第19話 貸馬屋
「あ、そうだ。預かってたファビアスジュエルについて調べたら、火属性の付与効果があったからネックレスにしてみたんだ。ルミナが持ってたほうがいいと思ってね」
鉄を使って、ファビアスジュエルに型枠と鎖を付け首からかけられるようにしてみた。
そのまま持っていても効果はあるのだが、無くさないようしておきたかったのと、金属加工の練習にちょうどよかったからだ。
「え! ありがとうございます! すごく綺麗ですね」
正直、自信を持って出せる代物ではないのだが、喜んでもらえたようで一安心。
俺が持っていてもまさに宝の持ち腐れだから、有効活用したほうが良いだろう。
そんな様子をサイラが無言で見つめている。一人だけにあげたのはまずかったか。
「ルミナはファビアス洞窟で火魔法をよく使っていたからね。今度はサイラにも何か作るよ」
「あ、これサイラが持っとく?」
「いい。私、魔法使えないもん」
少し気不味い空気が流れる中、俺達は貸馬屋へと到着。
この世界での移動は基本的に徒歩か馬になる。
庶民で馬を保有している者は少ないので、レンタル需要はそこそこあるらしい。
厩舎には20頭ほどの馬が繋がれていて、数頭走れる程度の広場が木の柵で囲われていた。
さきほどまでの雰囲気が嘘のようにサイラはニコニコと芦毛の馬を撫でている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。ご入用ですか?」
厩舎の脇に座っていたのは何時ぞやの老人だった。
「あ〜、あなた様もご一緒で。先日はお世話になりました」
「いえ、こちらこそ路頭に迷っていたところを乗せていただきありがとうございました」
厩舎には馬の他にポニーも数頭繋がれていて、見覚えのある幌付きの荷車やリヤカーなどが置かれていた。
「明日から数日お借りしたいのですが、空きはありますか?」
「はい。空いておりますよ。どの馬になさいますか?」
「私達はいつもの二頭で、こちらの方にはおすすめの子をお願いします」
ルミナが慣れた様子でおじいさんとやり取りする。俺が見たところでどの馬が良いか分からないので、ここは任せるとしよう。
ポニーは速度が遅いものの、体力と馬力があるので物を運ぶ時には適しているらしい。
今回の荷物は俺の収納に入るから選択としてはスピード重視の馬が適切ということになる。
「こちらはいかがですかな? 一番体が大きく男性にはおすすめですが」
「どうしますか?」
「う〜ん」
全然いいと思うのだが、それ以前に致命的な問題を忘れていた。そもそも俺は馬の乗り方を知らない。前世で馬に乗る機会なんてほとんどなかったからな。
「気に入りませんか?」
「いや、いいと思うんだけど、まずは明日までに馬に乗る練習をしないといけないなと思って」
俺が申し訳なさげにそう言うと、二人が少し以外そうな顔をする。この反応にはもう慣れたもんだ。
「あの、失礼ですが、『意思疎通』スキルをお持ちではございませんか?」
「いえ、ありません。どんなスキルですか?」
「動物達とコミュニケーションを取るためのスキルです。走れ、止まれと心の中で念じればその通りに動いてくれるようになりますよ」
てっきり手綱さばきのような馬術を想像してたが、この世界ではとても便利な能力があるようだ。
「よろしければ差し上げますが、どうなさいますか?」
「是非お願いします」
「分かりました。では失礼して」
老人が両手で俺の手を握ると心拍数が急激に上がり、スキルを得た時の独特な感覚が体中を駆け抜ける。
「あとは一時間ほどここで練習すれば、普通に乗りこなせるくらいにはなりますよ」
「ありがとうございます」
俺は隣接された試乗エリアで二人に支えられながら馬に跨った。
最初のうちは意思疎通の仕方がうまくいかず思うように動いてくれなかったが、ルミナ講師のいう通り、進め、止まれの基本動作に限定して繰り返し行うと徐々に感覚をつかめるようになった。
レンタル料は一頭あたり一日二千G。
レッドシダー原生林までは移動だけで一昼夜かかるので、余裕を持って四日間レンタルした。
俺の分は以前のお礼と初回お試し期間として無料にしてくれたので、だいぶ安く借りることができた。
馬の予約と練習を終えると、時刻はもう正午近い。
「途中に街とか宿泊できる場所はあるの?」
「一応あるけど、空いてるか分からないから野営グッズは必要だよ。あとは食料と水、馬達の分もね」
「了解」
久しぶりにサバイバルセットを補充しておくか。
あと、服装もバトル用甲冑とシーカーシリーズの上下しかないから着替え用にもう一着くらいあったほうがいいかな。
「俺は服を物色しに防具屋でも行ってみようかな」
「普段着なら街の人がよく使ってる仕立て屋に行ってみたら? 既製品も売ってるし、グンジーに合う服もあると思うよ」
仕立て屋なんてのもあったのか。大きな街だから知らない店がまだまだあるもんだな。
「分かった。ありがとう」
□
結局、二人も一緒に仕立て屋へ来ることになり、俺のコーディネートを考えてくれた。
既製品でも良かったのだが、せっかくだからと自分の体型に合わせたセミオーダーの上着とシャツとパンツを注文。
仕上がりまで数時間かかるようなので、俺達は再びファビアス洞窟へと赴いた。
一階と地下一階を駆け降り、最速で地下二階へと到達。先日の記録をあっさり上回る魔石を獲得した。
隠し部屋への橋は壊れたのか壊されたのか無くなっていたので、向かう途中にクラッシュしておいたオレンジの木を使って二個目のファビアスジュエルをゲット。
確実に入手するためミミックマンが瀕死の状態でバトンタッチしてもらって、こっそりクラッシュ。
魔力はごっそり持っていかれたが、取り逃がすわけにはいかないからな。
サイラが使っている予備の鉄剣を借りて柄の中央部分に埋め込めるよう細工してみたところ、炎焼効果のある剣撃が放てるようになった。
サイラも嬉しそうに終始笑顔で剣を振り回している。炎であればトレントにも効果的だろう。
鉄鉱石も1トンほど調達し、今回は隠し部屋への橋も回収した。
仕上げ予定の時間を過ぎたので仕立て屋を訪ねると、俺仕様の市民の服が出来上がっていた。試着してみたところ文句無し。
冒険者の装備と違い着心地を重視して作られているだけあって動きやすく快適だった。
二人と別れた後、水500kg、オレンジの木2トン、オレンジの実150個を調達。
総重量が4トンほどになったが、特に魔力の回復が遅くなったような感じはない。
これで準備は万端だ。
【魔 力】611
【能 力】筋6 知6 速6 器22
【スキル】収納Max、生活魔法1、身体硬化1、意思疎通1、精製2
【ギフト】クラッシュ&ビルド
【素 材】
コリーナ草2kg/水500kg
オレンジの木2000kg/鉄1400kg
【持ち物】
オレンジの実150個
ケイブバットの羽バック3個
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