第4話

僕は真っ逆さまに落ちる。

視線の先でシンシアが魔力で翼を作ろうとしているが、上手く形にならなくて四苦八苦している。


ここの魔力の流れが不規則過ぎて上手くコントロール出来ないんだ。


僕はスピードを上げてシンシアを抱きしめた。


「ちょっとヒカゲ!

なんであんたまで!?」

「大丈夫だよシンシア。

落ち着いて」


若干パニックになっているシンシアを宥めながら先を確認する。


大きな水路があるみたいだ。


僕は自分が下になるように回転しながら着地点をそこに移す。


「シンシア。

息を大きく吸ってから止めて」


シンシアがいるから力を使う訳にはいかない。

不自然に思われない程度に気力で身体強化をして、魔力で若干の壁を作って背中から水路に落下した。


背中に強烈な痛みが走り肺の空気が一気に吐き出される。

水の流れも結構早い。


僕はシンシアを思いっきり上に押し出す。

なんとかシンシアは水面に上がれたみたいだ。


これで一安心だ。

と思ったら何故かシンシアが潜って来た。


そして流される僕を掴んで岸に引き上げる。

そのまま流れるように僕に人口呼吸をした。


シンシアの柔らかい唇の感覚がする。


「ゲホッ」


肺に溜まった水を吐き出した僕を見てシンシアが安堵のため息を吐いた。


「よかった〜」

「ありがとうシンシア。

助かったよ」


流石の僕も1時間以上呼吸が出来ないと苦しいからね。


「ううん。

私こそ助けてくれてありがとう。

でも、もうこんな無茶はしないで」

「それは無理だね。

僕は何度でも同じ事するよ」


僕は痛む体を無視して起き上がる。


これは骨を何本かやったな。

治療は簡単だけど、シンシアの手前無傷ってのも不自然だしこのままにしとくか。


「ヒカゲ!

動いて大丈夫なの!?」

「なんとかね」

「あんな高くから落ちたのに!?」

「日頃ボコボコにされてるからかな?

下が水だったのもラッキーだったね」


僕は心配するシンシアを他所に立ち上がって周りを見渡した。


落ちて来た縦穴はかなり深く、ここから上がるのは現実的では無いな。

とりあえず暖を取ろう。


打ち上げられている燃える物を集めて焚き火を作って脱いだ服を乾かす。


「シンシアも服を乾かさないと風邪引くよ」

「わかってる」

「なら早く脱がないと」

「……だからね」

「なんて?」

「絶対振り向いたらダメだからって言ったの!

気付けバカ!」

「ああ、なるほどね」


僕は焚き火を見ながら暖を取る。

そんな僕の後ろにシンシアは移動した。


「絶対こっち向いたらダメだからね!」


そう言ってシンシアが服を脱ぐ気配がした。


「ヒカゲ。

目を瞑っててよ」

「わかった」


僕は言われた通り目を瞑る。

パンツ一丁で目を瞑らされてる僕ってさぞ滑稽なんだろうな。


「目を瞑った?」

「瞑ったよ」

「本当に?」

「本当に」

「絶対開けたらダメだからね」

「わかった」

「絶対に絶対ダメだからね」

「わかったってば」


シンシアが焚き火に近づいて服を干すのが気配で分かる。


「まだダメだからね」

「しつこいな〜」

「私が良いって言うまでダメだからね」

「もう、いい加減わかったって。

え?」


シンシアが僕の上に座って背中を預けて来た。

シンシアの柔らかい肌がピッタリと触れる感覚にビックリして思わず目を開ける。


一糸纏わぬ姿で丸くなっているシンシアの姿が焚き火に照らされていた。


「目を開けるなって言ったでしょ!」


シンシアの裏拳が顔面に直撃する。


「痛い」

「早く目を瞑れ!」

「はい。

瞑ったよ」

「薄目を開けたりしてないわよね?」

「してないよ」


シンシアが僕の目の前に三本の指を出す。


「今、指何本出してる」

「三本」


それぐらい目を瞑ってても分かる。


「見えてるじゃない!」


再び裏拳が顔面に炸裂した。


「見てないって。

勘で言ったら当たっただけ」

「本当でしょうね?」

「本当です」


シンシアが僕の顔をジッと覗き込む。


「あの〜シンシア」

「なによ」

「なんでそこに座ったの」

「寒かったから。

ヒカゲにくっついてると暖かいと思って」

「なるほど」

「だから変な意味とか無いからね!

変な気を起こしたらぶっ飛ばすから!」

「わかってるって」

「……」

「……」

「……見たい?」

「なにが?」

「わ、私の事見たい?

い、言っとくけど、決して見て良いって言ってるわけじゃないからね!

絶対ダメだからね!

でも……

ヒカゲは見たいのか気になると言うか……」

「当然見たいね」

「でも、これがお姉ちゃんだったら絶対見てるよね?」

「見てるね。

ガン見してるね」

「私は我慢出来るんだ」

「だってシンシアは殴るでしょ?」

「うん、殴る」

「アンヌはなんだかんだ言って許してくれるからね。

シンシアだと本気で嫌われそうだし」

「なに?

私に嫌われたく無いの?」

「そりゃあね。

僕は生粋のシスコンだからね。

妹に嫌われるのは耐えられないね」

「私がヒカゲを嫌いになる事なんて無いよ」

「なら見ていいの?」

「それは絶対ダメ!

でも……

寒いから抱きしめて欲しい。

あっ!

変な所触ったらダメだからね!」


シンシアは小さく震えていた。

なんでか分からないけど、その震えが寒さから来る震えだけでは無い気がした。


僕は優しく抱きしめると一回ピクってしただけで震えが収まっていた。


「ねえヒカゲ。

もし私をこれからは妹として見れなくなった時は全部見せてもいいから」


シンシアは小さく呟いた。

僕は何も言えずに聞こえないふりをするしか無かった。

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