第3話

リリーナと別れた後、僕はそそくさと逃げた男共をこっそり追いかける。

そして人気の無い所で声をかけた。


「お兄さん達。

落とし物だよ」


男共はこっちを振り向いて、僕が持っている粉入りの袋を見て目を見開いて驚いたけど平然を取り繕う。


もちろんこの袋は魔力で作った偽物。


「あ、ああ、ありがとう。

助かったよ」

「これお薬?」

「そうなんだ。

ちょっと風邪気味でね」

「ふーん。

お兄さんは風邪気味だと麻薬飲むんだ〜」


三人の顔色が一気に鬼の形相に変わる。


「さっさとそれを寄越せ!」

「これをナンパした女に飲ませるつもりだったの?」

「お前には関係無いだろ!」

「まあね。

お兄さん達がナンパした女をどうしようが僕には関係無いね。

でも、リリーナにこれを飲ませるつもりだった事は許さない」

「許さないんだったらどうだって言うんだ?」

「そんなの決まってるじゃないか。

殺すんだよ」

「はぁ?」


僕は姿を消す。

そして1人の体を僕の左腕が後ろから貫いた。


「「ヒィ〜!?」」


残りの2人が腰を抜かしながらも両手サイドに下がっていく。


貫いた死体を蒸発させてからもう1人に近づいていく。


「もう絡まない。

絶対に絡まないから」

「残念だったね。

人生には取り返しのつく過ちと取り返しのつかない過ちがあるだよ。

まあ、これは取り返しがつく方なんだけどね。

僕以外にだったら」


回し蹴りで首と胴体を切り離す。


「助けてくれー!」


残り1人が走って逃げ出したけど、当然逃がさない。


僕は一瞬で回り込んで立ちはだかる。

またもや腰を抜かしながらも逃げようとするので顔面にアイアンクローを決める。


「助けてくれ。

お願いだ。

助けてくれ」

「無理」


そのまま上に上げて一旦空中に浮いた体を思いっきり地面に叩きつける。

グチャって人体から聞こえてはいけない音が聞こえてピクリとも動かなくなった。


「ルリ」

「はい。

ルリはここにいます」


僕が呼ぶとルリが姿を現した。


「この麻薬って」

「はい。

サゴドン公爵が製造していた麻薬です」

「全部潰したよね?」

「はい。

ですが製造工場を潰しただけなので、既に流通していた分は放置しています」

「あっ、そっか。

それもそうだね」

「現在、その現存数の少なさからかなり高騰してるみたいです。

それに製造方法の資料等はエミリアに譲渡しましたが、それを直接作っていた薬剤師の頭の中には当然残っています。

その中に模倣品を作って荒稼ぎしてる者もいるとか」

「なるほどね〜」

「処分しますか?」

「いいや。

そんな世直しみたいな事は正義がする事だ。

放っときなよ」


僕の身内の不幸になるようなら排除するけどね。


「わかりました」


さて、リリーナもいない事だし遊びにでも――


「マスター。

どちらへ?」

「え?

ちょっとね」

「帰ってお休みですか?」

「いや、ちょっとぶらっとしようかな〜」


言えない。

リリーナのいない内に女を買いに行こうと思ってたなんて言えない。


「私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

「えーと……

それは……」

「そうですよね。

私なんかがご一緒したらご迷惑でしたよね。

申し訳ありません。

つい出来心で……」

「いいよ。

全然いいよ」


言えない。

あんな悲しい顔されたら女買いに行くから着いてきたらダメって言えない。


「本当ですか!

ありがとうございます」


飛び切りキュートな笑顔で返されたからこれで良かったとしよう。



そんな訳で街をぶらっと歩く事にした。

ルリは隣を歩いてついてきている。


流石と言うべきか、シルクハットにミニスカタキシードと言う浮きまくってる格好なのにルリに気付く者は誰もいない。


お腹が空いたのでハンバーガーを二つ買って2人で食べ歩きながら街を見て回った。


観光地だけあって見る物は多い。

あと立地の為か、殆どがホロン王国以外の人達だ。


「そう言えばルリは仕事で来たの?」

「仕事と言えば仕事ですが、調査に参りました」

「調査?」

「はい。

マスターを襲うと言う大罪を犯した龍神が現れた洞窟と同じ物がここにも出現しています」

「そう言えばハヌルが世界中に出来てるって言ってたね」

「はい。

手の空いた者で調査を進めております」

「そうなの?

なんか悪いね」

「いいえ。

ただそんなに調査は進んでおりません。

と言うのも一見すぐに行き止まりになる洞窟でして、中に入った者達の合計魔力が一定を超えると床が崩れて下の道が出来るようになっているまでは突き止めたのですが、その奥にある扉を開く方法がわかりません」

「君達でも分からないとは相当難解なんだね」

「はい。

中には初めから扉が倒れていた物もありまして、その先には何もありませんでした」

「ふーん。

いっそ壊しちゃえば」

「壊せない事も無いと思うのですが、後々の事を考えると解明しておいた方が良いかと」

「それもそうだね」

「マスター。

参考までにお伺いしたいのですが、本当に触っただけで扉が倒れたのですか?」

「そうだよ。

なんの力も入れて無い」

「つまりマスターが触れば開くと言う事ですね。

流石マスターです」

「まっさか〜

そんな事ある訳無いじゃないか〜」


……まさかね。

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