第5話

えーと……

とりあえず状況を整理しよう。


まず僕の目の前にいるのはスミレで間違い無い。

信じられない事だが、これは事実として認めよう。

そうしないと話が進まない。


ではここは異世界なのか?

否、ここは僕の元いた世界で間違い無い。


となるとスミレがこっちに来たって事?

どうやって?

……いや、それはモグちゃんの家からだろう。


でも、なんで?

うーん……

ダメだ。

スミレの剣を捌きながらじゃそこまで考える余裕が無い。

焼き鳥の串もそろそろ限界だし。


僕は折れてしまった焼き鳥の串を蒸発させて、新しい焼き鳥を頬張って新調する。


「答えなさい!

あなたは一体誰?

私のなに!」

「ほひはへぶほひふひはほ」


焼き鳥を一気に頬張ったから上手く喋れない。


「何言ってるかわからない!」


でしょうね。

僕は焼き鳥をゴックンしてから同じ事を言う。


「とりあえず落ち着きなよ」

「あなたを見てると落ち着かないのよ!」

「それは困ったな〜」


とりあえず記憶は戻って無いみたい。


スミレの剣を捌いてから懐に潜り込んで焼き鳥をスミレの口に放り込む。


「これでも食べなよ。

美味しい物食べたら落ち着くよ」

「はひふふほほ!」


落ち着くどころかスピードが上がっちゃった剣を避けて大きく距離をとる。


でも焼き鳥は気に入ったみたい。

捨てないで食べてる。


「ね、美味しいでしょ?」

「ええ。

確かに美味しいわ。

でも――」


スミレが食べ終わった串を投げて来た。

僕が避けると魔力で強化された串は僕の後ろの木に風穴を開けた。


「そんな事より、あなたは何者か答えて!」


そりゃそうだよね。


僕は突撃して来たスミレを跳んで躱わす。


「僕は何処にでもいる普通の男の子だよ」

「そんな訳無い!」

「そんな訳あるよ。

君みたいな美人な子が気にするような奴じゃないよ」

「普通の男の子が――」


思いっきり振り抜かれたスミレの剣を串で止める。


「私の剣を止められるはずが無いわ!」

「あ〜、それはそうか。

じゃあ何処にでもいる普通じゃない男の子ってのはダメ?」

『ふざけないで答えなさい!』


スミレの言霊が僕を襲う。

でも僕には効かないよ。


「ふざけてるつもりは無いんだけどな〜」


スミレが鋭い眼光で睨む。

その時ぶつかり合った魔力が爆発した。


僕は勢いに任せて軽く飛ばされてから着地する。

スミレの方を見ると、大量に生成された剣が超能力によって浮遊している。


もちろん剣先は全て僕に向けられて。


「魔力は私以上。

気力の使い方も上。

霊力は効かない。

信じられない。

信じられないのに何故か納得してしまう。

あなたになら勝てなくても当然と思ってしまう。

本当にあなたはなんなの?」

「なんなのと言われてもな〜」


連続で飛んでくる剣を山を駆け抜けて避ける。

スミレは次から次へと生成してるから終わらない。


どうしたものか?

あまり力を見せ過ぎると記憶を刺激しそうだけど、言うほど余裕がある訳では無いんだよね。

とりあえず焼き鳥の串で応戦だな。


「ノノ?

あっちに何かあるの?」


なんかスミレが誰かと話し始めたと思ったら、なんか遠くを見つめた。


あの方角は僕が寝泊まりしてる館の方角だけど……


「わかったわ」


スミレがそう呟いて館に向かって馳せた。

僕は剣を潜り抜けながら慌てて追いかける。


「ちょっとストップ。

そっちはダメだって」


追いついて手を伸ばした手を斬られそうになったから引っ込める。


「待ってってば。

焼き鳥あげるからさ」


僕は飛んで来る剣を潜り抜けてスミレの前に回り込んで顔の前に焼き鳥の袋を突き出す。


これで止まって――

ダメだ。

全然止まってくれない。

それどころか斬られそうになったから回避する。


おかしい。

顔の近くまで持って行ってるからいい匂いしてるはずなのに。


「ねえねえ。

焼き鳥おいしいよ。

危なっ」


今度は近づいただけで問答無用で斬りかかってくるだもんな〜

困ったな〜

手荒な事して怪我でもしたら大変なんだけど……


仕方ない。

少し手荒な事なっても止めないとな。


僕はスミレが超能力で操っている剣のコントロールを超能力で上書きして、スミレの前に壁になるように整列させた。


「そんな!?

超能力まで私の上だって言うの!?」


チャンスだ。


僕は串が刺さらないように超能力で細心の注意を払いながら、焼き鳥を数本スミレの口目掛けて投げる。

口の塞がったスミレの後ろに回り込んで羽交締めにした。


わあ〜

柔らかくていい匂いがする〜

っと危ない危ない。

今はそれどころじゃ無い。


焼き鳥の袋を超能力でスミレの顔の前まで持って来る。


「ちょっと落ち着こうよ。

ね?」

「ははひははひ」

「串刺したまま喋ったら危ないよ。

暴れるのも危ないってば。

もう、仕方ないな」


僕は暴れるスミレの超能力で串だけを抜いた。

スミレはすぐにモグモグしてゴックンしてから口を開く。


「離しなさい!」

「暴れない?」

「いいから離しなさい!」

「暴れないならいいよ」

「黙って離してよ!

あなたの声を聞く度に何故か心が締め付けられるの!」


スミレはそれはもうとっても暴れて、なんとか拘束をとこうと必死だ。


「暴れたらダメだって」

「黙ってって言ってるでしょ!」

「とりあえず、おかわりあげるからさ」


超能力で焼き鳥をスミレの開いた口の中に放り込む。

スミレはまたモグモグしてからゴックンした。


「ちょっとは落ち着いた?」

「なんなのよ。

離して欲しいはずなのに触れていたい。

黙ってて欲しいのに声を聞いていたい。

本当にあなたはなんなのよ」


え?

うそ?

なんで?


スミレの目に涙が浮かんでいる。


「ちょっと待って。

泣かないでよ」

「泣いてなんかいない」


僕はスミレの涙に怯んで少し拘束が緩んだ。

その瞬間をスミレは見逃さない。


スミレは僕の拘束から抜け出して、僕にビンタをしてから館の方に馳せて行った。

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