第5話

学会の会場には学者と貴族が集っていた。

その中に混じっていたリリーナはある人物の元へと挨拶に伺っていた。


「お会い出来て光栄ですアポロ王子」

「ああ。

コドラ公爵令嬢か。

今日はコドラ公爵の代わりか?」

「はい。

及ばずながら私が代理を務めさせて頂きます」

「なるほどな。

コドラ公爵は南都に行っているから今年は顔を出さないと思っていたが、娘を寄越すとはな。

なかなか信頼されてるな」

「いえ。

まだまだ未熟ですので勉強して来いと言う事だと思います」


リリーナは完璧な笑顔を作り上げるが、心中穏やかでは無かった。


コドラ公爵が南都に出向いてる理由であるミーガン公爵との会合は公にはしていない。


現在ホロン王国の王位継承争いはアポロ王子とルナ王女の一騎討ちとなっている。


情勢はアポロ王子の方が優勢である。

その中でルナ王女派のコドラ公爵が南都統括のミーガン公爵との会合に臨むとなれば理由は明確。


その動きが筒抜けとなればリリーナも面白くは無い。


そんなリリーナの内心など気にする様子も無く話を続ける。


「アークム公爵令息も一緒か?」

「いえ。

彼は一緒に街に来ていますが、学会には顔を出しません」

「まあ、あいつは貴族と言う感じでは無いからな。

弟と妹が世話になってると伝えてくれ」

「はい。

お伝えしておきます」


優雅に礼をして離れるリリーナとすれ違う様にしてラドン公爵がアポロ王子の元に挨拶に行った。


ラドン公爵は中央でコドラ公爵の次に力を持つ公爵だ。

元中央統括のサゴドン公爵との繋がりが強かった為、王国内での影響力ではコドラ公爵よりも広範囲に及ぶ。


アポロ王子派が優勢なのには彼の存在が大きい。


ラドン公爵の後ろ姿をチラ見したリリーナは静かに闘志を燃やしていた。



時を同じくして会場に入って行く人々を外で見ている者が居た。

世界を気ままに旅する男、ネズカンである。


「何ニヤニヤしてるの。

気持ち悪い」


そんなネズカンに声をかけるエルフが居た。

ホロン王国ギルド協会会長のソフィアである。


彼女は知り合いの学者が学会での発表がある為、護衛も兼ねて送り届けて来た所だ。


「なあに。

学会に参加する若い子が増えたなと思ってな」

「本当にそう言って若い女の子ばっかり見てたんじゃないね」

「そう言う意味じゃない。

男女問わず若い力がこれから伸びると思えば未来は明るいと思ってな」

「どうだか」

「で、トトンアールは無事送り届けたのか?」

「ほら、やっぱり。

若い娘にすぐ目移りするのね」

「なんだ?

妬いているのか?」

「ハッ!?ハァー!?

なんで私が妬かないといけないのよ!」

「そう妬くな。

ソフィアは今でも充分綺麗だぞ」


ネズカンはそっとソフィアの肩を抱いた。


「なんなら今からホテルでも行くか?」

「誰があんたと行くか!」


ソフィアはその腕を乱暴に振り解く。


「あんたとって……

もしかして他に一緒に行く相手がいるのか?」

「居ないわよ!

変な言いがかりは辞めてくれる!」

「そうかそうか。

それは良かった。

危うくショックで心臓が止まる所だったぞ」

「そんなヤワな性格してない癖に」

「そんな事は無いぞ。

儂は心はガラスのハートだ。

お主を食事に誘って断られると、とても立ち直れん。

おっと、そう言えばお主の仕事も終わったのだろ?

今から一緒に食事に行ってくれんか?」

「はぁ〜

わかったわよ。

食事ぐらいは付き合ってあげるわ」

「その後は飲みに行かんか?」

「はいはい。

お付き合いしてあげるわ」

「そうかそうか。

では早速行くとしよう」


ネズカンは上機嫌になってソフィアの肩を再び抱いて歩きだす。


「もちろん全部あんたの奢りよね?」

「もちろんだとも。

食事代も酒代もホテル代も全部出すさ」

「ホテル代は遠慮しておくわ」

「遠慮するな。

ベットの上で返してくれればそれでいい」

「割り勘で良いって意味じゃ無いわよ!

そこまでは行かないって意味よ!」


ソフィアはネズカンを睨みつける。

その視線に気付きながらもネズカンは涼しい顔でやり過ごす。

そんな様子に諦めたソフィアが話題を変えた。


「最近やたらと裏で動いてるみたいな」

「何の事だ?」

「惚けても無駄よ。

王位継承争いの件よ」

「ああ、それな」

「どうしたの?

今まで一切関与しなかったのに、ここに来てなんで動き出すなんて、どう言う風の吹き回し?」

「まあ、いろいろあるのだよ」

「まさか、なんか危ない事に巻き込まれてたりしてないわよね?」

「なんだ?

心配してくれてるのか?」

「当たり前じゃない。

心配しないわけ無いでしょ」

「ソフィアが心配するような事は何も無いさ」

「本当でしょうね?」

「各地に行って話をしてるだけだ。

そんな事よりも今は麗しき女性との食事が優先だ」

「ええ。

食事中に余すこと無く話してもらうから」

「おお、怖い怖い」


二人は軽口を叩きながら街へ歩いて行った、

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