下さい」
よし、なんとか耐え切ったよ。
僕はホッとしてソファーに座る。
「では、失礼しますね」
って、なんで僕の上に座るの?
「近い近い。
胸が近いって」
「はい。
近づけていますので」
「なんでそうなるんだよ。
てか、このパターン前にもあったよね?」
「そうでしたか?」
エミリアはわざとらしく惚けた様に首を傾げる。
「あったよ」
「そんな事無いと思います」
「いや、あったね絶対」
「違いますよ。
あの時は――」
そう言ってエミリアは徐ろに自分の首の後ろに手を回す。
そしてドレスの結び目を解いた。
僕はドレスの端を慌てて持ってエミリアの首の後ろに戻す。
その端を結び直そうとしたら、エミリアが僕の両手首を掴んで止められた。
「こう言う状況だったと記憶しております」
「そう、正しく以前と同じ状況だよ。
そうだけどさ。
でも完全再現してとは言って無い」
「ヒカゲ様。
こちらにはリリーナ様とお越しになられたのですよね?」
「え?
そうだけど?」
「そうでしたか。
新婚旅行でしたか」
「旅行なのは認めるけど、断じて新婚旅行では無い。
そもそも結婚はしていない」
「なら、婚前旅行ですね」
「違う。
全然違う。
僕はリリーナと結婚するつもりは無い」
「とうしてですか!?」
「いやいや。
心底驚いてる雰囲気出してるけど、そんな事初めから分かってたよね?」
「そろそろ心変わりが有るかもと思いまして」
「それは無いよ。
僕の美学は絶対だからね」
「ヒカゲ様。
一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
エミリアはそう言って胸をぐっと近づける。
「いいけど、ちょっと離れようか」
「ヒカゲ様の美学は聞いております。
しかし、リリーナ様との結婚がどの美学に反するのでしょうか?」
どうやら離れてはくれないらしい。
胸のインパクトが強過ぎて、質問が入って来ない。
「『美学その9
他人の不幸は蜜の味
身内の不幸は排除する』
排除する物の中には僕みたいな悪党も入っているんだよ。
僕以外の真っ当な人間と一緒になった方が絶対に幸せになれるよ」
「果たしてそうでしょうか?
幸せなんて人それぞれです。
リリーナ様ならきっとヒカゲ様と一緒になる事が幸せだと言うはずですよ」
「一時の感情に流されたらいけないよ。
悪党と一緒になっていい事なんてあるはず無いんだ」
「ヒカゲ様は何故そんなに幸せになる事を拒むのですか?
求めればなんでも手に入るような力を――」
「エミリア」
僕の口から自分でも信じられないような低く重たい声が出た。
なんだか場の空気までも重たくなった。
エミリアも驚きと恐怖で顔を引き攣っている。
「あっ、ごめんね。
なんか変な声出ちゃったね」
「い、いえ。
私こそ出過ぎた真似を申し訳ありません」
エミリアはそう言ってドレスを直してから僕の上から離れた。
エミリアはなんとか平然を装って答えるけど、まだ若干ぎこちなくも見える。
「そう言えば、なんでEMILIは狙われたの?」
「推測ですが、麻薬関係だと思います」
「僕も見たよ、麻薬持ってる奴」
そいつは殺しちゃったけど。
「取り締まりは強くなっていますが、問題は根深いのです。
サゴドン公爵の作っていた麻薬は中毒性が高く、それ無しでは正気を保てなくなる程の中毒者も多くいます。
その者達から薬を取り上げると暴動が起きかねません。
ですからエミリア製薬ではミーガン公爵と協力して治療薬を開発しています」
「なるほどね。
治療薬が出来てから撲滅しようってわけだ」
凄いや。
そんな気の遠くなる事をやろうだなんて。
僕なら手っ取り早く暴れる奴を処分しちゃうね。
「ですがそれを面白く思わない者達が居るのも事実です。
麻薬はお金になりますので。
きっとその者達がEMILIを攫って何か交渉を企んでいたと思われます」
「ふーん」
「ヒカゲ様。
この件については私にお任せください」
エミリアが何かを心配したように早口で言った。
「わかってるよ。
僕は他人に施しはしない。
それにそんな正義のやり方に僕が手を出す事は出来ない」
そんな事したら正義が正義で無くなってしまうからね。
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