第6話

僕はイベントスタッフに変装して学会会場に忍び込んだ。

キャップを深く被ってトトンアール様と書かれた控え室の扉をノックする。


「どうぞ」


中から女性の声が聞こえて来てから中に入る。

中には赤紫色の髪のエルフの女性がいた。


「発表内容について少し確認したい事があるんだけど……

いい?」

「はい、構いません。

ただその前に……」


ん?

なにかによってこの部屋だけが隔離された感覚だ。

でもこの力を僕は知らない。


「私は敵ではありません。

むしろ貴殿と目的は同じです」

「僕を閉じ込めといて良く言うよ」

「それは今からの話が外に漏れないようにする為と、自らの命を守る為です。

今、私を殺せば貴殿は一生ここから出る事が出来ません」


確かにこの部屋以外から何も感じられなくなった。

完全に世界と切り離されたみたいだ。

とりあえず話を聞くしか無いみたいだ。


「それで、僕と同じってどう言う事?」

「はい。

改めましてご挨拶を。

私は精霊術師のトトンアール。

貴殿と同じく『精霊術師生産計画』を忌む者です。

シオルグの者の抹殺、『精霊術師生産計画』の記録の破棄、感謝しております」


精霊術師って事はこの隔離も精霊術って事か。

どうりで僕がわからないわけだ。



「何の事?」


僕は変装を解かないまま惚ける。

だけどトトンアールはにこやかに微笑みながら頷いた。


「貴殿が同志ノノンアールを大切にしてくださっている事も聞いております。

心より感謝申し上げます」

「ノノンアールって誰?」

「失礼しました。

私達精霊術師にとってンアールとは友という意味を持ちます。

ですので、初めに友となった精霊の名前と合わせて名乗っております。

私の最初の友となった精霊の名はトトと申します。

ですので、トトンアールと名乗っております。

貴殿の懇意に思っている精霊術師の友がノノと言う名ですのでノノンアールも呼ばせて頂きました。

本名は私は知りませんので誰とはお伝え出来ませんが、心当たりがお有りではありませんか?」


十中八九スミレの事だろうな。

でも、そうなると疑問が出て来る。


「それも精霊に聞いたら分かるんじゃないの?」

「トト達は知っていると思います。

でもそれは教えてはくれません。

精霊達には精霊達の秩序があります」

「なるほどね」

「ですので、貴殿のお名前も分かりません。

私に分かるのは貴殿が同志ノノンアールの為に『精霊術師生産計画』をこの世から消し去ろうとしてくれている事。

そして、その為に私の元に来たと言う事です」

「なら話は早いね。

僕は『精霊術師生産計画』を彼女の耳に入れたく無いんだ。

だから発表させる訳にはいかないんだ」

「資料の中身はご覧になりましたか?」

「見たよ」

「なら何も確信につく事が書いて無かったのも確認頂けたと思います」

「中身なんて関係無いよ。

『精霊術師生産計画』の事が少しでも広がる事を僕は許さない」

「それなら大丈夫です。

私の発表の順番は回って来ません」

「どう言う事?」

「この学会は途中で中止になりますから」


何を言ってるの?

確かにトトンアールの発表の順番は後の方だ。

途中で中止になるなら回って来ないだろう。

だけどなんでそんな事わかるの?


僕は良く分からず首を傾げる。

それを見てトトンアールはにこやかなまま続けた。


「事件が起きます。

ですから学会どころでは無くなります」

「それも精霊が教えてくれたの?」

「はい」

「ならなんでこんな資料を作ったの?」

「『精霊術師生産計画』の名を出して関係者を炙り出す為です」

「まだシオルグの生き残りがいるって事?」


それは大変だ。

絶対見つけ出して消さないと。


「いえ。

シオルグの者は貴殿によって残らず抹殺されています。

ですのでノノンアールの『精霊術師生産計画』に関わった者は消えたでしょう。

ですが『精霊術師生産計画』はシオルグでだけ行われていた物ではありません」

「他の所でも行われていたって事?」

「はい。

元々『精霊術師生産計画』を考えて広めた者がいます。

私はそれを追っています」

「ふーん。

それは精霊は教えてくれないの?」

「精霊は万能ではありませんよ。

ただ自分達が見聞きした物を教えてくれるだけですから」

「なるほどね。

でも、僕は彼女に『精霊術師生産計画』の事が伝わらないなら事が大前提なんだ。

広めた奴なんてどうでもいい」

「新しい被害者が出るとしてもですか?」

「それこそ僕にとっては関係無い事だね。

君がこの方法で探すなら彼女の耳にも入る可能性が上がる。

なら、僕は君を排除する」


まあ、その広めてる奴ってのも排除するけどね。


「私を殺せばここから出る事は出来なくなりますよ」

「殺す以外の方法なんていくらでもあるよ」


僕とトトンアールの間に沈黙が流れる。

少ししてトトンアールが先に視線を逸らした。

そして何かに耳を傾ける様にして頷いた。


「この件に関しては保留としませんか。

貴殿と事を構えるつもりはありません。

でも私にも譲れない物があります。

だからと言ってお互いに妥協点を見つける時間は今はありません」

「僕は妥協する事なんて無い」

「貴殿にはお伝えしたはずです。

この学会で事件が起こります。

それも学会どころでは無くなる程の事件が。

いえ、もう起きていますね」


トトンアールは意味ありげに僕を見つめる。

その言葉の意味を僕はようやく理解した。


僕は振り向いて入り口の扉に拳を叩き込むが、硬い壁によって阻まれる。


完全に失念していた。

こいつの所為で外の様子がわからないんだ。


「無駄ですよ。

いくら貴殿でもこの精霊術を突破することは出来ません。

ここは私の提案を――」


なんか言ってるけど知った事では無い。

僕は全ての力を拳に集める。


『邪魔だ』


計り知れない衝撃と共に壁が砕け散る。

それと同時に外の情報が流れ込んで来る、


僕はそのまま止まる事無く走り出した。

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