3章 悪党は刃を向ける事を躊躇しない

第1話

夏休み帰省してから一週間が経とうとしていた。

なかなか色濃い1週間だった。

もう充分だ。

夏休みの思い出は充分。

残りはダラダラゴロゴロして過ごしたい。


その為にはどうしてもやり遂げなくてはならない事がある。

そう、逃走だ。


リリーナと旅行だなんてとんでも無い。

夏休み明けには学園に通わないといけないんだぞ。

これ以上僕の自由な時間を奪わせてなるものか。


あまり早く逃走すると探されてしまう。

ベストは迎えに来た時に、あれ?いないぞ?ってなる事だ。

そのまま諦めて帰るしか無い状況にする事が重要である。


つまり今がベストだ。

逃げるのは得意なんだ。

なんたって元怪盗だからね。

さあ、早速逃げるとしよう。


僕はアークム邸を抜け出して山を目指す。

逃げ先は僕がこの世界に来て初めて作った秘密基地。

あそこで少し身を隠して、ほとぼりが冷めたら戻って来るとしよう。


アークム邸を出て少し歩いたら前方から馬車が走って来た。

気にせずすれ違おうとした時、馬車の窓から声をかけられた。


「あれ?

ヒカゲ君?

何処かお出かけですか?」

「わーい。

アンヌだー。

どうしてここにいるの?」


そう。

僕の大好きな義姉ちゃんのアンヌだ。

今日も可愛いな〜


「はい。

私もヒカゲ君達が来てると聞いて久しぶりに帰省しようと思ったんですよ」

「やったー

僕に会いに来てくれたの?」

「ふふ。

そうですよ」


微笑んでるアンヌ超可愛い。

しかも僕に会いに来てくれたんだって。

アンヌが会いに来てくれるなんて嬉しいな〜


「でもお出かけしてしまうのですか?」

「ちょっと散歩してるだけだよ」

「いいですね。

私も一緒していいですか?」

「やったー

アンヌとデートだー」

「はい。

お散歩デートしましょう」

「わーい」


アンヌが馬車の運転手にお金を渡して降りてきた。


「今日もとっても可愛いね」


思わず声に出しちゃった。


「煽てても何も出ませんよ」

「てへっ、本当に可愛いから言っちゃった」

「もう、ヒカゲ君ったら」


アンヌ可愛い。

可愛い過ぎるから肩抱いちゃおっと。

うわ〜

めっちゃ柔らかい。

凄くいい匂いする。


「ヒカゲ君?」


アンヌが横目で僕を睨む。

ちょっと癖になりそう。


「えへへ〜

可愛いからついやっちゃった〜

……ダメ?」

「しょうがないですね。

今日は許してあげます」

「やったー。

そのまま胸揉んでもいい?」

「ダメです!」

「ちぇ〜」

「エッチなのはめっ!ですよ」

「そのめっ!ってやつ可愛い。

もっとやって〜」

「反省してませんね」

「はーい」

「本当に困った子ですね」

「えへへ〜」


そのダメな子を見る目で見られるの大好き〜



アンヌとのデート楽しいな〜

隣に居てくれるだけで楽しい〜


あれ?

もうこんな時間だ。

楽しい時間ってあっという間にだね。


僕はアンヌと一緒に帰路につく。


「ねえねえアンヌ〜」

「どうしました?」

「アンヌはいつまでいるの?」

「そうですね。

今月いっぱいはゆっくりしようと思っています」

「本当に?

って事は夏休み中居るって事だね」

「そうなりますね」

「やったー。

いっぱいアンヌの着替え覗きに行けるや〜」

「そんな事してはいけません」

「え〜

じゃあお風呂覗くのは?」

「もっとダメです!」

「そんな〜

なら夜這いで我慢するか〜」

「なんで段々エッチな事になるんですか!」

「だってそうしないと間違い起きないじゃないか〜」

「なんで間違いとわかっててやろうとするんですか!」


アンヌが真っ赤にして怒っている。

だけど怒っている顔も超可愛い。


「でもアンヌも長旅で疲れたでしょ?」

「ええ。

まあ、それなりには」

「僕、マッサージ得意だから疲れを癒してあげるよ」

「いりません」

「なんで〜」

「だってヒカゲ君エッチな事しそうですから」

「どこが?」


僕は両手をワキワキして見せる。


「それです!それ!

その卑猥な動き辞めなさい!」

「酷いよ〜

アンヌは僕の事信用して無いんだ〜」


僕がこの世の終わりみたいな表情を見せると、アンヌは凄く慌て出した。


「ち、違いますよ。

私はヒカゲ君の事信用してますよ。

ただ――」

「全身余す事なく揉みほぐしてあげるだけなのに」

「やっぱりエッチな事しようとしてるじゃないですか!」

「アンヌの喘ぎ声想像したら興奮して来た」

「変な事想像してはいけません!」


もうアンヌ可愛いな〜

可愛い過ぎてセクハラするの楽しい〜


「へぇ〜

そんなにマッサージが得意なんだ〜

私も長旅で疲れてるのよね。

もちろん私にもしてくれるよね?」


背後から聞こえる声に僕は固まった。

夏なのに冷たい汗が背中を伝う。


アンヌのセクハラを楽しみ過ぎて気が付かなかった。


僕は恐る恐る後ろを振り返る。


「や、やあリリーナ。

どうしてここに居るの?」

「それはもちろんヒカゲを迎えに来たからよ」

「そ、そうなんだ〜」


しまった。

アンヌとのデートに気を取られ過ぎて完全に忘れてた。


「今日は遅くなったから、一泊してから明日の朝一出発するわよ」

「へぇ〜

行ってらっしゃい」

「はぁ?

ヒカゲも行くのよ」

「ですよね〜」


リリーナが僕の腕をホールドして引っ張る。


まだだ。

まだ逃げるチャンスはあるはずだ。


「じゃあヒカゲの部屋に案内して」

「なんで僕の部屋?」

「今日はヒカゲと同じベットで寝るからよ」

「なんで?」

「なによ。

私にベットで寝るなって言うの?」

「いやいや、普通に客室あるから」

「それはダメよ。

だってあなた逃げる気でしょ」


バレとる。


「逃げられるとは思わない事ね」


飛び切りの笑顔を見せながら僕の部屋に向かって真っ直ぐ進んで行く。

こいつ、僕の部屋知ってやがる。


「その代わり、私の着替えもお風呂も覗いていいからね。

もちろんマッサージの時に全身余す事無く揉んでいいのよ。

喘ぎ声が止まらないぐらい気持ち良くしてくれるのでしょ?」

「そんな事しないよ」

「アンヌさんにはするのになんで私にはしないのよ!」


信じられないぐらい強烈なボディーブローが突き刺さった。

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