第13話 ファビアス洞窟①

ファビアス洞窟の入口は想像以上に大きかった。


縦三十メートル、横五十メートルほどはあるだろうか。

超巨大生物が口を開けたようなその穴の周りには俺達以外にも十数人の冒険者の姿があった。


「久しぶりだぁ」


「一ヶ月くらい来てなかったね」


二人は嬉々とした表情で入口を見つめている。


「今までと違うし、とりあえず作戦会議しとく?」


「俺は初めてだからそのほうが助かるな」


「そうですね」


とは言ったものの作戦というほどの戦略はなく、今までの二人のパターンを踏襲しつつ魔石とアイテムの回収だけは俺が担当するというシンプルな内容だったため、1分ほどで終了した。


「じゃあいいかな? 一階と地下一階はいつも通りルミナに任せる」


「分かった。ではグンジーさん。魔石とアイテム回収をお願いしますね」


「了解した」


中は意外と明るく内部の壁は等間隔にライトで照らされている。ダンジョンとはいえ結構人の手も加えられているようだ。


奥に見える魔物は俺も馴染みのあるスライム。

しかし、知っているものと違うのは色が赤いということ。


先頭のルミナが何やら呪文を唱えながら杖を前に向けると、豪という音とともに大きな炎がスライムめがけて飛んでいく。


二人がそのまま小走りに駆け抜けた後、俺は魔石11個とレッドスライムジェル1個を回収。


同様のパターンで一階ではあっという間に大量の魔石を獲得できた。


「ルミナが使っているのは何ていう魔法なの?」


「これは魔法レベル3で覚えるファイアウォールです。対象に向かって炎の壁を出す魔法ですね」


「へぇ~、かっこいいなぁ」


指の先に火が灯って興奮していた自分が恥ずかしくなる。誰もが通ってきた道なんだろうけど。


ファビアス洞窟は人気のトレーニングスポットのため、利用はギルドでの予約制になっているらしく、1パーティー2時間と決められていた。

時間の概念は元世界と同じく一日を24時間としている。


いつもは行きも帰りも1時間ずつを目安にしていたそうだが、今回は魔石運搬の心配がないので、行きを1時間30分。

帰りは戦わず30分で一気に駆け戻ることになった。 


行き止まりの階段を降りると、次は地下一階。

この階も人工的なライトに照らされて明るく視界は良好だ。


二人の主戦場になっているのがこの階層。

最下層である地下二階へ行く前にここでバッグがパンパンになるので、ゆっくり歩いて入口まで戻るのがいつものパターン。


「今日は地下二階がメインだからここは早めに切り上げよう」


「そうだね!」


この階も同様に戦闘スタイルはルミナのファイアウォールで一気に蹴散らす戦法。


地下一階の主な魔物はケイブウルフ。

洞窟を根城にしている少し小さめの狼だ。力はあまりないが、スピードと嗅覚に優れているらしい。


スライムの時のようにルミナの魔法で一網打尽というわけにはいかず、避けられた数体は後ろに控えているサイラが仕留める。


サイラの武器はオーソドックスな鉄製の剣だ。


盾は持たず両手で剣を握り、目にも止まらぬ速さで斬り伏せる。体さばきも剣さばきも常人では考えられないスピード。動きの速いケイブウルフにも余裕で対応し、同時に2体をやっつけた。


最大魔力量は二人とも2000を超えているようだ。


スライムよりも少し大きめな魔石を9個とケイブウルフの牙を1個獲得。


魔石を回収し二人を追いかけようと前を見ると、倒し損ねた瀕死のケイブウルフを発見した。


「試してみるか」


俺が尻尾に軽く触れてクラッシュと念じるとケイブウルフは巾着袋に吸い込まれた。


そして、久しぶりにステータスアップの感覚が。


魔力量のほうはちょっとした行動でも日々少しずつ上昇していくのであまり気付かないが、各能力が上がる時は身体が熱くなるような感覚に襲われる。


ステータスを見ると知力と器用さが上昇していた。


知力は生活魔法を覚えた時に上がったのかもしれないな。魔力は70ほど減っている。


「ケイブウルフならあと4〜5匹はクラッシュできそうだ」


獲得したアイテムは魔石とケイブウルフの牙。もしかしたら、クラッシュのドロップアイテム獲得率は100%?


地下一階で獲得したのは俺のクラッシュした3体を含めて魔石100個ほどと牙11個。

そのままの勢いで最下層へと降りる。


開始からおよそ1時間が経過。


「地下二階は何回目かな。今日は一番奥まで行けるね」


「初制覇だ!」


このフロアの魔物はケイブバットという大きめのコウモリ。


空を飛ぶうえ動きも速く、ここもファイアウォールの出番かと思いきや、サイラは飛び回るケイブバットをバシバシと叩き切っている。


「なかなかやるでしょ?」


「すごいな。俺にはとても真似できないよ」


「動体視力が4になったからね。速度の数値も結構高いし。馬鹿力だけじゃないのよ。ふふ〜ん」


俺があっけに取られて見ていると、サイラがドヤ顔で自慢してきた。見た目は小柄で華奢なのに何ともパワフルな戦い方だ。


俺も頑張らないと。

魔物クラッシュもいいが、せっかく一人じゃ来れないところに来たんだから素材集めもしておこう。


一階と地下一階はそんな暇もなく通り過ぎてしまったから、ここで何かしらの収穫を得たい。

上の階で洞窟の壁を少しクラッシュしてみたが、普通の岩石だった。


しかし、さっきから気になっていたのは壁や床に点々と見える光る部分。角度によってたまにキラリと輝く石がある。


「グンジ―。魔石がいっぱい転がってるよ〜」


「へいへい。ただいま。少々お待ちを」


俺は魔石とドロップアイテム『ケイブバットの羽』を回収しながら、ついでに床の光る石をクラッシュ。

すると、素材欄に『鉄鉱石』が追加された。


初めてのダンジョン素材は鉄鉱石か!


その後も残りの魔力は全て床壁クラッシュに費やし500kgの鉄鉱石を獲得することができた。


これだけあればビルドの幅がぐっと広がるぞ。

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