第11話 初めての魔法

さっきとは違って冒険者ギルドにもチラホラと人の姿があった。見た感じ、やはり若い人達ばかりだ。


オーダーをチェックしたらすぐ帰ろう。


掲示板に目をやると、以前説明してくれたオーダー票というものが三十枚ほど張り出されている。


多いのはモンスター討伐や素材の採取。

他には用心棒、迷子の捜索、害獣駆除など多岐にわたる。


薬草採集のオーダーもあったが、報酬が割に合わないので止めておいた。傷薬にして売ったほうが稼げるからな。


物資運搬のオーダーなんかも自分に最適かと思ったのだが、ある程度の実績がないと受注できないらしい。

収納スキルで持ち逃げされたら大損害だからそういうものか。


今のところこれといって魅力的なオーダーはなさそう。やはり力も魔法もダメだと仕事を探すのはなかなか難しそうだ。


帰ろうとして何気なく掲示板の端の方に視線を移すと、面白そうな貼り紙を見つけた。


【生活魔法講習会】

冒険者になりたい諸君!

夢と希望の未来に君も羽ばたこう!

今日の一歩が明日への糧となる!


□本日の講習内容:生活魔法


・魔法とは?

・魔法の種って何?

・生活魔法を覚えよう(火起こし)

・実際にやってみよう


「これはいい!」


つい声が出てしまうほど俺の探し求めていたものが目の前に。これだけでも来た甲斐があったってもんだ。


街に着いて早速魔法を覚えられるなんて思ってもいなかった。


えーと、


講習会場は二階のBルームか。

特に時間とか何も書いてないけど、どうすりゃいいんだろ?


「あの、すみません。この講習は何時から始まるんですか?」


俺は受付嬢に質問してみた。


「ん? あぁ、その人はいつでもいるので行ってみてください。誰でも無料で受けられますよ」


さきほど登録をしてくれた受付の女性(名札にはシスカと書かれている)に聞くとそんな返答が返ってきた。


いつでもいる?

この世界の人達は暇なのだろうか?




「こんにちは〜」


俺は扉が全開になっている講習会場へ入る。

すると、教室くらいの広さがある部屋の真ん中にリクライニングチェアでうたた寝をしている男性がいた。


「あ、どうぞ。そちらに座ってお待ちいただいても構いませんよ」


「はい。宜しくお願いします」


促されるまま椅子に腰掛けしばし待つ。

俺もいよいよ魔法使いか。楽しみだ!


これは年甲斐もなくテンションが上がってしまうな。


案内には火起こしと書いてあったから、手から火球が飛び出すとかそういうやつか。


椅子に腰掛けて五分ほど経過した頃、講師が席を立った。


いよいよか?


「もしかして、あなたが受講生ですか?」


「ええ、そうですが」


「それは失礼しました。お子さんが受講されるのかと思いまして。なんでまたその歳で生活魔法を? 今まで使ったことはないのですか?」


そうか。

この歳で魔法を教わるのはかなり訳アリ輩なのかもしれないな。


「習ったのかもしれませんが、過去の記憶が全く無くて覚えてないんです」


元世界の記憶ならあるが、この身体の持ち主についての記憶は消去されているらしい。


「は〜、なるほど。記憶喪失ですか。失礼しました。それは大変ですね。そういう方に魔法を伝えるのも私の役目です。また一から頑張りましょう!」


講師は爽やかな笑顔で俺の両手を強く握りしめた。


彼の話によると、この世界では全ての人が十五歳の誕生日に天啓を受けギフトスキルを授かる。


それによって魔力が備わり様々な魔法やスキルが使えるようになるそうだ。


限界や成長速度に個人差はあるものの、基本的に魔力や能力は使えば使うほど増えていく。


しかし、魔力のピークは二十代と言われていて三十前後にはほとんどの人が急激に衰え引退するのだとか。強制的な兵役みたいだな。


若いうちに一生暮らせるだけのお金を稼ぎ、魔力を失ってからは子育てと次世代への育成に精を出す。


この世界では誰もが前世のトップアスリートのような一人前の冒険者になるため日々努力しているという。


さしずめ俺のような生産系はアーティストを目指すことになるのだろうか。


確かにさっき下にいた冒険者達も若い人しかいなかったな。


「年配冒険者は滅多にいませんけど、ごく稀に歳がいってから急激に成長する大器晩成型の人もいます。そういう方は珍しいスキルを持ってることが多いので意外と人気がありますよ。歳をとっても多少の魔力は残るので、生活魔法くらいは使えますがね」


この前シスカさんが一瞬怪訝そうな顔をしたのは、魔力のないおっさんがなぜ冒険者登録するのか疑問に思ったのかもしれないな。


まぁ、俺はただ余生をのんびり過ごせればそれでいい。すでに面白いスキルももらっていることだし。


「いろいろと教えていただき有難うございます。そろそろ魔法の方もいいですか?」


「ああ、そうでした。記憶喪失の方は初めてだったので、つい喋りすぎました」


「では、まず魔法とは何か、」


コホンと一つ咳払いし、講義が始まる。


前半はほぼ元世界で見聞きしたお決まりの魔法やスキルの説明が続き、冒険者がどんなに素晴らしいかの啓蒙活動がメインだった。


興味深かったのは魔法を使えるようになるには、すでに使える人から【魔法の種】と言われるきっかけを得なければならないということ。


「私にはその種をもらえるような知り合いはいませんが、どうしたらいいのでしょう?」


「目の前にいるじゃないですか。私は何らかの事情で種をもらえない人達をサポートすることが仕事なんです。といっても報酬を貰っているわけじゃないので、ほぼボランティアですけど」


見た感じ俺よりは年下だろうから、三十代前半ってとこか。冒険者を引退し、もう定年後の第二の人生を謳歌しているとは何とも羨ましい人生だ。


「では、手を出してください。種の受け渡しは難しいことでもなく、きっかけを与えるだけなんです」


出した右手を講師が握る。


ドクン!と心臓の鼓動が急速に上がった。

身体に電流が流れたような衝撃が走る。


「おおおお!な、何ですか?これは?」


「それが種です。成功ですね」


これが魔法の種。通りで今まで全く使えなかったわけだ。


その後、生活魔法の初歩「火起こし」を伝授してもらい俺は講習会場を出た。


ステータスには【生活魔法1】と表記されている。


火起こしは文字通り手から火を出す魔法。

俺はまだ指先からマッチ程度の火を数秒出す程度だが、慣れれば数メートルの炎を出し続けられるようになるらしい。


これで今後の生活がかなり楽になるぞ。


ちなみに俺が勝手にステータスと呼んでいるものは【自己鑑定】という基本スキルらしい。


数百年前の高名な天才魔術師が発明したスキルで、今では十五歳の誕生日に教会で行う【天啓の儀】の時に全ての人へ付与されている。過去と現在の膨大な冒険者データから自分の熟練度を可視化してくれるのだとか。


なんともシステマチックなスキルだ。

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