第6話
ホロン王国南都のはずれ。
観光地からも市街地からも少し離れた治安の悪い地域。
そこで屯している半グレ達がいた。
「あいつらまだ帰って来ないぞ」
「もしかしてナンパ成功したのか?」
「無い無い無い。
どうせ失敗して恥ずかしいから帰って来れないだけだって」
半グレ達の笑い声が屯場に響き渡る。
そんな中屯場の入り口の扉がゆっくり開けられて中年男が入って来た。
半グレ達はすぐさま立ち上がり気をつけをした。
「「「イースバーンさん。
お疲れ様です」」」
全員が一斉に頭を下げる。
「よう、お前達。
俺がわざわざここに来た理由がわかるか?」
「申し訳ありません。
要件は何でしょうか?」
半グレのリーダー格の男が答える。
イースバーンはリーダーを見ながら穏やかに話した。
「お前ん所の若い奴が湖にナンパしに行ったらしいな」
「はい。
現在も行っております」
「若いから女遊びもしたいだろ。
あの薬使えば女に腰振らすのも簡単だしな。
だがよ――」
イースバーンが近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
椅子は壁にぶって粉砕された音とイースバーンの怒号が重なる。
「その薬を落とすとはどう言う事だ!!」
半グレ達はビクッとして緊張が走る。
「しかも騎士団に拾われやがって!
騎士団が動き出したぞ!」
イースバーンはリーダーの肩に手を置く。
その手がミシミシと肩に食い込んでいく。
「お前らウチを潰す気か?」
「とんでもありません」
「ならどうやって落とし前付ける?
お前が死ぬか?」
「そ、それは……」
狼狽えるリーダーにイースバーンがまた穏やかに話しかける。
「嫌だよな。
でも、俺達もトカゲの尻尾切りじゃないが騎士団に何かしらの手土産がいるんだよな。
そうしないと軒並みやられちまう。
それはわかるよな?」
「は、はい」
「もちろん替え玉って手が使えないわけでは無い。
だが、お前に替え玉を使う価値があるか?」
「チャンスをください。
なんでもやります」
「なんでも?
なんでもと言ったか?」
「はい」
イースバーンは肩を握っていた手の力を緩めて、何度か叩いた。
「お前は頭が良い。
そして何より運が良い。
今、丁度いい仕事があるんだ。
なかなかピーキーな仕事だが、成功すれば今回の件がチャラになるだけで無く、大出世だって見込める仕事だ。
もちろんやるよな?」
「もちろんです。
是非やらせてください」
「良く言った」
イースバーンはいかにも悪そうにニヤリと笑った。
◇
EMILIはしょんぼりとしていた。
あの後、結局エミリアに一言も話して貰えずにショックを受けていた。
「どうしたの?」
そんな様子を見たスイリアが声をかけた。
「スイリア取締。
実は……」
EMILIがことの顛末を説明するとスイリアは深い溜め息を吐いた。
それを見たEMILIはまた一段とショックを受けた。
「代表に嫌われちゃったかな?」
「そんな事無いわよ」
スイリアは優しい表情でEMILIを見る。
「ねえ、EMILIはウチに来て良かったと思ってる?」
「うん」
「その事でエミリアに感謝してるでしょ?」
「うん」
「エミリアの過去も結構壮絶だったの。
そんな時にお世話になったのがヒカゲさんなの。
彼がいなかったら今のエミリアはいないの。
エミリアにとってヒカゲさんはあなたにとってのエミリアと一緒なのよ」
「うぅ〜
ごめんなさい」
「それは私にじゃないでしょ?」
「うん!
私、ヒカゲ君に謝ってくる!」
「あっ!ちょっと……
もう、仕方ないわね。
まあ、彼は気にして無いでしょうけどね」
スイリアはそう言って走って出て行ったEMILIを見送った。
その走って本社から出て来たEMILIを馬車でつける者達がいた。
イースバーンに締められた半グレ達である。
「本当にやるんですかリーダー?」
「辞めましょうよ」
「エミリア製薬に手を出した者は皆不可解な失踪するって噂ですよ」
「馬鹿野郎。
イースバーンさんの顔見ただろ。
あれは本気だ。
ここでやらなかったら俺達は噂じゃなくて本当に消されるぞ。
そのかわり成功すれば良い思いも出来る。
やるしかねぇだろ」
馬車はゆっくりとEMILIの後ろから距離を縮めて行く。
そして少し追い抜いた所で停止した。
その横をEMILIが通過しようとした瞬間。
半グレ達は一斉に飛び出して、EMILIを捕まえた。
「ん!?
んん!?」
口を抑えられたEMILIが必死に抵抗するが、相手は大の男達。
薬を嗅がされて気絶したEMILIは、僅か20秒ほどで馬車に連れ込まれてそのまま馬車は発車してしまった。
だがすぐに馬の足が止まる。
「おい!何やってる!」
「それが何故か馬が動かないんです」
慌てる半グレ達を他所に馬は腹這いになって俯いた。
まるで何かに怯えるように。
「早く出せ!」
「ダメですリーダー!
馬が言う事聞かないんですよ!」
半グレ達は躍起になって馬車の外に出る。
一歩出た瞬間感じた事の無いような威圧感に萎縮した。
「そこの下衆ども。
その中にいる子を解放しなさい」
馬が怯えて動かなくなる程の威圧感を放ちながらクリファがゆっくりと近づいて行く。
「なんだお前は!」
「私は偶々居合わせただけ」
「ならお前には関係ないだろ!」
「目の前で見てたのに放っておく事など出来ない」
リーダーの舌打ちを合図に半グレ達はクリファに襲いかかる。
クリファが右掌を天に翳すとダブルセイバーが天から回転して落ちて来て右手に収まる。
そのまま半グレ達の間を縫う様に駆け抜けて、一瞬にして全員を切り捨てた。
「怖がらせてごめんね」
クリファは馬にそう言うと馬車との連結用のハーネスを切って破壊する。
自由になった馬は走り去った。
次にダブルセイバーを上空に投げて消すと馬車の中で眠っているEMILIを抱えて外に出ると、周りを見渡した。
「この子どうしよう?」
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