2章 悪党は帰還しても変わらない

第1話

ホロン王国は初夏の日差しが降り注ぐいい天気だ。


僕はこんないい天気なのに魔法剣士学園に来ていた。


チャップ雑芸団がしばらくホロン王国に来る予定が無い為、復学しないといけなくなったからである。


心の底から勘弁して欲しいのだけど、どうしようもない。

夏休み明けからで許して貰えるだけいいとしよう。


「「「見つけたよアークム君!!!」」」


手続きだけ済ませたから帰ろうとしたのに、三人娘に捕まってしまった。


彼女達は僕の一応の婚約者のリリーナのお友達。

リリーナの事が大好きだから僕をリリーナとくっ付けようと必死。


でも、僕みたいな悪党と一緒にならない方がいいと気付いた方がいい。


「何処に行く気なのかなアークム君」

「聞かせて貰おうかなアークム君」

「まさかとは思うけど帰ろうとしてるんじゃないよねアークム君」

「え?

帰るんだよ」

「「「帰ったらダメでしょアークム君!!!」」」


三人娘に囲まれてポカポカ殴られた。

なにこれ?

いじめ?


「なんでリリーナちゃんを待たないの!」

「今日はリリーナちゃんとお買い物行くんでしょ!」

「約束すっぽかすなんていけないよ!」

「約束?

そんなのしてないよ」


三人娘はそれは大きな大きなため息を吐いた。


「リリーナちゃんあんなに楽しみにしてたのに」

「でも少し用事があるから待っててくれるか心配って言ってたんだよ」

「まさか約束自体忘れてるなんて」


賭けてもいい。

絶対に約束なんてしていない。

そもそも今日学園に来る事すら言っていない。


「さっき廊下からアークム君が入って来るの見えた時は凄く乙女の顔してたんだよ」

「アークム君からデートに誘うなんて、成長を喜んでいたのに」

「まさかまさかの上げてから落とすなんて酷すぎる」


読めたぞ。

リリーナの奴。

僕を見つけたから、勝手にデートの約束をしたって事にしやがったな。

しかもよりにもよって僕からデート誘ったみたいになってるし。


相変わらずの腹黒さ。

僕を見た瞬間にここまでの筋書きを考えたのなら、もはや僕を貶める天才と言えよう。


「お待たせヒカゲ」


僕が関心している間にリリーナが現れて僕の腕に自分の腕を絡めてくる。


「別に待ってたわけじゃ――」


絡めた腕に関節を決めらて痛い。

さっきと変わらぬ笑顔なのが逆に怖い。


「「「リリーナちゃんまたね〜」」」


三人娘はリリーナに手を振りながら走り去って行った。


まるで私達の役割は足止めだけだと言わんばかりの潔さである。


「行きましょうヒカゲ」

「行かないよ」

「なんでよ!」


リリーナの強烈なボディーブローが僕の腹にめり込む。


「痛いじゃないか〜」

「自分からデートに誘っといて断るとかどう言うつもり?」

「待て待て待て。

僕は誘ってない」

「は?

私をデートに誘う以外の理由で学園に来る理由があるわけないじゃない」

「あるよ」


またもやボディーブローが炸裂した。


「なによ。

言ってみなさい。

一応聞いてあげるわ」

「殴らなくても良くない?」

「もう一発欲しいの?

ヒカゲって欲しがりね」

「いらないいらない。

僕は復学の手続きに来たの」

「え!?

復学するの!?」

「夏休み明けからね」

「ふーん……

復学するんだ〜

へ〜」


リリーナは指で毛先を弄りながらニヤニヤしだした。


「どうしたの?

そんな気持ち悪い笑い方して?

って痛い痛い痛い。

僕の腕はそっちに曲がらないって」

「今日は何処にデートに行くの?」

「何処にも行かない」


ボディーブローが再び突き刺さる。


「もう一回チャンスをあげるわ」

「いや、もう殴られてるよ」

「いらないの?」

「いります。

すっごく欲しいです」


こいつ。

これ見よがしに拳を見せて来やがった。


「で?

何処にデート行くの?」


僕は飛び切りの笑顔で答えた。


「行かないよ」


リリーナは飛び切りの笑顔で僕にボディーブローを入れる。


「今日はお家デートなのね。

そんなに私をヒカゲの家に連れ込みたいの?

もう仕方ないわね」

「誰もそんな事は言って無い」

「どんな事しようと思ってるのかな?」

「大人しく帰ってくれないかな〜って思ってる」

「なんでよ!」


今日は良くボディーブローが飛んでくるな〜

元気で何よりだ。


「決めたわ。

今日は夏休みに湖に遊びに行くための水着を買いに行きましょう」

「湖に遊びに行くの?」

「そうよ。

お父様が南部統括のミーガン公爵との会合があるから一緒に行くのよ」

「ヘえ〜

そうなんだ〜

行ってらっしゃい」

「何言ってるの?

ヒカゲも行くのよ」

「え?

僕も?

なんで?」

「だって夏休みなのよ。

私と旅行するに決まってるでしょ?」

「そんなの聞いて無いよ」

「大丈夫よ。

お金は全部お父様が出してくれるわ」

「そこの心配とかじゃなくて、僕にも予定ってものが――」

「私と一緒にいる事よりも大切な予定なんて無いわよ」

「いやあるよ」

「無いわ」

「あるって」

「私が無いって言ったら無いのよ!」


僕の反論はボディーブローによって完封されてしまった。

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