第18話 トレントウッド

ライオネルさんから教わって小一時間ほど練習すると、すぐに身体硬化の要領は分かった。クラッシュ&ビルドを発動する時と同じくイメージが大事。


体に膜を貼るよう思い描き、軽くぐっと力を込める。


身体硬化前は普通に痛かったスライムの攻撃が、身体硬化ができるようになると触れられた程度の感覚になった。


あとは使い続けることで自然とレベルが上がっていき、より強い攻撃にも耐えられるようになるそうだ。


他にはどんなスキルを持っているのだろう。こうも太っ腹に教えてもらえると、欲が出てしまうな。


物理系冒険者だったというから俺とはタイプが違うけど、オススメのスキルは一通り覚えておきたい。今度相談してみよう。


オーダー待ちの冒険者がチラホラ集まり出す時間帯。オーダーを物色に冒険者ギルドへ行くと、その中にサイラとルミナの姿もあった。


あちらも俺に気付いたので軽く手を上げて挨拶しておく。


「あっ!いた!」


サイラがギルド中に響きわたる声を上げ、ぶつかりそうな勢いで駆け寄ってくる。

ルミナもその後を恥ずかしそうに駆けてきた。


「相変わらず元気そうだね」


「どこ行ってたの? ずっと探してたのに!」


「ギルドには毎日顔を出してたよ」


最近はフルフェイスの甲冑姿で彷徨くことも多かったから気づかなかったのかもしれないな。ギルドに来るのは早朝だし。


「んで、今度はどうしたの?」


「また一緒にお仕事したいと思いまして。よろしいでしょうか?」


「もちろん。特に予定はないし、いつでも構わないよ」


落ち着いた声で控えめに尋ねるルミナに俺は即答する。


「良かった。でも、まだ何するかは決まってないんだけどね」


「ポーターの方がいないとできない仕事というのが結構あるんです。私達は今までそういう仕事は避けてきたんですけど、能力が上がるにつれて徐々にそういうわけにもいかなくなってきてしまって」


「そうか。最近、俺もトレーニング頑張ってるからこの前よりは少しマシになったと思うよ」


「じゃあ早速どれにするか決めよう!」


サイラがテーブルの上に数枚の紙を並べる。


オーダーはお願いすれば掲示板に貼り出された原紙をコピーしてくれるらしい。もちろん科学力ではなく生活魔法の『転写』によるものだ。


掲示板だけだと混雑時に人が殺到して見れないことが多いための配慮だとか。


確かに最前列に体のでかいやつでもいたら誰も見えないからな。たまに喧嘩してるのもいたりするし。


並べられたオーダーは四枚。全てEランクもしくはEランク以上の案件だった。


「俺はFだけど、いいのかな?」


「大丈夫。ランクはあくまでも推奨だから」


俺は荷物係りだから戦力には入ってないか。二人だけでもクリアできるオーダーなら問題ないってわけね。


「どれにしよっかな〜?」


サイラが嬉しそうに頬杖をつく。


ちらっと見たところ、資材の運搬や鉱石採集など重量のあるものを運ぶオーダーのようだ。


「ところでグンジーのスキルってさ、どのくらい収納できるの?」


「収納スキルはどれも容量がありますもんね」


サイラとルミナが顔を近付け小声で質問してきた。サラサラとした栗色と艶のある黒髪がなびき、甘い香りに包まれる。


この世界にシャンプーやトリートメントなんてなさそうなのに香水でも付けてるのだろうか?


とまぁ、そんな余計な詮索はいいとして。


容量の限度を気にしたことはあまりないが、始めの頃は木を大量にクラッシュして収納した時、いつもより魔力の回復が遅くなった気がするな。


「限度は自分でもよく分からないけど、おそらく魔力を消費しながら収納してるんだと思う。ここだけの話、収納のレベルはMaxって書いてある」


「まっくす!!」


今にも椅子から飛び上がりそうな勢いでサイラが驚く。そんなサイラに驚いた周りの冒険者達が一斉にこちらを振り向いた。


「ごめん。いきなりビックリすること言うから大きな声出しちゃった。じゃあじゃあ、とりあえずどれでも全然大丈夫だね」


「すごい!収納スキルって上限あるんですね」


二人はさらに椅子を近づけ囁くように言った。


周りの刺すような視線が気まず過ぎる。

話の流れとはいえ、ここで言う必要はなかったか。


その後も二人はああでもないこうでもないとお互いの意見を擦り合わせていた。


俺は決まったオーダーの荷物を運べばいいだけと高を括っていたので、選定は二人に任せようと静観していたのだが、その中の一つに気になる記述を見つけた。


『トレントウッドの採取・運搬』


推奨ランク︰E以上

対象地域 ︰レッドシダー原生林

成功報酬 ︰1本あたり10万G


レッドシダー原生林といえば、この街の北側にある昨日地図に書き込んだ俺の注目スポットだ。


「これはどんなオーダーなのかな?」


俺がスッと紙を前に滑らすと、二人は話を中断し視線をオーダー用紙に向けた。


「これはトレントっていう魔物を倒してドロップアイテムを持って帰る仕事だよ」


「トレントウッドは貴族の邸宅によく使われる高級木材なんです。普通の人の家は近くの手頃な木を使うことが多いですけど、耐久性、調湿性どれを取ってもトレントウッドの方が優れているみたいですね」


トレントウッドか。そんな木材があるとは。

レッドシダーも手に入るし、魅力的なオーダーだ。


「まだ決まってないならこれにしないか? トレントとは戦ったことあるの?」


「何度もあるよ。その時は討伐だけで運べなかったから一本5万Gだったけど!」


サイラはなんだかお怒りモード。

運搬費用が半分とは確かに取りすぎな気もするが、俺にとっては5万Gでもかなりの収入だ。


「あの時より私達もレベルが上がってるし運搬もできるから、グンジーさんの言う通り一番いいかもね」


「まあね。ただ、ちょっと遠いんだよなぁ。レッドシダー原生林。食料とかお泊まりセットの準備をしていかないと」


その後、三人で話し合った結果、今日はこれから旅支度をして明日の朝出発ということで話がまとまった。


三人でシスカさんにオーダー受注を申し込む。


「気をつけて行ってらっしゃいませ」


いつも通り感じの良い対応だったものの、彼女の笑顔が妙にニヤついて見えたのは気のせいだろうか。

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