第9話 ギルド
二人と別れた後、結局俺は街から十分ほどのところにある雑木林で夜を明かした。
手頃な木を見つけ、ちゃちゃっとハンモックを作成し就寝したのだが、虫が多く寝付けなかったのでハンモックの周りだけ酸素カプセルのように蚊帳を設置し事なきを得た。
「ふうぅ、起きるかぁ」
今日は何といってもまず冒険者ギルドにいかなければならない。
昨日は急だったから仕方ないけど、人と会う前にはもう少し小綺麗にしておきたかったな。とりあえず服だけは再ビルドしておこう。
クラッシュ&ビルドには不純物を取り除く効果があるようで、生活魔法クリーンって感じに皮脂や砂埃などを除去できる。
これは何気に重宝している。
といっても着ているのはまさにパジャマのような布の服。ホームレス感は変わらない。俺の美的センスではこれが限界だ。
さて、確か冒険者ギルドの目印は剣と盾の看板だと言ってたな。入口に戻ると街の中は夜と違い行き交う人々で賑わっていた。
活気があるというよりは朝から酒を飲んだり散歩していたりと全体的にのんびりした雰囲気だ。
「入口からすぐと言ってたけど、、お!あった」
入って正面突き当たりにある大きな木造の建物。
ロッジ風の三角屋根に挟まれた中央にそのマークを発見した。
「失礼します」
ギルドの扉を開けると中は広々していて、右側にはオシャレカフェのような円卓と椅子が十セットほど置かれている。
「冒険者ギルドへようこそ!どのようなご用件ですか?」
二十代半ばくらいのスレンダーな女性から声をかけられた。
「冒険者登録をしたいのですが」
「ありがとうございます。ではあちらにおかけになって少々お待ちください」
言われた通り椅子に腰掛け待っていると、さきほどの女性がハーブティーを持ってきてくれた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
随分と丁寧な対応。
実績0の小汚いおっさんにここまでしてくれるなんて、この世界の冒険者ギルドはサービスがいいらしい。
「早朝から押しかけてしまってすみません」
「いえいえ、冒険者の方はいつでも大歓迎ですよ。ところで、他所の冒険者カードか紹介状はお持ちでしょうか?」
「いえ、持ってません。ないと登録できませんか?」
「そんなことはないです。ただ、あればランクを受け継げますが、ない場合は一番下のFランクになってしまいますが…」
「ええ、それで構いません」
「分かりました」
にこやかで感じの良い対応の中にも少し困惑した表情が垣間見える。
まぁ、この歳でFランクから始めるやつなんてそうそういないだろうからな。
「ではまずお名前を教えてください」
「グンジーです」
「グンジーさんですね」
その後、女性は俺の顔や全身を確認しながら、何やらメモを取っていた。照合用に特徴を記録しているのだろう。
「それでは、最後にこちらへサインをお願いします」
「はい」
「登録は以上で完了です」
女性から名刺サイズの木製プレートを受け取る。
プレートには登録番号のような数字と名前、ランクFの文字、右下に都市名バドコリーナの刻印が押されていた。
「魔法や武器はあまり得意じゃないんですが、こんな私でもできそうな仕事はありますかね?」
「ええ、採集とか難易度の低い仕事もあるので大丈夫だと思いますよ。何かスキルはお持ちですか?」
「スキルは【収納】っていうのをを持ってます」
「え! 良いじゃないですか! ポーターの募集は結構多いので、すぐに声がかかると思いますよ」
ポーターか。荷物運びみたいなやつだよな?
初めはそういう方がいろいろ見れてちょうど良いかもしれない。
その後もギルドについて簡単に教えてもらったところ、ここでできることは主に次のようなものだった。
・魔石買取
・依頼案件(オーダー)の請負
・臨時メンバー募集
早速、ブルースライムの魔石を買い取ってもらうと、一つ50G(ゴールド)になった。
22個あったから1100G。
貨幣価値は分からないが、この世界に来て初めての報酬だ。
薬草やオレンジの実も買い取ってもらえないか聞いてみると、そういうのは商業ギルドの管轄らしい。
隣の建物だというので、ついでに行ってみることにした。
出てすぐ右を向くとフラスコとバックのようなものが書かれた看板がある。これが商業ギルドか。
中に入ると冒険者ギルドに比べて少しこじんまりした印象。
店内は道具屋といった雰囲気で、薬品のようなものからロープやカバン、アウトドア用品等が所狭しと置かれている。
「こんにちは」
「おう!らっしゃい」
店内の大柄な男性に声をかけると、威勢の良い声が返ってきた。
「薬草や果物を買い取ってもらえると聞いて来たのですが」
「買い取るぞ。モノにもよるけどな」
男性はガハハハと豪快に笑っている。
「これです」
俺が薬草とオレンジを一つずつテーブルにおくと、男性は無造作に手に取り眺める。
「まぁ問題はなさそうだが、どこにでもあるもんだから薬草が一枚50G、オレンジが一つ100Gってとこだな」
薬草よりオレンジの方が高いのか。
確かにデカいもんね。
「分かりました」
男性が状態確認をしている間に辺りを物色。
目線を少し下に下げると、そこには薬品のようなものが陳列されていた。
「これは何ですか?」
「ん?何って、それは傷薬だろ」
瓶に入った液体と粉の二種類の傷薬。
瓶には200G、粉には150Gと書かれている。
「これはあなたが作ったんですか?」
「そうだ。薬草を乾燥させて砕いただけだがな。不純物を取り除いたり手間がかかる割に儲からないがね。液体の方が高いのはほぼ瓶代だ。替わりに作ってくれるのか?」
男性はそう言うと白髭をなでながら、またガハハと大声で笑う。
「はい。今度試作品を作ってきます」
「本気か? 冒険者だったらギルドのオーダーをこなした方がよっぽど稼げるぞ? 傷薬の粉末なら10g100Gで買い取るが、だいたい薬草一枚で10gは取れる。瓶は非常用に携帯されるだけだから、あまり売れないんだわ」
「分かりました」
俺は薬草を売らず、残っていたオレンジ13個だけを買い取ってもらい1300Gを受け取った。
スライムを倒して魔石を集めるよりは効率的だろう。
他人に評価してもらえれば練習になるし、商業ギルドにパイプができるのもありがたい。それに安定した収入も見込める。一石三鳥だ。
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