第2話

結局リリーナの水着選びに付き合わされて、帰るのが遅くなってしまった。


僕の気にいるのを見つけるとか言い出すから大変だった。


なにせリリーナは何を来ても美人だからね。

それを言っても満足してくれないから終わらない。


なんかとっても疲れた。

一緒に旅行行くとか言ってだけど、絶対逃げてやる。


「お兄ちゃーん!」


僕が寮の扉を開けた瞬間後ろからヒナタが腰目掛けて飛び付いて来た。

僕は海老反りになりながら前向きに倒れる。


たまに思うんだ。

ヒナタは僕を本気で殺しに来てるんじゃないかって。


「お兄ちゃん。

大変だよ大変」


絶賛僕の方が大変なんだけど。


「ヒナタ。

とりあえずアイスココア淹れてあげるから中に入ろうか」

「うん!

アイスココア飲むー!」


僕はヒナタをソファーに座らせてからアイスココアを淹れてあげた。

ニコニコしながら飲むヒナタが超可愛い。


「お兄ちゃん復学するんだよね?」

「夏休み明けからね」

「また一緒通えるね」

「そうだね」

「えへへ〜」

「それで、どうしたの?」

「あっ!

そうだよお兄ちゃん!

大変だよ!

一大事だよ!」


ヒナタは思い出したかのようにアイスココアを置いた。


「何が一大事なの?」

「夏休みに私達帰省するでしょ?」


私達?

ヒナタとシンシアの事だよね?

僕は入って無いよね?


「ハヌル王子が訪問していいかって……」

「嫌なの?

なら僕が断って来るよ」


ヒナタが嫌って言うなら力づくでも止めるからね。

例えハヌルを消す事になっても。


「違う!

違うよ。

嫌じゃないんだけど……」


ヒナタがモジモジしながら俯いて言う。


「私、緊張しちゃう」

「大丈夫だよ。

ヒナタはいつも通りしてたらいいよ」

「う〜。

でも……」


それにしてもなかなか慣れないな〜

もう2年ぐらいになるのに。


「ねえヒナタ。

何かハヌルに問題あるの?

あるなら僕が文句言って来てあげるよ」

「問題なんてないよ。

ただね……」

「ただ?」

「ハヌル王子優しいんだ。

でも優し過ぎて私が何も返せて無いから気後れしちゃうの」

「ハヌルはありのままのヒナタが好きなんだよ。

見返りなんて求めて無いさ。

だからヒナタは気負わずに思うようにしてたらいいんだよ」

「……うん。

頑張る」

「いやいや。

そこは頑張らなくていいんだよ」

「ん〜

難しい〜」

「考えなくていいんだよ。

ヒナタはいつも通りでいれば可愛いんだから」

「えへへ〜

お兄ちゃんに可愛いって言われた〜」


ニコニコしながらココアを飲むヒナタは間違いなく可愛い。


「なんかお兄ちゃんと喋ってたらいけそうな気がして来た」

「その調子だよ」

「うん。

じゃあお兄ちゃん。

夏休み初日に迎えに来るね」

「待て待て待て」


ココアを飲み終えて帰ろうとするヒナタを慌てて止めた。


「どうしたの?」

「迎えに来るってなんで?」

「え?

一緒に帰省するからだよ」

「僕も?」

「そうだよ」

「僕はしないよ」

「えー!

そんなの嫌だ!」

「嫌だと言われても、僕にも予定って物が……」

「あっ!

大丈夫だよ。

リリーナ義姉ちゃんとの旅行のお迎えは来てくれるよ」

「その予定の話じゃなくて、いやそれもなんだけど、僕は帰省するなんて知らないよ」

「だって今言ったもん」

「なんで事前に言わないの?」

「だってお兄ちゃん、事前に言ったら逃げるもん」


確かに。

完全論破された。


「じゃあ、そう言う事だから迎えに来るね」

「いや、だから――」

「迎えに来てお兄ちゃんいなかったら私泣いちゃうよ」


ヒナタが今にも泣きそうな顔をした。


「大丈夫だよ。

ちゃんと待ってるよ」

「うん!

じゃあまたねお兄ちゃん!」


ヒナタは一瞬で笑顔に戻って帰って行った。



仕方ない。

これは仕方ないんだ。

だってヒナタが泣いちゃうとか言うんだもん。

それは許されない事だ。


僕は自分に言い聞かせて帰省する事にした。


なんかこのパターンデジャブだ。


帰省するとアークム邸はハヌルが来るからとてんてこ舞い。


王位継承権を放棄してると言え王族には変わり無いから仕方ない事だ。

まさかこんなど田舎に来る事になるとは思ってもいなかっただろう。


僕に手伝える事は無いから部屋でゴロゴロしてる事にした。


「ねえヒカゲ」


シンシアが僕の部屋を訪ねて来た。

いつも通りボーイッシュな格好をしてるけど、今日は何故かちょっとオシャレだ。


「どうしたの?」

「買い出し行くんだけど、荷物多くなりそうだから手伝ってくれない?」

「いいよ」


僕が快諾してベットから立ち上がるとシンシアは少しホッとしたように笑顔を見せた。


そのままシンシアと2人で買い出しに向かう。


「卒業したらヒナタはこのアークム領を継ぐんだよね?」


シンシアが徐に言い出した。


「そうだね。

ヒナタもそのつもりみたいだよ。

父はここをヒナタに継いだら西都に拠点を移すらしいよ」

「そうなるとハヌル王子と結婚するんだよね」

「どうだろう?

ハヌルはヒナタがその気になるまで待つって言ってたからヒナタ次第だね。

どうしたの?

もしかしてシンシアは反対?」


なにかハヌルに落ち度があるのか?

もし何かあるならヒナタが悲しむ前にハヌルを消さないと。


「そんな事無いわよ。

たださ。

もうすぐ卒業で急に現実味が出て来たの。

まだまだ遠い未来の事だと思っていたのに」

「時が流れるのって早いからね」

「ヒカゲは卒業したらリリーナさんと結婚してコドラ家に入るの?」

「その気は全然無いよ」

「ならどうするの?」


シンシアが真剣な面持ちで僕を見る。

なんか適当に誤魔化してはいけない気がした。


「僕は旅に出るつもりだよ」

「またチャップ雑芸団と一緒に?」

「いや。

一人旅だね」

「それって行かないといけないの?」

「そう言う訳じゃないけど……

僕は自由が好きだから」

「……そうなんだ」


シンシアは何かを言いたそうにしてたけど、結局それ以降は他愛のない話しかしなかった。

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