第7話

アークム邸のシンシアの部屋のベットでシンシアは目を覚ました。

見覚えのある天井を見ながら記憶をゆっくりと辿って行く。


外を見るとすっかり暗くなっている。

ベットの脇を見るとヒナタがベットに頭を預けて寝ていた。


「ヒナタ?」


カラカラの喉から微かに言葉が漏れる。

その言葉に反応してヒナタは目を覚まして顔を上げた。


2人の視線が重なる。

するとヒナタの目に涙が浮かんだ。


「シンシアー!!」


ヒナタがシンシアに抱きついて大泣きをした。


「うわーん!

良かった〜

シンシア全然目を覚さないんだも〜ん

良かったよ〜」

「ちょっとヒナタ。

苦しい」

「ごめんねシンシア〜

私が見に行こうとか言ったから〜」

「別にヒナタは悪く無いわよ」

「ごめんなさい〜」

「だから謝らなくていいって。

ほら、もう泣き止んで」


シンシアは泣きじゃくるヒナタをなんとか宥めようとするが、なかなかヒナタは泣き止まない。

少し待ってからシンシアは再び話しかけた。


「ヒカゲは?」

「お兄ちゃん?

お兄ちゃんは無事だよ。

お兄ちゃんがシンシアをおぶって山から降りて来たんだよ」

「あのドラゴンはどうしたの?」

「ドラゴン?

なんの事?」

「ヒカゲは何も言ってなかった?」

「ううん何も。

シンシアとお兄ちゃんが落ちた後、洞窟自体も崩れちゃったの。

だから領民みんなで掘り起こしてたらお兄ちゃんが別の所から降りて来たんだよ。

なんか落ちた先に進んだら出口があったんだって」

「そうなんだ……」


シンシアは自分の記憶をゆっくり整理しながらヒナタの話と照らし合わせていく。

その中での矛盾を感じながらも、いまだに泣き止まないヒナタを前にとりあえず頷く事にした。


「もう、いつまで泣いてるのよ」

「だって〜」

「本当に私はもう大丈夫だから」

「だって、だって。

シンシア全然目を覚さないんだもん。

このまま目を覚さないかと思って」

「そんなに寝てたの?」

「うん。

4時間ぐらい」

「そんなに長く無いじゃない!」

「長いよ。

凄く長かったよ。

死んだように眠ってて、シンシアにもう会えないかと思って悲しくて悲しくて。

そんなの嫌だもん。

私、ずっとずっとシンシアと一緒に居たいもん。

どっかに行っちゃったら嫌だもん」

「わかった。

わかったから苦しいって」


そう言ってヒナタに離れるように促すも、結局離れないヒナタを無理矢理剥がす事無くシンシアも抱きしめた。



過酷な地形により阻まれた人々が踏み入れる事の無い未開の地。

そこには徒歩で行く事は到底不可能である。

そこに竜人達の里がある。


龍神の巫女ことクリファは里に帰るなり元老院に呼び出されていた。


「クリファよ。

何故呼ばれたかはわかっておるな」


クリファは5人の元老院を前に頭を垂れて跪いた。


「はい。

わかっております」

「お前は長き眠りから目を醒まされた龍神様を迎えに行ったのではないのか?」

「はい。

正しくその通りです」

「それが何故1人で帰って来た?」

「申し訳ありません。

龍神様は殺されてしまいました」

「それを防ぐ事が出来なかったのか?」

「申し訳ありません」

「この戯けが!」


元老院の1人のツノから放たれた雷撃がクリファを襲う。


「キャー!!!」


悲鳴をあげるクリファにも容赦無く雷撃を浴びせ続けられる。


「なんの為にお前を仕わせたと思っている」

「申し訳ありません。

申し訳ありません」

「なんの為の巫女だ。

お前は自分の役割をわかっておるのか?」

「わかっております」


雷撃を浴びせられ続けてクリファはその場に倒れ込む。

それでも終わる事は無い。


「その格好はなんだ?

事の重大さをわかっておるのか」

「申し訳ありません。

お許しください」


ようやく雷撃が止む。

クリファは痺れてピクピクと動くだけで起き上がる事が出来ずにいた。


「我々を前に寝ているとはいい度胸だな」

「申し訳ありません」


クリファは痺れる身体をピクピクさせながらも必死に動かして跪く格好へと戻る。


「龍神様を殺したのは何者だ?」

「ナイトメアと名乗っておりました」

「必ず殺せ。

わかったな」

「はい。

わかりました」

「他の龍神様がお目覚めになった時はぬかるなよ」

「はい。

必ずや」

「もう戻ってよいぞ」

「ありがとうございます」


クリファは痺れる身体に鞭を打って元老院の元から離れる。

そのまま少し離れた塒に飛び込むと、耐えきれずに倒れ込んで眠りについた。

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