第10話 傷薬作成

商業ギルドも冒険者証を見せれば普通に利用できた。


ブルースライムジェルも1g1Gで買い取ってもらえたので、今回の総報酬は2600Gとなった。


無味無臭で抗菌作用もある粘性の液体なので、粉の傷薬と混ぜて患部に塗ったりなど、いろいろな用途があるらしい。


お金も入ったことだし、まずは腹ごしらえ。


ここ数日はオレンジしか食べてないから、久しぶりにまともな食事を摂りたい。


何かないかと辺りを見回すと数百メートルほど先にパンと湯気の上がるスープの看板が。


競歩ばりのスピードで店の前へ移動し中へ入ると、やはりそこは定食屋だった。


この街は二つの絵柄で何屋かを表す決まりのようで異世界初心者の俺にも分かりやすくて良い。


弾ける美味さ!定食屋『スライム』


と書かれた看板をチラ見し、いざ中へ。


閑散としていた冒険者ギルドとは打って変わって、定食屋スライムは朝から多くの客で賑わっていた。


ビールのようなものを飲み外を眺める人やギャンブルで盛り上がる三〜四十代の男性達、井戸端会議に花を咲かせる淑女など店内は活気に満ち溢れている。


メニュー表を見てもよく分からなかったので、一番目立っていた「モーニングスライム」を注文。

値段は500G。金銭感覚は元世界と大して変わらなそうだ。


さて、これからどうするか。


ギルド登録も完了したし、あとでオーダーってのは見に行ってみよう。確か入って左側の掲示板に貼られていると言っていたな。


それよりまずは傷薬の作成が先決だ。


乾燥させてすり潰すだけと言っていたから、クラッシュ&ビルドで出来る気がするけど、傷薬と認めてもらえなきゃ意味がない。


「はい。どうぞ」


運ばれてきた料理は丸いパン、目玉焼き、スープ。あと、ハーフサイズにカットされたオレンジだった。

少し心配しながら待っていた割に普通でホッとした。パンと目玉焼きがどことなくスライムの球体をイメージしているように感じる。


俺が売ったオレンジもこの店で提供されることになるのだろう。とても分かりやすい循環システムだ。


あっという間に全てを平らげ早々にスライムを退出。店を出てから食後のコーヒーがないか確認し忘れたことに気付き密かにショックを受ける。


場末の飲み屋のような雰囲気は嫌いじゃないんだが、考え事をするには騒々しいし今はのんびりしている時間もない。


味は至って普通だったが、素のパンをこれほど美味しく思えたのは初めてかもしれない。


俺は一旦街を出て人気のない場所にテーブルと椅子をビルド。


薬草のストックは十枚。失敗しないように気を付けねば。


まずは薬草を一枚クラッシュしてみる。

ステータスの素材欄には「コリーナ薬草12g」と記載された。


なるほど。

取り出さなくてもクラッシュはできるようだ。


ただ、薬草粉末を粒子のまま外に出せないか試してみたものの、袋に手を入れて取り出せるのは持ち物だけだった。


素材をそのまま外に出すというのはできないらしい。


そうすると、粉末をイメージしてビルドするしかないわけか。


「ビルド」


ステータスの持ち物欄に「コリーナ薬草粉末12g」が追加された。


クラッシュされたものは全て非常に微細な粒子になり素材として保存される。クラッシュした時は煙のように見えるが、もしかして原子レベルまで分解されてるのだろうか。


それをどのような形で取り出すかはイメージ次第だが、ビルドしなければ取り出せない。


「これが傷薬?」


残りの9枚も同じようにクラッシュ&ビルドした結果、持ち物のコリーナ薬草粉末は126gになった。


店に置かれていた傷薬を思い出し、粒子を粗くしてみたり、少し水を加えてみたりと試行錯誤したものの、やはり持ち物の表記は同じだった。


「傷薬じゃないけど、これでいいのかな?とりあえず持って行って見てもらおう」


手のひらからいきなり粉を出したら怪しまれるだろうから、コリーナ草で入れ物を作り、俺はまた商業ギルドへ向かった。




「ん~、ダメだな」


「やっぱりダメですか」


商業ギルドのおやっさん(ガビさんというらしい)に早速見せに来てみた。


しかし、クラッシュ&ビルドしただけでは傷薬にならないようだ。また検証してみるしかないな。


「どこらへんが違いますかね?」


落胆する俺を見て、ガビさんは長い白髭を撫でる。


「と、言ってやろうと思ったんだが、まぁ初めてだったらこんなもんだろう」


「え!てことは傷薬になってますか?」


「ふむ。俺の作る傷薬とはちと違うんだが、よくここまで細かく出来たもんだな。効果の方はまだよく分からんが、ひとまず合格にしておく」


こんなもん使えんなどと言われるんじゃないかヒヤヒヤしていただけにとりあえず良かった。


「ありがとうございます!」


「冒険者ギルドに来た時はいつでも寄ってくれよ」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


「今回は10g100Gの約束だったな。118gだから、1200Gでいいか?」


「もちろんです」


入れ物に入れたことで若干目減りしたみたいだが、思ったよりも高い買取額だ。


「早速だが、、」


加工だけでも10g50Gくれるというので、50枚ほどの薬草をガビさんから預かる。クラッシュ&ビルドするだけだからすぐできるのだが、納品はもう少ししてからにしよう。


店の中には本当にいろいろなものが売られている。


シーカーシャツ 1500G

シーカーパンツ 2000G


【初心者に最適!伸縮性、通気性抜群のマストアイテム!】と豪快な文字でポップが貼られている。

中世が舞台の海賊映画に出てきそうな無骨なデザインがまたいい味を出していた。


服は何度かビルドしているので見ためは新品っぽく見えるが、この格好で街を歩くのはさすがに恥ずかしいな。


食と住はなんとかなってきたから次は衣だ。


とりあえず今日の稼ぎでシーカーシリーズの上下を購入。商業ギルドを後にし、俺は本日二度目の冒険者ギルドへと向かった。

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