第3話

ハヌルがアークム邸に来た。

それはもう大歓迎ムードだ。

当のハヌルが若干引いてるぐらいだ。


よく考えたらハヌルとはモグちゃん家から帰って来る馬車以来だ。


あの時ハヌルは特に何か聞く事はなく、ただただ僕がいなかった間の話をしただけだった。


彼はあの魔坑石によって僕の記憶が消えて無かった。

あれは完全に盲点だった。

それなのに何も聞いて来ないとは人間が出来過ぎだよね。


一通りの接待を受けたハヌルは僕の所に避難して来ていた。


「お疲れだね。

あんまり度を越していると思ったら怒っていいんだよ」

「いや。

素直に嬉しいよ。

こんなに歓迎されるとは思っていなかった。

それにしてもヒカゲ君の家族はみんな仲良しだね」

「そうかな?

特別仲良しって訳では無いと思うけどな。

ハヌルの所は違うの?」

「うちはどうしても王位継承の話があるからね。

本人達よりも周りの思惑がね。

それにソウルの件も何もわかっていないから」

「そうなんだ。

で、次期王は決まりそうなの?」

「正気俺はアポロ兄さんだと思っていたよ。

でも、ここ最近ルナの勢力が一気に強まっているからなんとも言えないね」


どうやらネズカンが上手くやっているみたいだ。


「いつ決まるの?」

「それは父さん次第かな。

父さんは早く引退するつもりみたいだけど……

少なくても本格的な王位継承争いはルナが卒業してからだろうね」

「ハヌルはどうするの?」

「俺?

俺はノータッチだよ。

そんな事よりヒナタと結婚出来るかの方がよっぽど重要だよ」


こう言う恥ずかしい事を何気なく言えるのがハヌルの凄い所だね。



翌る日。

ハヌルにアークム領内を案内する事になった。

もちろん案内するのはヒナタだ。


ただヒナタが緊張するとか言うもんだから、ハヌルが僕とシンシアも一緒に行こうと誘って来た。


せっかく2人っきりになれるのにハヌルはヒナタ優先みたいだ。

いい奴過ぎる。


せめてもと思い、僕とシンシアは2人の後ろを歩く事にした。


ヒナタとシンシアの領民人気は相変わらず凄く、みんなが声をかけて来る。

ハヌルも王子でイケメンだけあって大人気だ。


「おい!ヒカゲ!」


僕の足に鈍い痛みが走る。

いつの間にか僕を囲んだクソガキ共の1人が僕に蹴りを入れていた。


「ハヌル王子にコールド負けじゃないか」

「そうだね。

あのイケメンに勝てる所なんて無いよ」

「でも安心してね。

ヒカゲは私がお婿さんにしてあげるから」


ガキの1人が優しく言ってくれた。


「ズルい。

ヒカゲはみんなでシェアって約束でしょ」


勝手にシェアされる事に決まってるらしい。

なんで僕の周りって、僕の事勝手に決める奴が多いんだろう?


「俺達も遊んでやるから心配するなよ」

「ヒカゲはみんなの物だからね」


突然シンシアが僕の腕を引っ張ってガキの包囲網から引き摺り出した。


「どうしたのシンシア?」


あまりの突然の事にガキ共もポカーンとシンシアを見る。

当のシンシアはハッとしたように僕の腕から手を離した。

少しの沈黙が続く。


「「「シンシア様がデレたー!!!」」」


ガキ共が大きな声でハモったから周りの皆がこっちを見る。

シンシアの顔がみるみる赤く染まっていく。


「これがツンデレか!」

「ち、ちがっ」

「初めて本物見た!」

「だから違うっ」

「シンシア様!

凄く乙女の顔だった!」

「そんな顔して無い!」

「シンシア様のデレ可愛い過ぎる!」

「デレて無い!」

「「「シンシア様がデレたってみんなに報告だー!!!」」」

「デレて無いって言ってるでしょ!」

「「「キャー!!!

逃げろー!!!」」」


散り散りに逃げて行くガキ共をシンシアが追いかけて行った。


結局何だったんだろうか?

周りの大人達は「若いっていいわね〜」とか言いながら笑ってるし。


まあ、今日も平和だって事だね。



最後に国境の関所の案内を終えてアークム邸に帰る為に下山していく。


ここもすっかり盗賊が減って平和になっている。


ふとヒナタが山の奥を指刺した。


「あれ何かな?」


僕達はみんなそっちを見る。

そこには石門で囲われた洞窟が口を開けていた。


おかしいな。

こんな所にあんなの無かったはずなのに。


「ここにもか」


ハヌルがポツリと呟いた。


「ハヌルはあれを知ってるの?」

「いや、知ってるって訳では無いんだけど……

大きなる厄災事件の後から世界の各地で出来ているって報告が上がっているんだ」

「調査はしないの?」

「してるさ。

でも、結局何も無いんだ。

すぐ行き止まりになってる」

「ふ〜ん」

「行ってみようよ」

「そうね」


ヒナタとシンシアが颯爽と洞窟に向かう。

僕とハヌルも後ろから追いかけた。


中を覗くとハヌルの言う通りすぐに行き止まりとなった。

特に壁画があるとかでも無い。

ただ魔力の流れが悪く、軽い魔力阻害されてる感じだ。


「何にも無いね」

「そうね」


ヒナタもシンシアもつまらなそうに奥から戻って来た。


その時突然後ろを歩くシンシアの足元が崩れた縦穴が出来る。

ヒナタが慌てて手を伸ばすも空振りに終わりシンシアが縦穴に呑みこまれた。

僕とハヌルも慌てて洞窟に入る。


「シンシア!」


後を追って飛び降りようとしたヒナタの服を掴んで引き戻して、ハヌルに向かって投げた。

その反動で僕は縦穴に落ちる。


「ハヌル。

ヒナタを頼んだよ。

絶対止めててね」


僕はヒナタを受け止めたハヌルにそう言い残して縦穴に落ちて行った。

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