第6話

僕はビンタされた頬に触れながらスミレの背中を見ていた。


って惚けてる場合じゃない。

追いかけなきゃ。


すぐにスミレの背中を追いかける。


追いついた僕が肩を掴もうと手を伸ばしたら、振り向き様に剣を振り抜かれたから慌てて手を引っ込める。


こちらを向いたスミレの潤んだ瞳を見てまた怯む。


「泣かないでよ」

「泣いてないって

言ってるでしょ!」


スミレの周りに剣が生成されたと同時に迫り来る。

それを躱してる間にスミレはまた館に向かう。


そして、遂にスミレは館の壁をぶち破って入って行った。

迷う事無く宝物庫に入ったのは流石だ。


僕も急いで後を追って館に入る。


仕方ないね。

こんなったら好きなのあげよう。


スミレは迷う事無く一点を見つめて突き進んだ。


ヤバイ。

それはマズイ。


「それはダメ」


僕は回り込んで1番奥に飾っておいたアメジストを回収した。

アメジストがあった所にスミレの剣が突き刺さる。


危なかった。

これを壊されるとみんなの記憶が戻っちゃう所だったよ。


「これだけはダメ。

ってなんで?」


再びスミレの剣がアメジストを狙って来る。

僕は片手にアメジスト持ちながら避け続ける。


「なんで?

なんで?

これ以外ならなんでもあげるよ。

だからストップ」

「それが私のモヤモヤの原因なのよ」

「えー、意味わかんないよ」

「私だってわからない!

わからないけど!

でもそれを破壊したら全てはっきりするの!」


スミレは叫びながら剣を振るう。

剣は確実にアメジストを狙っていた。


「そんな事無いと思うよ。

とりあえず落ち着いて周りを見てみなよ。

お宝がいっぱいあるよ」

「そんなの今はどうでもいい!」


僕はアメジストを持ったままスミレの開けた穴から外に飛び出した。

その後をすぐにスミレが追いかけて来る。


「待ちなさい!」

「待てないよ」

「いいからそのアメジストを寄越しなさい」

「これだけはダメなんだって」


さっきと構図は逆となって僕が逃げる。

その後をスミレがピタッとついて来る。


『待ちなさいって言ってるでしょ!』


言霊が僕を襲うけど待つわけにはいかない。


「本当にこれだけは無理なの」

『待ってよ』

「他はなんでもあげるから。

ね?」

『お願い。

逃げないで』


言霊よりもスミレの泣き顔の方が心を抉って来る。


『お願い!

お願いだから!

私を置いて行かないで!!』


その叫び声にも似た言霊が重くのしかかって、僕の足が止まる。

追いついたスミレの剣がアメジストを狙う。


僕はアメジストをずらして紙一重で躱した。


僕とスミレの瞳が真正面から交差する。

潤んだ瞳が僕に何かを訴えているようだ。


ごめんねスミレ。

そんな目で見られてもダメな物はダメなんだ。


「逃げてるわけだから置いて行くとか行かないとか言う問題じゃないと思うんだけど?」

「わからないわよ!

勝手に口から出たの!」


珍しくスミレが取り乱している。

振るわれる剣筋も荒い。

こんなスミレを見るのは初めてだ。


アメジストを狙う剣にも震えが伝わってる。

そんな状態でもスミレは攻撃を止めない。


「もう辞めようよ。

そんな辛そうなの見てられないよ」

「ここで辞めてもこのモヤモヤは収まらないの!」

「気にしない方がいいよ。

きっとその内忘れるから」


僕の言葉にスミレの動きが突然止まった。

そして僕の顔を真っ直ぐに見る。

その瞳から涙が溢れ落ちる。


「ちょ、ちょ、なんで泣くの?」


僕は突然涙を流したスミレにあたふたしてしまった。


「この気持ちを気にしないでいるなんて出来ない。

あなたを見る前なら出来たかもしれないけど、もう後戻りは出来ないの。

教えてよ。

どうしてこんな気持ちになるの?

もう訳がわからない」


スミレは遂に蹲って泣き出してしまった。


どうしよう、どうしよう?

こう言う時ってどうしたらいいの?

誰か教えてよ。


「と、とりあえず落ち着こうね。

お願いだから泣かないでよ。

君は超絶美人なんだからさ。

笑っている方が似合うよ。

君が泣いてると僕も悲しい」


僕はとりあえず蹲ってしまったスミレに近づく。


その時突然手からアメジストが溢れ落ちた。

本当に不思議だ。

何かに弾き落とされた感覚だ。


あまりに予想外の事に一瞬対応が遅れた。

逆にスミレはわかっていたみたいに素早く剣を突き出す。


「ありがとうノノ」


誰かにお礼を言ったスミレの声とアメジストが砕ける音は同時だった。

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