第10話

僕の刀がアポロを切り裂く。

間違い無く即死レベル。

上等な服が切れて首からチェーンでぶら下げている懐中時計が現れる。

その時計の針が逆向きに周り出す。

その次の瞬間には何事も無かったかの様に元に戻ったアポロの剣が迫っていた。


僕は刀で再び剣を上に弾き飛ばす。

宙を舞う剣が逆再生されるかの如くアポロの手に戻って来て、そのまま振り下ろされた。

僕は後方に跳んで躱してから距離を取る。


「魔導具か」


時間を巻き戻す魔導具?

いや戻っているのはアポロの周辺だけだ。

なんにせよ厄介な魔導具だ。


「こんな物を使わざるをえない事になってしまったのは始めてだがな」

「奥の手と言う事か」

「いいや。

こんな得体の知れない物に命を預ける程信用する事が出来ないだけだ」

「それは同感だな」


アポロは剣と盾を構える。

僕は自然体で対峙する。


アポロを切るのは簡単だ。

だけどあの魔導具は面倒極まり無い。

少し試してみるか。


僕はアポロ目掛けて馳せる。

そのまますれ違い様に剣と盾諸共アポロを真っ二つにする。

案の定逆再生されて元通りになる。


すぐにに刀をジャベリンに持ち替えて投げる。

ジャベリンはアポロを背中から貫いた。


それも逆再生されてジャベリンは抜けて戻って来る。

アポロの身体に空いた風穴も塞がった。


振り向いたアポロは再び剣と盾を構える。


「身体を切られたり穴を開けられたりするのはあまり気持ちのいい物では無いな」

「普通はそれすら感じる前に消してやるんだがな」

「それもそうか。

ならこの感覚を知ることが出来る事に感謝したくてはな」


そう言い終わると同時に一瞬で距離を詰める。

そして持っていたジャベリンで切り付ける。

アポロは盾で受け止めてカウンターで僕を切り裂いた。


当然残像だ。

僕は後ろに回り込んで切り捨てる。

その時懐中時計のチェーンも一緒に切り裂く。


懐中時計が服の間から滑り落ちて地面に落ちる。

だけど、また針が逆回転して元に戻る。

そしてアポロは振り向き様に剣を振るった。


それを躱してかは距離を取って仕切り直した。

はずだったのに目の前にアポロがいる。

そしてアポロの剣はすぐそこまで迫っていた。


『止まれ』


僕の言霊で動きが止まるが一瞬で動き出す。

その一瞬の隙で僕は身体をずらして躱わす。

次の瞬間にはアポロはいない。

僕のすぐ横から切り掛かって来てる。


僕は大きく飛び退いて再び距離を取った。

のに僕よりも速いスピードで迫ってくる。


なんだ?

速いとかとは何かが違う。

アポロの身体の力の流れからしたらありえないスピードだ。

今の状態でこのスピードで動いたら身体がもたないはずだ。


『ひれ伏せ』


アポロは凄いスピードで地面に叩きつけられた。

そのスピードすら異常な速さだ。

少ししてアポロはゆっくりと立ち上がった。

ゆっくりと深呼吸をしてからまた剣と盾を構える。


もう攻めて来ない?

あのスピードで攻め続けたら勝機も見えて来るだろうに。


それにやっぱりおかしい。

僕はスピードを上げて動く時は服とかを魔力で強化している。

そうしないと空気摩擦とかで服が破けるからだ。

それなのにあれだけのスピードで動いているのにも関わらず、衣服にダメージどころか乱れ一つない。


……ああ、そう言う事か。


「ナイトメアよ。

お前に会ったら聞きたいと思っていた事がある」

「なんだ?

冥土の土産に聞いてやる」

「何故それほどの力を持ちながら修羅の道を進む?

道が違えば地位や名声を得るのは容易い」

「そんな物など欲しくは無い。

真っ当な道はな。

俺にとっては眩しすぎるのだよ。

眩しすぎて本当に欲しい物を見失う」

「それは世界の人々に追われてまでも欲しい物なのか?」

「もちろんだ。

それが悪党と言う物。

そして悪党は正義に追われ続ける。

それも悪党と言う物だ」

「正義だ悪だの曖昧な物だ。

見方によって変わる。

そんな物に振り回されていては大局を見失う」

「いいや、違うな。

絶対的な正義は無いかも知れないが、絶対的な悪は存在する。

この俺の様に。

そして――」


僕はジャベリンをリボルバーに持ち変えて銃口を向ける。


「絶対的な悪がいるのならば、絶対的な善も存在する。

いや、しなくてはならない。

そうしなくては善行をした者が損をする事になる。

そうならないような未来を作るのがお前の正義でなければならないのでは無いのか?」

「自らを悪党と言いながら、正義について語るか」

「むしろ逆だよ。

俺は自らを悪党だと自覚しているからこそ正義を語るのだよ」


僕はリボルバーの引き金を引く。

その弾を受け止めようとアポロが前に出した盾を吹き飛ばす。

宙に舞った盾が逆再生されて戻って来るより先にアポロの懐に潜り込む。

そのままリボルバーから持ち替えた刀を振り抜いた。


その時アポロが突如消える。

代わりに現れた何処かの店の立看板を真っ二つにする。

その看板には魔力の籠った御札が貼られていた。


僕は同じ魔力を感じる方を見た。

少し離れたところに同じ御札が貼られたアポロと一緒に、騒ぎを聞きつけたであろうネズカンとソフィアが居た。


これはソフィアの仕業だな。

対になる御札が貼ってある物同士の場所を入れ替えたんだ。


僕はアポロ目掛けて走る。

ソフィアが持っている御札を投げて来る。

その御札から大きな鉄の壁が発生して僕の行く手を阻む。


なるほど。

あらかじめいろんな魔力を込めた御札を用意しているのだろう。


拳で鉄の壁で砕く。

僕がさっき切り裂いた立看板と入れ替わったネズカンに背後から羽交締めにされる。


振り払おうとした僕にネズカンが小声で語りかける。


「待てナイトメア。

何があったかはわからんが、今アポロ王子が死ねば国が荒れる」

「それがどうした?

俺には関係無い」

「アポロ王子が死ねば王位継承争いにルナ王女の対抗馬を立てようと躍起になる者が現れる。

そうなるとお主との約束の障害になりかねんぞ」

「それはお前がなんとかする事だ」

「真っ先に巻き込まれるのはハヌル王子だ。

彼が巻き込まれればどうなるかお主でも分かるだろ?」


ハヌルは王位継承権を放棄している。

それを対抗馬に立てようとすれば、厄介な事になるって事か?

そうなれば否応無くヒナタに飛び火するに決まってる。


「少しだけ待ってやる。

もしお前が約束を果たせないと判断した時、例え国が荒れようともアポロは消す。

そして俺の身内の平穏を脅かす者も1人残らず消し去る。

例えこの国の人口がいくら減る事になっても」


僕はアポロを睨む。

それから魔力を爆発させてネズカンを吹き飛ばす。


ソフィアが投げて来た御札が燃え上がって巨大な火球となった。

それを横に現れたミカンが投げた爆弾とぶつかり爆発して火柱をあげた。


言霊からようやく解放された密偵達が起き上がり始めた。


「潮時だな。

逃げるとするか」

「ん」


ミカンはそう言ってから爆弾を足元に落とす。

その爆発に紛れて僕達は姿をくらませた。

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