第8話
僕は廊下を全速力で馳せる。
もうナイトメアスタイルに変身する時間すら惜しい。
目の前に出て来た扉を超能力で勢い良く開く。
その音で中にいた全員の視線が刺さり、全員が固まった。
この瞬間を逃す訳にはいかない。
僕は剣を振り上げている男に真っ直ぐに向かって行く。
そしてその顔面に拳を叩き込んだ。
吹き飛ぶ男には目もくれず、リリーナを押さえつけている2人の顔面を鷲掴みにする。
「僕の大切なリリーナに汚い手で触れるな!」
2人の頭同士をぶつけるとふらついてリリーナから離れた。
その隙にリリーナを抱き抱えて出口に向かって走る。
「遅くなってごめんね。
リリーナ」
「ううん。
信じてた」
「追え!
あの女は必ず殺せ!」
僕が出た扉からイベントスタッフが数人出て来て追いかけて来る。
僕は追いつかれない程度のスピードで走った。
リリーナを連れ出せた事で僕の中に余裕が生まれた。
あとはこの状況をいかに力を見せずに切り抜けるかだ。
大丈夫だ。
なんたって僕は逃げるのは得意なんだ。
僕は改めて魔力感知で広範囲の状況を確認する。
「やれ」
僕が後にした学会会場でアポロが短く呟いた。
それと同時に身を潜めていた密偵達が一斉に動き出して、目にも留まらぬスピードでテロリスト全員の首に麻酔針を打ち込んで制圧してしまった。
会場に居た殆どの者は突然テロリストが全員倒れたと思ってしまったであろう早業だった。
とりあえずあっちは一旦放置だ。
僕は外の様子も把握して狙いを定める。
「リリーナ。
危ないから目を瞑って出来るだけ体を丸くしててね」
そう言って僕はリリーナに当たらない様に背中から窓を突き破って外に飛び出す。
そのまま背中から着地して地面を滑る。
「トレイン。
助けて」
すぐ近くの窓から僕達が飛び出して来てトレインはビックリしていたけど、後から僕達を追いかけて来てる武装したイベントスタッフ達を見てすぐに僕達の壁になる様に前に出てくれた。
「2人を保護しろ!
残りは俺とテロリストを迎え討つ!」
トレインの命令に近くに居た騎士達が一斉に動き出す。
なんだかんだ言っても、やっぱりトレインは優秀な騎士だ。
「大丈夫?
立てますか?」
保護しに来てくれた女性の騎士2人に起こされた僕達は付き添われて会場から離れる。
安全な所まで移動してからリリーナの拘束を解いてくれた。
それと同時にリリーナが僕に抱きついた。
「信じてた。
ヒカゲが必ず助けに来てくれるって信じてた」
「偶々近くに居ただけだよ」
「私に何かある時は近くに居てくれるのね」
僕はそっとリリーナを離して首筋を見る。
「大変だリリーナ。
怪我してる」
「え?
これ?」
「大変だ。
早く医者に見てもらわないと」
「もう、ヒカゲったら。
心配しなくても大丈夫よ」
そんな事は百も承知だ。
もし何か大きな怪我をしてるならとうの昔に僕が治療している。
だけど僕は敢えて大袈裟に心配してるふりをし続けた。
「大丈夫じゃないよ。
手首も痣が出来てるし」
「なんだかそんなに心配してくれると照れるわ」
「騎士のお姉さん。
早くリリーナを病院に連れて行ってあげて。
なにかあったら大変だよ」
「わかりました。
さあ、行きましょう」
「え?え?
ちょっと待って!?
大丈夫ですから。
本当に大丈夫ですから。
せめてヒカゲも一緒に」
「僕もトレインに説明してから行くから大丈夫だよ。
先に行って治療しないと」
「ちょっと待って。
待ってよ!」
騎士に連れられるようにしてリリーナは馬車に乗せられて病院に向かった。
僕はその馬車を見送る。
「一体何があったのか教えてくれ」
テロリストを制圧したトレインが僕の元に来る。
そのタイミングでトレインの腕輪が光った。
「行かないといけないんじゃないの?」
「話は後で聞くからな。
全員突撃だ!」
そう言って何人かの騎士を引き連れトレインは中に入って行った。
僕はもう一度リリーナの乗った馬車を見送った。
ちゃんと後で病院に迎えに行くよリリーナ。
だけどその前にする事がある。
この先、君を不幸にする可能性がある物は全て排除しないといけない。
僕は残っていた騎士の目を盗んで姿をくらませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます