第8話

龍神様か何か知らないけど、僕の大切なシンシアを傷つけた事によって僕に消されると言う悪夢のフィナーレ。

その後について少し話をするね。


あれから一晩が経った朝。

僕は清々しい朝を迎えていた。


しかし昨日のあれはなんだったんだろうね。

龍神様とかはどうでもいいけど、あの少女はいい女だったな〜

あの子は悪党かな?

悪党だったらいいな〜

そうだったら心置きなく犯せるのにな〜


僕はベットから立ち上がって伸びをする。


おや?

なんか廊下が騒がしいぞ。


「ヒ〜カ〜ゲ〜」


シンシアの恨めしそうな声が聞こえて来たと矢先、扉が勢いよく開かれてシンシアが入って来た。


「やあシンシア。

おはよ――」


僕が挨拶し終える前にシンシアが僕は胸ぐらを掴んでベットに押し倒された。

馬乗りになったシンシアの顔は何故か真っ赤に染まっている。


「どうしたのシンシア?

朝から元気だね」

「私言ったよね!

私は絶対にダメって言ったよね!」

「えーと……

なんの話?

って苦しい苦しい」


シンシアが思いっきり胸ぐらを締めるからめちゃくちゃ苦しい。


「私も妹だけどダメって言ったよね!」

「だからなんの話?」

「私が……」

「な、なんて?」


なんか顔が更に赤くなるだけで、ゴニョゴニョ言ってて聞こえない。

それよりもとても苦しい。


「私が寝てる間に体拭いて着替えさせたでしょ!」


シンシアが僕を前後に激しく揺らす。


「苦しい苦しい。

ちょっとストップ」

「ご丁寧に下着まで着替えさせたでしょ!」

「待ってって。

なにか勘違いしてない?」

「ヒナタが私を着替えさせるのにヒカゲが手伝ったって言ってたのよ!」

「待って待って。

そんな事して――」

「えー。

お兄ちゃん手伝ってくれたよ」


後ろからヒナタが入って来て僕の言葉を遮った。


「ほら!」


おかしい。

そんな事はしていない。

いや手伝ったと言ったら手伝ったけど、シンシアの部屋まで運んだだけだ。


「落ち着いてよシンシア。

確かに手伝ったよ」

「やっぱり!

どこまで見た!

どこまで触った!」

「だから落ち着いてって。

シンシアが思ってる事はしてないって」

「またまた〜

お兄ちゃん何いってるの?

私1人で出来るわけ無いじゃん」

「そうよ!

ヒナタ1人で出来るわけ無いでしょ!」


なんなんだ?

ヒナタはなんでそんな嘘吐いてるの?

いや、確かにヒナタ1人だと大変だから微妙に嘘では無いんだけど……


「母だよ母。

ヒナタと母でシンシアの体を拭いて着替えさせたの」

「どうしたの?

朝からそんなに騒いで」


丁度いいタイミングで母が開けっぱなしの扉から顔を覗かせた。

助かった。

これで僕の潔白が証明される。


「ほらシンシア聞いてごらんよ」


シンシアは僕の胸ぐらを掴んだまま母の方を向いた。


「そのお義母さん」

「どうしたのシンシア」

「昨日、私の身体を拭いて着替えさせたのってヒナタとお義母さん?」


これで一件落着だね。

あー苦しかった。


「どうだったかしら?」


なんだって?


「最近物忘れが激しいのよね。

歳かしら?

昨日シンシアをおぶったヒカゲがヒナタと部屋に入って行く所を見た所までは覚えているのだけど……」


なんでそこで記憶無くなってるねん。


「ヒ〜カ〜ゲ〜」


シンシアの怒りの低い声が響き渡る。


「観念して答えろ!

どこまで見た!

どこまで触った!

こ〜た〜え〜ろ〜」


僕はガンガンベットに叩きつけられる。


一体何が起きている?

まるでパラレルワールドに入ったみたいだ。


「あらあら?

これは大変ねヒカゲ。

責任取らないといけないかもね」


母のなんだか凄く楽しそうな笑顔が視界の端に映る。


「そうだね。

これはお兄ちゃん責任取らないとだね」


ヒナタも同じ笑顔を見せる。


僕はようやく理解した。

これは母の差金だ。


かねてよりヒナタは僕の第二夫人にしようと画策していた。

この話がずっと残っていると言う事は当然両親も大賛成って事だ。


特に母は超乗り気だった。

母め。

ここに来てヒナタにいらん入れ知恵をしたな。


「そうよヒカゲ!

当然責任取ってくれるのよね!

昨日言った事覚えてるわよね?

全部見たって事は私を妹として見ないって事よね!」

「なにその話?

すっごく気になる」


ヒナタが目を輝かせてこっちを見る。


気にならなくてよろしい。


「だから違うって。

ちょっとは僕の話を聞いてよ〜」



長い戦いの末にようやく誤解は解けた。

疲れた。

朝からとても疲れた。


僕は自室でぐったりしているとハヌルが顔を出した。


「朝から兄妹仲が良いね」

「そう見えた?

ならハヌルも疲れてるんだよ」


僕のため息にハヌルは苦笑いをした。


「それだけ愛されてるって事だよ」

「それは痛い程わかったよ」


物理的にだけどね。


「それでヒカゲ君。

出来れば昨日の事を詳しく教えて欲しいんだけど」


ハヌルは部屋の扉を閉めてから真剣な面持ちで僕の迎えに座った。


「落ちた後の事?」

「そう。

あの穴はどれぐらい深かったんだい?」

「う〜ん。

どうだろう?

良くわからないや」

「かなり深かったんじゃないかい?」

「そうかもしれない」

「なのに2人共無傷で済んだの?」

「下が深い水路になっててね。

そこに落ちたから助かったんだ。

運が良かったよ」

「それでも無傷ってのは……」

「無傷じゃないよ。

僕は背中を痛めたんだよ」

「それは大丈夫なのかい?」

「とっても痛くて泣きそう」


僕は泣き真似して見せる。

ハヌルは心配そうな顔をしていた。


「病院行った方がいいよ」

「あまりにも長引いたら行くよ」

「それで奥に進んだらドラゴンがいたんだって?」

「ああ、いたよ」

「それを君がやっつけたのか?」

「まさか〜

僕より強いシンシアがノックアウトされちゃったんだよ。

僕には無理だよ」

「じゃあどうやったんだい」

「逃げたんだよ」

「逃げた?

じゃあドラゴンは何処に?」

「わかんない。

僕も必死だったからね。

シンシアを担いでそれはもう必死で逃げたよ。

で、気付いたら外にいたの」

「どうやって外に出たかはわからないの?」

「そうなんだよ。

闇雲に逃げたらドラゴンもいなくなってた」


ハヌルが半信半疑の目で僕を見る。

僕はキョトンとした顔で誤魔化す。


「そうなんだね。

何はともあれ無事でよかったよ」

「僕は逃げるのは得意だからね」

「本当に君は得体がしれないよ」

「そう?

ただポンコツなだけだよ」

「まあ、今は君の無事を素直に喜んでおくよ」


ハヌルはそれ以上なにも言わずに僕の部屋から出て行った。


人の記憶とは曖昧な物だ。

現に僕が記憶を奪った間の記憶はそれぞれがなんと無くで補完している。

例え矛盾が生まれても記憶違いで納得してしまうだろう。


でもハヌルは違う。

世界と自分の記憶の矛盾の中で生き体感して来た。

その期間にどこまでの矛盾とぶつかったかは彼にしかわからない。

わからないけどもハヌルは賢い。

遅かれ早かれ真実に辿り着くだろう。

いや、もう辿り着いてるかもしれない。


だって僕が奪った記憶はヒカゲとナイトメアの事だけなのだから。

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