第7話

なんかEMILIが攫われたのを見ちゃった。

彼女はエミリアの所の子だからね。

人気がいなくなる所に行ったら奪うか。


とか思ったら、なんかいつぞやのいい女が助けちゃった。

まあ、それならそれでいいか。


しかし、なかなかの早業だったな〜

いくら雑魚キャラだったとは言え、荒事に慣れてるであろう奴ら相手にあんなに華麗に的確に急所を切り捨てるなんて、なかなか出来るものでは無い。


僕は天に消えて行ったダブルセイバーを見上げながらふと思う。


襲われた他人を助けるとか、もしかしてあの女は悪党じゃないの?


えー。

せっかくいい女だったのにな〜

善人なら犯せないじゃん。


いや、まだだ。

まだ善人と決まったわけでは無い。

もしかしたらこのままEMILIを攫って――


「この子どうしよう?」


ダメだ〜

これはダメなやつだ〜

完全に成り行きで助けたけど、どうしようって言う善人ムーブだ〜


「ねぇルリ。

彼女って善人だと思う?」

「そうですね。

あれは襲われるのを見て勢いで助けてしまったけど、どうしたらいいかわからないって感じですので」

「やっぱりそうだよね」

「どうかされましたか?」


露骨に肩を落とす僕をルリが心配そうに尋ねて来る。


「いや、なんでも無いよ」

「善人だと困るのですか?」

「いや、困るってわけでは無いんだけどね」

「マスター。

ルリはわかっております」

「なにを?」

「いつでもルリをお使い下さい」


一体何を言い出すんだこの子は?

いや、僕の勘が言っている。

この先を聞いてはいけないと。


「とりあえずこの話はやめと――」

「胸は小さいですが、その他なら自信があります」

「ストップ。

この話は終わり」

「このルリ。

必ずマスターをご満足させる自信があります」

「終わりだってば」

「是非この体ご自由にお使い下さい」


言い切りやがった。

自信満々に小さな胸を張って言い切ったよ。


「今すぐ御所望ですか?」

「御所望ではありません」

「そうですか。

やはりマスターは小さな胸はお嫌いですか」


ルリがこの世の終わりのような顔を見せる。

僕は慌てて否定した。


「そんな事は無い。

僕は小さいのも大きのも好きだよ」

「私のもですか?」

「好きだよ。

すっごく好き」


本当に何言わすねん。


「そうですか!

では今すぐにでも!」

「今はダメ。

と、とりあえずEMILIを送ってあげないと。

あの女も困ってるし」

「やっぱり――」

「違うよ。

違うからね。

そう、ま、また今度。

また今度お願いしようかな〜

って思ったり思わなかったり……」

「わかりました。

では、お待ちしております」


そう言ってルリはスッーと消えた。

耐えた。

なんとかやり過ごせた。


ふう〜

あんな顔されると拘りづらいよ〜

おっとそれよりも。


僕はEMILIを抱えたまま困っている女に声を掛けることにした。


「その子をどうしたらいいか悩んでるの?」


女はビクッとしてから僕を見た。


「えーと……」

「その子、僕の知り合いの所で働いてるんだ。

なんなら僕が預かるよ」


女は僕を見ながら何かを考え込む。


何を考えてるんだろう?

まあ、それよりもEMILIの体内にある異物の方がヤバそうだな。

多分眠らす為に薬を盛られたんだろうけど、普通の薬じゃない。

下手したら一生起きないんじゃないか?


「案内をお願いできますか?

このまま私が連れて行きますから」


そんな事考えてたら女が僕に言った。


なるほど。

僕に預けていいか心配で考えていたんだね。

確かにポッと出の僕に預けるのは危険だね。

とりあえずこの薬だけはどうにかしておこう。


「いいよ。

あっ、UFO」

「え?」


女が僕が指差した方を見た瞬間にEMILIの中の毒を消し去る。

でも、すぐに起きたら面倒だから明日までは寝といてもらおうっと。


それにしてもこの女はなかなか頭のキレる女だ。

あ〜あ、なんで善人なのかな〜

せっかくのいい女なのにな〜



エミリア製薬の本社に到着するとそれはもう大騒ぎになった。


EMILIはすぐに医務室に運ばれて、僕と女は高級な作りの応接室に通された。


「ごめんなさい」


何故か知らないが女が謝って来た。


「なにが?」

「私、あなたの事を疑っていました」

「別に当然じゃない?」

「いえ、とんでもない。

あなたはいい人間ですから」

「僕が?

僕はいい人間じゃないよ」

「そんな事はありません。

あの場には沢山の者がいました。

だけど誰一人声をかけるどころか、目も合わせようとしませんでした」

「それは僕が偶々EMILIを知っていたからだよ」

「いいえ。

みんな私の見た目から関わらないようにしていました。

でもあなたは違った」


女は立ち上がって真っ直ぐ僕を見た。


「私は竜人のクリファ。

龍神様の巫女として有るまじき行いでした。

お詫び申し上げます」

「別に謝る事なくない?

だって、あの時の状況から間違って無いと思うよ」

「例え間違った事で無くとも、結果的にあなたを陥れた行為をしてしまいました」

「まあ、君がそれで納得するなら受け入れるよ」

「ありがとうございます」


丁度その時、ノックをしてからスイリアが入って来た。


「お待たせしてしまい申し訳ございません。

この度はウチの従業員を助けて頂きありがとうございます。

良ければ詳しくお話しを伺いたいのですが、お時間ありますか?」

「私は構いません」


クリファが快く了承すると、スイリアはクリファについて来て欲しいと言った。


それについて行こうとしたクリファは急に足を止めて僕を見る。


「どうしたの?」

「申し訳ありませんが、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「僕?

僕はヒカゲ・アークムだよ」

「ありがとうございます。

ヒカゲさん。

あなたとはまた龍脈の導きでお会いする気がします」


二人が出て行くと入れ替わる様にエミリアが入って来た。


「ヒカゲ様。

ありがとうございました。

本当に助けられてばかりで情け無い限りです」

「いや、僕は特に何もしてないよ。

ここまでクリファを案内しただけ」

「それでも何もお礼をしないと私の気が収まりませんので、ヒカゲ様は私が直々におもてなしさせて頂きますね」


そう言ってエミリアはにっこり微笑む。


なんか企んでる笑顔だ。

なんで後ろ手に扉の鍵を閉めたの?

すっごく嫌な予感するんだけど……

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