第5話

服を乾かし終わった僕達は深い縦穴からの脱出は不可能と結論づけて、一本道を奥に進む事にした。


さっきの事もあってか若干気まづい空気が流れる。


「ねえヒカゲ」


気まずさに耐えかねたのか、シンシアが話かけてきた。


「なに?」

「私ね。

卒業したらアークム領に戻ってヒナタを手伝うつもりなんだ」

「そうなんだ。

それはヒナタも喜ぶよ」

「本当にそう思う?」


シンシアは不安そうな顔を僕に向けた。


「もちろんだよ」


僕の言葉にもシンシアは不安そうな顔を辞めない。


「それが当然だと思ってた。

私を拾ってくれた恩返しにだと思ってた。

でもね。

最近思うの。

本当は私って居なくてもいいんじゃないかって」

「そんな事無いよ。

シンシアが居ないとヒナタは悲しむよ」

「それはそうかもしれない。

でもアークム領に戻ったらハヌル王子がいて、使用人がいっぱいいて、近くには両親がいる。

学園とは違う。

寂しさなんて最初だけだと思う」

「そんな事は……」

「出会いもあれば別れもあるって言ったのはヒカゲよ」

「それはそうだけど」

「多分私はヒナタの側に居ても何もしてあげられない」

「ならシンシアは卒業したらどうするの?」


シンシアは少し考えてから首を横に振った。


「わからない。

元々体の弱いお姉ちゃんの為に特待生になっていい暮らしをしようって思ってた。

でも、今やお姉ちゃんは1人で世界中を回ってる。

アークム領に恩返ししようと思ってたけど、私には何も出来ない。

私って誰からも必要とされて無いのかな?」


シンシアの泣きそうな顔を見て僕は思わず抱きしめて頭を撫でた。


「そんな事無いよ。

シンシアは僕にとって大切な妹だよ。

他の代わりなんていない。

世界中のみんながシンシアをいらないって言ったって僕はシンシアが必要だよ」

「本当に?

ヒカゲは私を必要としてくれるの?」

「当たり前だよ。

シンシアがいないと僕は悲しいよ」

「なら私を貰ってくれる?」

「え?」

「第ニ夫人でいいから私を貰ってくれる?」

「いや、ちょっと待ってよ。

それは……」

「やっぱり私の事嫌いなんだ」

「嫌いじゃない。

だって僕は生粋のシスコンだよ」

「でも私を貰ってはくれないんでしょ?」


シンシアが顔を上げて僕の顔をじっと見る。


「それとこれとは関係無いって言うか……

むしろ妹だからダメと言うか……」


僕の困り顔をしていたらシンシアがクスッと笑い出した。


「本気で焦ってやんの」


僕がポカーンとしていたらそれはもう楽しそうな笑顔を見せた。


「なに?

もしかして本気にした?」

「したよ。

本気で焦ったよ」

「ふーん。

実は私も焦ってるんだ」

「何を?」

「ヒカゲが卒業してどっか行く前に第二夫人にして貰わないとね」

「またそうやって揶揄うんだから」

「私は本気よ。

変わる事にも変わらない事にもエネルギーがいるなら、私はヒカゲの妹から変わる事にエネルギーを使うって言ったでしょ。

時間も無いし頑張らないとね」

「そんなの頑張らなくていいよ」

「頑張るわよ。

だってヒカゲが居なくなると寂しいもの」


そう言ってシンシアは僕に背を向けて先を歩いて行った。



少し歩くと行き止まりになっていて大きな扉があった。

シンシアが押しても引いてもピクリともしない。


「他に道が無いんだけど……」


シンシアが困ったように周りを見渡す。

確かに道はこれしか無い。


「どうしようか?

戻って救助待つ?」

「それしか無さそうだね」


仕方ない。

シンシアが寝たタイミングで上まで飛ぶか。

ちょっと不自然だけどなんとか誤魔化そう。


僕はそう考えながら何気なく扉に触れた。

すると何の力も入れてないのに扉が向こう側に倒れた。


パターン!と大きな音が響き渡る。


「ヒカゲ?

何したの?」

「いや。

何もしてないよ」


本当に何もしていない。

軽く触れただけだ。


僕とシンシアは顔を見合わせた。


「とにかく進もうか」

「そうね」


僕達は扉の奥を覗く。

奥は広場になっていて、大きなクリスタルがあった。

僕達が部屋に踏み入れた瞬間クリスタルが輝き出して、真上に飛んで天井を突き破って天の彼方に消えた。

出来た天井の穴から陽の光が差し込む。


「なんだったの?」

「さあ?」


僕達は訳も分からず天井の穴を見上げる。


「あの高さなら脱出出来そうね」


シンシアはそう言って穴に近づいて行く。

ここなら魔力も安定してるから翼も作れるだろう。


クリスタルがあった所から巨大な腕がニョキっと生えた。


「危ない」


僕が駆けつける前にシンシアは後ろに飛び退く。

シンシアが居た所に大きな手が叩きつけられた。


腕の次に這い上がるようにドラゴンの顔が出てくる。

次に大きな翼が地面から出て来て大きく羽ばたいた。

すると地面が盛り上がって巨大なドラゴンが飛び出して、穴のすぐ下を占拠する。

体を震わせて土を篩い落としてから僕らを睨み付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る