第11話

テロとナイトメアの襲撃によって、トトンアールの言う通り学会は中止となった。


ナイトメアが去った今も騒然としている。

そんな中、ソフィアとネズカンはトトンアールから詳細を聞き終えてからアポロ王子の元に向かった。


戦闘の疲れからか、騎士に用意された椅子に腰掛けているアポロ王子にソフィアは声をかけた。


「アポロ王子。

ご無事ですか?」

「ああ。

助かったぞソフィアギルド協会長」

「ご無事で何よりです。

失礼ながら苦言を呈させて頂いても?」

「構わん」

「コドラ公爵の娘を見殺しにしようとしたそうですね」

「ああ」


アポロ王子は悪びれる様子も無く頷いた。

その仕草にソフィアは少し憤りを感じながらも続けた。


「何故その様な事を?」

「憤りを感じている様だな」

「もちろんです。

その場に居なかった私が言える立場では無いのは重々承知しています。

でも敢えて言わせて貰います。

テロに屈しないと言う姿勢は正しいと思います。

ですが見殺しにしていいとは思えません。

まさかとは思いますが、王位継承争いに邪魔だからとかでは無いですよね?」

「もちろんだ。

そんな――」


突然アポロ王子は黙って考え事を始めた。


「どうかしましたか?」

「……いやすまない。

あの件に関しては非難されても仕方ないかもしれん。

だが、理由もある」

「伺っても?」

「あのテロは何者かが手引きしている可能性が高い。

外は騎士団が固めていたから全員が初めから中にいたからだ。

そして、その者の目的は出された要求以外にもある」

「なんですか?」

「コドラ公爵令嬢の殺害」


その言葉にソフィアとネズカンは息を呑んだ。


「どうしてそれを?」

「初めコドラ公爵令嬢を外に出そうとした。

手紙を渡すのに騎士団が信用する者で無くてはならない。

そして彼女が貴族の中で一番若く未来があるからだ。

だが、それを間髪入れずに拒否された。

若い女は人質としての価値が高いと言う理由で。

それなのに初めに殺すのがコドラ公爵令嬢だった。

それも示し合わせたかの様に前に連れて行かれた。

おかしいとは思わんか?」


アポロ王子の言葉にソフィアとネズカンは顔を見合わせた。

突然陥ったあの状況でそこまでの事を考えていた事に素直に感服した。


「そうなると可能性は二つだ。

このテロの目的にはコドラ公爵令嬢の殺害が含まれている。

もしくはコドラ公爵令嬢が仕組んだ事で、疑われない為の芝居。

だが、助けに来たアークム公爵令息やテロリストの様子。

また、結果的にコドラ公爵令嬢が助けられた事でテロは終わりを迎えた。

その事から前者だと結論付けた。

以上だ。

他に聞きたい事は?」

「いいえ。

アポロ王子のお考えはわかりました。

でも、だからといって見殺しにしていい理由にはならないと思います」

「そうだな」


アポロ王子は素直に頷いてから立ち上がった。


「だが、これを放置すれば更なる犠牲者が増えるかもしれん。

それが今度は国民かもしれない。

それだけは防がなくてはならない。

それが民の上に立つ者の定めだ」


そう言ってアポロ王子は2人に背を向けて歩いて行った。


残されたソフィアは憤りを感じながらも言い返せずに俯いた。


「ねえ、ヴァン。

私間違ってるのかしら?」


そう言うソフィアの頭にそっと手を置いて優しく言う。


「何も間違っていない。

ソフィアはそれでいい。

ただ、アポロ王子には別の正義があった。

それだけだ。

そこから漏れた者を助ける為にギルド協会を作ったお主は何も間違ってなどおらぬよ」


そう言って慰めるネズカンは、ふと胸ポケットに何か入っている事に気づいた。

それを誰にも気付かれぬ様に取り出し、入っていた紫色のカードに書かれた文字を読んだ。


『2度目は無い。

それに長くは待てない。

僕は本気だよ』


読み終えるとカードは蒸発した。



アポロ王子が少し歩いた先で馬車に乗ろうとした所でラドン公爵が声をかけた。


「ご無事でしたかアポロ王子。

本当にご無事で良かった」

「ああ。

問題無い。

所でラドン公爵?」

「はい。

なんでしょうか?」

「疑わしきは罰せず。

それが我が国の原則だ。

わかっているな」

「はい?

もちろんですが……

それが何か?」


突然の事にラドン公爵は不思議そうな顔でアポロ王子を見る。


「わかっているならいい。

証拠が無い事は罰さない。

だがな、逆に証拠があれば容赦はしない。

それが誰であろうと。

そして証拠は見つけようと動けば必ず見つけ出す。

そんな事はわかっているだろ?」

「……はい」

「くだらない事をするな。

俺の目的はホロン王国の国民がより良く暮らせる物にする事だ。

王位継承はその手段にしか過ぎない。

目的と手段を履き違えるな」

「はい。

肝に銘じます」

「ならば下がれ」


ラドン公爵は罰の悪そうに下がって行った。

それを見送ってから馬車に乗り込む。


1人になったアポロ王子はソフィアから向けられた憤りの事を思い出して独り言を呟く。


「奴から感じた殺意とは別の感情。

あれも同じ憤りだった。

だが何故だ?」


アポロ王子は目を瞑り思考を巡らせた。

そしてドーントレスの元首領黄竜が残した紙を思い出す。


「あの女がその結論に辿り着いた理由。

そして今回の憤りの理由。

そして今までに奴が現れた事件。

……なるほどな。

全て繋がった」

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