第14話 ファビアス洞窟②

予定の時間が迫ってきた。


地下二階でも魔石は軽く100個以上獲得したと思われる。


「少し早いけど、そろそろ戻ろうか?」


「うん。遅れると次の人に迷惑かけちゃうからね」


「そうだな」


二人とも休むことなく戦い続けていたので、さすがに疲れの色が見える。

地上と比べ、気温湿度ともに高く体力を奪われやすい。水分補給は欠かせない。


地下二階はところどころ床がなく、一歩足を踏み外すと底の見えない崖下へと死のダイブだ。


俺達は両側が崖となった細い道を通り、地下一階に戻る階段へと向かう。


足元を確認しながら慎重に歩を進めていると、ルミナは立ち止まり右前方を見つめていた。


「あんなところに洞穴があるね」


彼女が指差すほうを向くと、十メートルほど先の壁に人が通れるくらいの穴が空いていた。


「ホントだ。何かあるのかな?」


「もしかしてあれが噂の隠し部屋だったりして?」


「そうかも! でも、あんなところまでジャンプできないよぉ。できてもやらないけど。空でも飛べなきゃ無理だね」


『ファビアス洞窟の隠し部屋』はそこそこ有名な話なのだが、ここに来る初級冒険者達には少し難易度が高いらしくあまり噂にならないらしい。


隠し部屋。


そんなフレーズを聞いたらどうしても行きたくなってしまうじゃないか。スキルを使えば行ける気はする。いまある素材はオレンジの木とコリーナ草。


とりあえず試してみるか。


「少し離れてて」


驚かせないよう二人に予め声をかける。


オレンジの木は結構丈夫だから幅は50cm、厚さは10cmもあれば充分だろう。長さはここから洞穴の奥までをイメージして、


素材足りるかな?


(ビルド)


と心の中で念じ、あたかも巾着袋から板を取り出すような素振りで俺は洞穴に向けて橋をかけた。


「ふぇ? 橋が、できた?」


サイラが驚くと、ルミナも「おー」っと口をすぼめて小さく拍手している。


「何でも収納する癖があるから、ちょうどいいのがあって良かった」


「それにしたって、めちゃシンデレラフィットしてるよ! いま作ったみたい」


「そ、そうかな?」


ちょっと大っぴらにやりすぎたか。

この二人にはいずれ話すことになりそうだから、まぁいいんだけど。


万が一に備えてコリーナ草をロープにして腰に巻き命綱にしつつ、俺らは隠し部屋の入口まで無事に到着。


通路を少し進むと、そこはまさに六畳ほどの部屋になっていて中央に古びた箱らしきものが置かれていた。


「宝箱!」


「ちょっと待って罠かもしれないよ」


サイラが飛び出そうとするのを制止してルミナが慎重に辺りを見回す。俺も同じく部屋の中を確認してみるも、苔の生えた岩肌があるだけでこれまでとなんら変化はない。


「どうしよう。開けてみる?」


「ここまで来たのに開けないで帰れないよね」


一瞬の沈黙。

ここは最年長で男性の俺が行くべきだよな。

何かあったらビルドで防壁くらいは作れるだろうし。


「俺が開けてみるよ」


「待って。グンジーって身体硬化スキル持ってるの?」


「いや、持ってないが。そんなスキルがあるのか?」


「冒険者には超必須スキルだよ! ちなみに戦闘系の能力値ってどのくらいなの?」


「筋力6、速度5ってなってるな」


「ほぼ初期値じゃん。ムリムリ! 止めときなって。私が開けるから」


前世の常識から女性に危険な役目を任せるわけにはいかないと思ったものの、サイラの言う通り俺が怪我したほうが大事になりそうだ。


「分かった。悪いけど頼む」


「OK! まかせて!」


サイラがゆっくりと箱の蓋に手をかける。

ギギギと軋み音を立てながら蓋を開けると、中には光輝く赤い宝石が入っていた。


「これ、、ファビアスジュエルだと思う」


一瞬の沈黙の後、口を開いたのはルミナだった。


「え、これが? あの? ホント?」


二人が目を見開き箱の中を覗き込む。


ファビアスジュエルとはこの洞窟でたまに手に入るレアアイテム。売ればそこそこの値段が付くらしい。


「やったね!」


サイラが宝石を取ろうと手を伸ばしたその瞬間。


箱の蓋が勢いよく閉められ、サイラは腕を挟まれたまま上へと持ち上げられてしまった。


「あっ! サイラ大丈夫か!」


「やっぱり簡単には貰えないよね」


狼狽える俺の反応をよそにサイラは落ち着いた様子で冷静にもう片方の手で蓋をこじ開け、腕を引き抜く。


目の前には箱に手足の生えた化け物が仁王立ちしていた。


やはり俺がつっかえ棒でもビルドして取れば良かったかな。


結果として俺の代わりに怪我をさせてしまったことに罪悪感を覚えるも、本人は至って平気そうな表情で挟まれた腕を振っていた。


「全然平気だよ。鎧もあるし、こんなこともあろうかと身体硬化をバッチリ発動してるからね」


「これが有名なミミックマンかぁ。傷薬いる?」


「いらな〜い」


サイラは両手で剣を握り直し、マッチョな手足めがけて斬りつける。ミミックマンはそれを亀のように手足を引っ込めて防御。


攻撃終わりを見計らってまた足を生やし体当たりしてきた。


「うわっと!」


「何か手助けできないかな」


「大丈夫ですよ。見守りましょう」


ルミナは祈るように胸の前で手を合わせ指を組む。顔には余裕の表情が伺えた。


「はっ!」


「せぃ!」


初め拮抗していた攻防は徐々にサイラのペースに。


「サイラのギフトは【パワーブースト】なので、魔力を使って筋力を飛躍的に強化できるんです」


「パワーブースト。サイラにピッタリなギフトだね」


ピッタリというよりはギフトに合わせて今のスタイルになったわけか。


「今日はほとんど使ってなさそうだったから楽しんでるみたいですね」


スピードがどんどん増していき、ミミックマンの箱部分が徐々に削られていく。


「そろそろ終わらせちゃおっかなぁ〜」


姿が消えたように見えた後、砂埃だけを残してサイラはミミックマンの後方に移動。


若干の間をおいて敵は塵となって消えていった。


床には先ほどの宝石が転がっている。


「今度こそお宝ゲット!」


「お疲れ様。時間がないから早速戻ろう」


「あ!そうだったね」


俺達は迫りくる敵には目もくれず来た道を足早に引き返し、何とか時間内に洞窟の外へと脱出した。


隠し部屋にかけたオレンジの橋は回収せずに放っておいた。果たしてそのまま残るのか定かではないが、もしかしたらこれから入る人達も利用できるだろうからね。



【魔 力】20

【能 力】筋6 知6 速5 器15

【スキル】収納Max、生活魔法1

【ギフト】クラッシュ&ビルド

【素 材】

コリーナ草2kg/水1kg

オレンジの木15kg/鉄鉱石500kg

【持ち物】

レッドスライムの魔石95個

ケイブウルフの魔石99個

ケイブバットの魔石127個

レッドスライムジェル10個

ケイブウルフの牙 11個

ケイブバットの羽13個

ファビアスジュエル1個

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る