第7話 いざ街へ

出立の日、早朝。

旧住まいを前に考える。


コテージができてこの瓦礫は用済みだ。

とりあえずクラッシュ収納してストックしておいても良いのだが、どこにでもある脆い岩石を持ち歩くのもいかがなものか。


木を大量にストックしていた時に魔力回復が遅かったのは、おそらく収納量に問題があったのだと思う。不要なものはなるべく入れないほうが良いだろう。


このまま放置するとしても、瓦礫のままというのは何だし、もう少し見映えの良いものにしておきたい。


「石碑でも作っとくか」


せっかくだから何か文字も刻んだほうが雰囲気が出るな。この世界に生を受けたのはこの場所なわけで【郡司健吾生誕の地】でいいか。


前世だったら個人情報漏洩で躊躇するところだが、この世界なら問題なし。


置く台座は縦横1メートルほどにして、台座の高さは三十センチくらい。

その真ん中に一枚岩から切り出したような細長い石碑をイメージする。


あんまり大きくするとまた倒れてしまうから控えめな大きさで。


「ビルド」


ちょっと墓石っぽいけど、まぁいいか。

歴史上の偉人みたいで良い感じだ。


隣には先日取っておいたオレンジの種を植えておく。一粒ずつ等間隔に。戻った時の楽しみが一つ増えた。


あとは怪我をした時に使う薬草を採取して出発だ。


昨日、スライム二匹との戦闘中に体当たりを受けて転倒し左腕を擦りむいてしまった。大した怪我ではなかったものの、薬草の効果確認のため使用してみたところ一晩ですっかり良くなった。


実はコリーナ草にはたまに治癒成分を含有しているものがある。

今までは怪我をしたことがなかったので放置していた。これからは必須アイテムになりそうだ。


「確かここらへんだよな」


普通のコリーナ草よりも小さく見つけにくいのだが、ハンモック作成時に数本は見つけていたので、それらを全て回収。思ったよりも多く十枚ほどの薬草が手に入った。


「行ってきます」


パンパンと二度拍手した後、石碑に手を合わせて一礼し川へと向かう。


あまり近づくとどこから人食いワニが飛び出してくるか分からないので、川の土手沿いを進むことにする。


あのワニさえいなければ、もっと川の幸を堪能できたのに。


残りの鮎4匹は川から帰ってすぐに焼いて食べた。


普通なら何もない状態から火を点けるなんて至難の業だが、スキルのおかけで木と草を程よい形にビルドし、錐揉み式火起こしに初挑戦。


悪戦苦闘の末、ハングリーパワーが発動し何とか火を着けることができた。


食べたい時に好きなものが食べられる生活がどれほど贅沢だったか思い知らされるね。


キャンプといえば焼肉、ソーセージ、アヒージョ、炙ったマシュマロなんかも美味かった。コーヒー飲みたいなぁ。


妄想に浸りながらずんずん進んで行くと、川に沿って続いていた土手はなくなり、前方には崖がそびえ立っていた。


川は山あいを縫いながら、そのまま真っ直ぐ続いている。


「右も崖。正面も崖。登れそうにないし、崖に沿って左に進むか」


左を見ると崖は延々と続いている。

左へ行ったら確実に道に迷いそう。川という道標を失うのもリスクが大きい。


「そうだ。スキルで穴を掘りながら進むってのはどうだろう?」


試しに崖に向かってクラッシュしていくと、かざした手の半径1メートルほどが粒子となり収納され簡単に人が入れるほどの穴が開いた。


穴を掘りながらひたすら直進するか!

これならいける!


と最初は思ったのだが、この方法も開始十分ほどで行き詰まってしまった。


前方をクラッシュし後方にビルドで排出していたが、数十メートルほど進んだところで魔力が少なくなってきた。このまま行ったら生き埋めになる可能性が高い。考えが甘かったか。


結局、俺はクラッシュ&ビルドで斜め上方向に階段を作り、崖を登ることにした。


「最初からこうすれば良かったじゃん」


その後も普通に通れないところは岩や土を変形させ上り下りを繰り返し、川に沿ってひたすら前進。


どうやっても不可能な断崖絶壁などはなく、比較的緩やかなアップダウンのみだったのは幸いだった。


そんなこんなで出発から半日過ぎた頃、俺は少し開けた道に出た。


そこで早速嬉しい発見!


道の脇にある泥濘に車輪や動物の足のような跡が残っていたのだ。


「よし!」


無人島だったらどうしようという不安がずっと頭から離れなかったが、これでその可能性は無くなったぞ!


この車輪の跡が何かは分からないが、少なくともそれなりの文明がここにはあるわけだ。


俺は込み上げる期待を抑えながら車輪の跡を追った。

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