第7話

僕と言う悪党の存在がせっかく消え去っていたのに、元に戻ってしまうと言う悪夢のフィナーレ。

その後について少し話をするね。


記憶を隔離していたアメジストが砕けてスミレが僕を見上げる。

スミレの超絶美人の顔と真っ直ぐ見つめ合う。

時が止まったようだ。


ふとスミレの表情が緩んだ。

次の瞬間、スミレに抱き付かれていた。

そして沈黙がこの場を支配する。


「えーと……

スミレさん?」

「捕まえた」


耳元でスミレがそう言って抱きしめる力が更に強くなった。

それによって柔らかい物が更に感じられる。


「その……

当たってますよ」

「もう、絶対に逃がさない」

「思い出しちゃった?」


スミレが僕の肩の上で頷いた。


あちゃ〜

仕方ない。

もう一度。


「何度やっても絶対に見つけてみせるから」


僕がスミレの頭に手を当てようとしたら言われた。


「私はあなたと同じ悪党だから。

欲しい物に妥協しないから。

世界を越えて探しに行くわ。

例えあなたが拒絶しようとも」

「そっか。

なら僕がやった事は無駄だったね」

「いいえ。

無駄じゃないわよ」

「え?」

「だって本気で姿を眩ませたあなたを見つけたらなんでも言う事聞いてくれるって言ったでしょ?」

「そんな事言ったっけ?」

「言ったわ。

間違いなく。

そして私は本気で逃げていたあなたを見つけたわ。

だから」


スミレは僕の耳元で甘い吐息のような声で囁く。


「なんでも言う事聞いてくれるわよね?」


エッロ。

思考が一瞬吹っ飛びそうになったよ。

危なかった〜

発散してなかったら危ない所だったよ。


「返事は?」

「なんでもとは言ったかもしれないけど、あんまり難しい事は――」

「ダメよ。

だって約束だもの」

「約束はしたよ。

でも出来れば――」

「ダーメ♡」


ヤバイヤバイ。

エロいエロい。


「わかった。

わかったよ。

だから一旦離れようか」

「どうして?

また逃げる気?」

「違うよ。

そうじゃない。

そうじゃないけど、色々当たってて――」

「何処が当たっても完璧な体でしょ?」

「そうだよ。

そうだから困るんだって」

「ど・う・し・て?」

「わかってるよね?

わかってて言ってるよね?」

「さーて、どんなお願い聞いて貰おうかしら?」

「お手柔らかにお願いしたいな〜」

「嫌よ。

絶対に嫌。

ヒカゲがとても困るお願いするって決めてるの。

そうね……

今すぐ私を抱いて」

「いや、あの、それは……」

「なに?

私じゃ不満?」

「とんでもない。

でも……」


僕がしどろもどろしてたらスミレは笑った。


「冗談よ。

それは自力であなたの理性を破壊するから覚悟しててね」


そう言ってスミレはようやく僕から離れた。

そして見せる挑戦的な笑顔がとても魅力的だ。


「帰りましょ」


こうなってしまったら仕方ないか。


「そうだね。

帰ろうか」



スミレと一緒に縦穴を目指す間、スミレは僕の腕に抱きついて放してくれない。


「ねえ、スミレ」

「何?」

「飛んで行った方が早く無い?」

「早いわね」

「なのになんで歩いて帰るの?」

「いいじゃない。

風情があって。

それに」

「それに?」


スミレが耳元まで唇を近づけて囁く。


「帰ったらヒカゲを独り占め出来ないでしょ?」


その吐息に心臓が跳ね上がる。

少し離れようとしたらホールドされて逃がしてくれない。


「なんで逃げようとするのかしら?」

「だって心臓に悪いんだもん」

「そんなに気になる?」

「なるよ。

だってスミレだよ」

「そうよね。

でも逃げるのはダメよ。

ヒカゲの理性を壊す戦いはもう始まってるから。

どうせもう誰か犯したんでしょ?」

「……」

「どうなの?」

「……はい」

「楽しかった?」

「……はい」

「次は絶対させないから」

「えー」

「そう言えば、まだお願い言って無かったわね」

「今?

このタイミングで?

すっごく怖いんだけど……」

「フフフ」


スミレは楽しそうに笑う。

それはもう楽しそうに。


「一生私を見ててね。

絶対にヒカゲに追いつくから。

そして、これからもっといい女になるから。

逃げないでね」

「わかったよ」


その返事に満足したのか鼻歌を歌い出した。

そのまま縦穴を飛び降りる。


そこはモグちゃんの部屋。

こんなにすぐに帰って来るとは思わなかったな。


「やあ、アクムの兄ちゃん。

おかえり。

また会えて嬉しいよ」

「モグちゃんでしょ?

この道教えたの」

「オラも命が惜しいからね」

「よく言うよ」


僕はため息を吐いてグルグル巻きに縛られたモグちゃんを見下ろした。


「それにしても、モグちゃんにそんな性癖があったなんて知らなかったよ」

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