第5話

よくよく考えてみたら、観光地で昼間っから観光って初めてかもしれない。

観光地って人が多いから鬱陶しさが勝っちゃうんだよね。

でも、ルリが楽しそうだからいいとしよう。


「あっ!

あんたは!」


突然女の子が僕を見て声を上げた。

僕がそっちを見ると真っ直ぐ指を刺されている。


……誰だろう?


「おい!コラ!

首を傾げるな!」


女の子がこっちに走って来る。

可愛い子ではある。

だが誰かわからない。


「マスター。

彼女はEMILIです」


ルリが耳元でこっそり教えてくれた。


「まさか私を忘れた訳じゃ無いわよね!」


女の子が僕の前まで来ると睨みつけて来た。


「やあ、EMILI。

久しぶりだね」

「なんだ。

ちゃんと覚えてるじゃない。

紛らわし事するんじゃないわよ」

「まさか〜」


で、EMILIって誰だ?


「なんでこんな所にいるのよ?」

「まあ、色々あってね。

今は観光中」

「1人で?」

「そうだよ」

「他の雑芸団のメンバーは?」


EMILIが周りをキョロキョロ見渡す。

やっぱりルリは見えて無いみたいだ。


「今は一緒に旅してないんだ」


どうやら僕がチャップ雑芸団と旅してた時に会ったらしいな。


「えー!

じゃあヒメコちゃんいないのー!

会いたかったな〜」


なるほどなるほど。

ヒメコのファンなのか。


……ダメだ。

まだ思い出せない。


「それにしても、本当に観光が目的よね?」


EMILIがなんか疑わしそうな目で見て来る。

何を疑う事があるのだろうか?


「もちろんだよ」

「まさか代表に会いに来たとかじゃないよね?」


代表?

代表って誰だ?

何の代表?


「黙り込むって事はやっぱり!!」

「ストップストップ。

違うよ。

本当に観光だってば」


そもそも代表って誰かわからないし。


「マスター。

彼女はエミリアの所のイメージキャラクターをしています」


またルリが耳打ちしてくれた。


ああ、そうだったそうだった。

そう言えば居たね〜

って事は代表ってエミリアの事か。


「ならいいわ。

あんたには助けて貰った事もあるから言いたく無いんだけど……

なんだか嘘っぽいって言うか……

無害そうに振る舞っているけど、何処か胡散臭いのよね」


この子は人を見る目がある。

それもかなり的確だ。


「出来れば代表に合わせたく無い――」

「EMILI」


名前を呼ばれてEMILIが気をつけをした。

そして恐る恐る振り返る。

その視線の先にはドレス姿のエミリアがいた。


「だ、代表!?

どうしてここに?」

「お久しぶりです。


エミリアは深く頭を下げる。


「久しぶりだねエミリア」


相変わらずいい胸をしている。

ドレスの隙間から見える胸の谷間がとにかくエロい。


「それでEMILI。

ヒカゲさんと何の話をしていたの?」

「いえ、その、取り留めない世間話と言いますか……」

「取り留めない世間話で何を焦っているの?」


エミリアがなんだか怖い笑顔でEMILIを見る。

EMILIは小さくなって黙ってしまった。


「まさかとは思うけど、ヒカゲさんに失礼な事言って無いわよね?」

「それは……」

「大丈夫だよ。

別に失礼な事言われて無いよ」


本当の事言ってたのに、これだとあまりに可哀想だから助け舟を出す事にした。


「本当ですか?」

「もちろん。

本当に取り留めない世間話してただけだよ」

「そうですか。

ヒカゲさんがそう言うのでしたら……」


まだ若干納得してないみたいだけど、とりあえずは納めたみたいだ。

だけどまだEMILIは若干しょんぼりしていた。


「それにしても、エミリア製薬は凄く順調みたいだね」

「おかげ様で」

「EMILIのプロモーション力も凄いね」

「はい。

彼女無しでは『エミリア』ブランドはここまで成功して無かったはずです」


それを聞いてEMILIはちょっと嬉しそうな表情に変わった。

まるで褒められて喜ぶ犬みたい。


「あまりお邪魔しても野暮ですので、お暇させて頂きます。

また本社にお越しください。

お待ちしております」


そう言って、また胸の谷間がしっかり見える角度まで頭を下げる。

EMILIもつられて頭を下げた。


その隙にエミリアが魔力で生成したカードをEMILIにバレないように僕に投げた。

僕もバレないようにキャッチしたカードを隠す。


「EMILI。

行きましょうか」

「はい!」


エミリアの後ろを歩くEMILIがこっちを振り向いて両手を合わせながら口パクで「ありがとう」と言っていた。


僕はエミリアから渡されたカードを見る。


『ヒカゲ様

ルリ様


デートをお邪魔して申し訳ありませんでした。

ゆっくり南都をお楽しみください。


ヒカゲ様。

お伺いしたい事がございます。

滞在中に一度お越し頂ければ幸いです』


僕に聞きたい事って何だろう?

後で行ってみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る