第4話
クラネットとレイナはすぐに騎士団南都支部に駆け込んだ。
そして持ち込んだ粉が麻薬だと判明された。
クラネットはすぐに調査部隊を編成するように命じる。
「レイナ。
あんたは休みでしょ。
気にせず休暇を楽しみなさい」
「そんな、私だけ休暇なんて――」
「あのね。
ここはあんたの管轄外なの。
越権行為よ」
「それを言われると……」
「はい、帰った帰った。
ちゃんと事の顛末は報告するから」
「……わかったわよ」
レイナは渋々騎士団南都支部を後にした。
一方その頃。
リリーナも父親のコドラ公爵の元に行っていた。
理由はもちろん男が落とした麻薬の件である。
「そうか……
麻薬か……」
この立地から王都からの目が行き届き難い事からサゴドン公爵の作った製薬会社の拠点となっていた。
普通の薬だけで無く麻薬も作られていた事からそれはもう潤っており、サゴドン公爵の大きな資金源となっていた。
そのおかげで雇用は安定して潤っていた。
だが、その反面麻薬の中毒者も後を経たない状況だった。
しかしヒカゲことナイトメアによってサゴドン公爵は死亡。
それと同時に製薬会社の全てがヒカゲに奪われた。
その詳細までは知らずとも、麻薬の流通元が消えて南部での麻薬中毒者は中々手に入れる事が困難となり使用者も減少傾向になっている事はコドラ公爵も理解していた。
「お父様。
この件に――」
「落ち着きなさいリリーナ」
公爵は優しい声でリリーナの言葉を遮った。
「この件に関してはミーガン公爵に話して進める。
リリーナは気にしなくていい」
「でも――」
「リリーナ。
頼むから危ない事はしないでおくれ。
ここにはヒカゲ君と旅行で来たのだろ?
せっかくの夏休みなんだ。
こっちは私に任せてしっかり思い出を作りなさい」
「……分かりました」
リリーナは納得してはいなかったが渋々頷いて後にした。
その悶々とした気持ちのまま、なんとなく目についた喫茶店に入る。
ふと同じく悶々とした気持ちを抱えたままコーヒーを飲むレイナを見かけた。
「リリーナ様!
先程は失礼しました」
レイナもリリーナに気づいて挨拶をした。
リリーナも一礼してからレイナの前の席に座る。
「気にして無いわよ。
そんな事よりあれは麻薬よね?」
「えーと……」
レイナはリリーナの雰囲気の違いに少し戸惑って言葉を詰まらせた。
「隠さなくてもわかっているわよ」
もちろんリリーナは麻薬など見た事無い。
だから100%の確証は無かった。
つまりハッタリである。
「はい。
そうです」
「騎士団は当然動くのよね?」
「もちろん。
そのはずです」
「そのはず?」
「私は管轄外だから手を出すなとクラネットに言われましたから、詳しい事までは」
「そう……
あなたもなのね。
私もお父様から危ない事はするなと言われたわ」
2人共更に悶々とした気持ちが膨らんで、自然とため息が出る。
「ねえ、あなたはここら辺出身って言ってたわよね?」
「はい。
そうですが」
「じゃあ、ある程度は心当たりあるの?」
「大体察しはついてますが……
それはクラネットもだと思います」
「そうなのね」
リリーナは悪い顔をして立ち上がった。
「じゃあ時間も勿体ないし行くわよ」
「え?
何処に?」
「決まってるじゃない。
聞き込みよ」
「ダメですよ」
「何故?
私はお父様に危ない事するなと言われただけよ。
なら危なく無い事ならいいって事よね?」
「そう言う事では無いと思いますが」
「いいわよ。
あなたが来ないのなら手当たり次第に聞いて周るから。
でもいいの?
私になんかあったら後悔しない?」
リリーナは含みのある笑顔でレイナを見る。
レイナは渋々頷いた。
「そうと決まれば早速武具屋に行きましょ」
「武具屋?
何故ですか?」
「だってあなた非番だから剣持って無いじゃない」
「危ない事しないんですよね?」
「もちろんよ。
でも、自己防衛は大事でしょ?」
そう言ってリリーナは喫茶店を意気揚々と出て行く。
レイナはそれを慌てて追いかけた。
◇
コドラ公爵はミーガン公爵邸へと足を運んだ。
事前にアポを取っていたのでスムーズに応接間に通される。
「ヘイ、Mr.コドラ。
こんな辺境の地まで来てくれてありがとう。
歓迎するよ」
陽気なおじさんであるミーガン公爵がコドラ公爵を迎え入れる。
ミーガン公爵とコドラ公爵は握手をしてから向かい合わせに座った。
「ユーの要件は王位継承の話だよね?
ミーは無駄な時間が嫌いなんだ。
だから単刀直入に話をしよう。
ミーはアポロ王子派だ」
「それは変わるつもりは無いと?」
「ユーも直球でいいね。
やっぱり腹の探り合いは時間の無駄だ。
ミーの答えはノーだ。
変わる可能性は大いにある。
だが今では無い」
「いつかは変わると?」
「ミーは長いものに蒔かれる。
今は南部全体がサゴドン公爵の影響がまだまだ強い。
つまりミーはその系譜に則ってアポロ王子派だ」
「その流れを変えればいいと?」
「その通り。
そこでユーに朗報だ。
今、南部の経済を大きく支えているのは2つ。
エミリア製薬と観光業だ。
特に観光業は今アツい。
外国からの通貨がガンガン流れて来る。
その反面大きな問題もある」
「麻薬の売買」
「流石ユーだ。
しっかり下調べはしているんだな。
正しくその通り。
人の出入りが多いから取り締まりきれていない。
と言うよりそこまで取り締まりに力を入れてもいない」
「何故だ?」
「元々麻薬は南部の大きなビジネスだった。
その為南部には麻薬中毒者が多い。
それを急に無くす事は非常に困難だ。
それに観光業にとっては人の出入りが多い事に越した事は無い。
その理由が良いか悪いかなんて関係の無い事だ」
「だが、それだと未来が暗い」
「その通りだ。
だが、今まで甘い汁を吸って来た老人共は今さえ良ければいい。
逆に次を担う若い世代は未来の為に麻薬を撲滅したい。
そんな確執が生まれている。
この確執を無くす方法は簡単だ。
麻薬を撲滅すればいい。
ミーはエミリア製薬の協力の元、麻薬中毒から抜けれる薬を開発中だ。
これが上手く行けば麻薬中毒者が減り、規制を大きく出来る。
更には次のビジネスにも変わる。
そうすれば若い世代の支持も爆上がりだ。
そこでさっきの朗報って話だ」
「麻薬の撲滅には協力しよう」
コドラ公爵の言葉にミーガン公爵は固まった。
が、すぐに陽気な雰囲気に戻って大笑いをした。
「いや〜。
話が早い事はいい事だ。
よろしく頼むよコドラ公爵」
2人は再び握手をした。
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