第4話

本当になんで居るのかな?

急に現れるんだもんな。


「やあミカン。

久しぶりだね」

「ん」

「……」

「……」


いつも通りの無口。

そして無表情だけどずっと見てられる可愛さ。

でも話は進まない。


「何かよう?」

「ん」


ミカンが僕の入ろうとした店を指差す。


「えーと……

この店がどうしたの?」

「行く?」

「いや、その……

行こうかな〜と……」


なんだろう。

なんか凄い罪悪感が……


「なんで?」

「なんでと言われましても……」


溜まってるからだよ。

でもそんな事言えないじゃん。


「私、変装得意」

「知ってるよ」

「……」

「……」

「主の好みなる?」

「ならなくていいよ」

「……」

「……」

「それ変」

「何が変なの?」

「……」

「……」

「……」


ミカンは僕を見つめながら何か考えてるみたいだ。


「……あの〜

ミカン?」

「やっぱり変」

「なんで?」

「店で探すより早い」

「確かに早いかもしれないけど……」

「お金いらない」

「それはそうかもしれないけど……」

「私で充分」

「いやいやダメだよ」

「主、私嫌い?」

「嫌いじゃないよ」

「なのにダメ?」

「ダメだよ」

「私はいい」

「そう言う問題じゃ無いんだよな〜」

「主、お店行きたい。

でも私使う方が効率いい。

なのにしない?

理解不能」


ミカンは不思議そうに首を傾げる。


そんな純粋な目で見られると僕困っちゃうよ。


「いや……

えーと……

そ、そうだ。

行きたく無くなったんだ」

「いつ?」

「今、たった今」

「だから私使わない?」

「そう、そうなんだよ」

「なるほど。

理解」


ミカンは謎が解けて嬉しいのか微かに笑う。

その笑顔がまた儚く可愛い。


仕方ない。

とりあえず今は我慢しよう。

代わりに美味しい物でも食べるか。


「今からご飯食べに行くけど一緒行く?」

「行く」


ミカンは無表情に戻るも目を輝かせて頷く。


そんな顔されると誘った甲斐あるな〜

お腹空いてたのかな〜

よし、今日は僕がご馳走しちゃうぞ〜



ミカンは基本無口で無表情だ。

それは某国のスパイだった名残だ。

でも分かりにくいだけでよく見ると実は表情豊かなんだ。

今だって美味しいステーキを口に運ぶ度に頬が緩んでいる。


その微かな変化はとても愛くるしく、ずっと見てられる。


「主、なに?」


ミカンが顔を上げて首を傾げる。


「いや。

美味しそうに食べるミカンが可愛いな〜って思って」

「ん」


そう言って再び食べ始めるミカン。

気にして無さそうだけど、照れてさっきより顔の角度がさらに下がったのを僕は見逃さない。


「ミカンは仕事で来たの?」

「ん」

「何か手伝う事ある?」

「んん。

もう終わり」

「終わったの?」

「ん」


そう言ってミカンは机の上に分厚いファイルを出した。

何やら難しそうな事がいっぱい書いてある。


「学会資料の一部」


中身を見ていた僕にミカンが言った。


「学会の資料を書き写して来たの?」

「ん」

「全部?」

「ん」

「一人で?」

「ん」

「凄いね。

さすがミカンだ」

「ん」


ミカンは誇らしげに頷く。


元某国のスパイだけあってこういう情報収集は得意なんだろう。


「全部見ていい?」

「ん」


僕はファイルの中身を流し見していく。


結構面白い研究が発表されるみたいだ。

おや?


僕は一つのタイトルに目が止まった。


『聖教の成り立ちと八英雄の歴史』


中身を軽く読むと僕の知っている歴史が書かれたいる。

最後にはこう締め括られていた。


『同じ過ちを繰り返さない為に正しい歴史を知り、正しい道を進まなくてはならない。

それが今を生きている者の使命である』


なかなかいい事言うね。

やっぱり時代を作るのは善人でないといけない。

少しはロビンの望む方向に向かって行くのかもしれないね。


そういやあいつ元気にしてるのかな?

ん?


僕は再び一つのタイトルで手が止まった。


『精霊術師生産計画について』


この計画を知ってる者がまだ居たのか。


僕はサクッと流し読みする。

中身は僕が消し去った資料に比べたら大した事は何も書いてない。

でもスルーするわけにはいかない。

えーと発表者は……

トトンアールって書いてある。


僕はその資料だけをミカンに気付かれ無いように抜き出した。


「ねえ、ミカン」

「ん?」

「書き写した内容は全部覚えてるの?」

「ん」

「流石ミカン。

優秀だね」

「ん」


ミカンが誇らしげな顔を見せる。


「なら、トトンアールとか言う奴の発表する内容も覚えてる?」

「ん」

「そっか〜

じゃあそれ忘れてよ」

「ん」

「僕との約束ね」

「ん」


ミカンは何も聞かずに素直に頷いた。


さて、これは発表される前に回収しないとな。

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