第5話 さかなとり
家を失い再びホームレスとなった俺は重い足取りで散策を開始した。
しかし、悪い事の後には良い事もあるようで、家(残骸)から歩いて三十分ほど行ったところに川を発見!
川幅は十メートルほど。深い場所でも余裕で足が届きそうな程度の小川だ。
ここなら魚の一匹や二匹泳いでいるだろう。
逸る気持ちを抑えきれず俺は小走りに川岸へ。
まずはどうやって獲るかだけれども。
定番といえば釣り。
ただ、木の枝から竿は作れても釣り針を作るには金属が必要だし、糸もない。
となると網を作ったほうが良いということになる。
川で投網漁は難しいから定置網か。
辺りを見回すと幸いにもコリーナ草はいたるところに生えている。
「よし、やるか」
俺は鼻歌を歌いながら素材作りを開始した。大きさは縦横十メートルくらいでいいだろう。
ハンモックは二メートルほどだったから、その時よりもかなり多くの素材が必要だ。
それに今回はなるべく細くかつ破れにくくビルドしなければならない。
ハンモックにも使えたくらいだから強度は問題ないはず。
俺は慣れた手つきでコリーナ草を高速クラッシュ。
「ちょっとテストしてみるか」
ある程度、素材が集まったところで一旦確認。前世がSEだったせいか、どうしても途中経過が気になってしまう。
今回、チュートリアルは出てこない。
ハンモックの時もそうだったけど、最初だけなのか? まぁ、いいんだけど。
「ビルド」
目の前には縦横1メートルほどの網が出来上がった。
そんなに大きな魚はいないだろうから、もう少し細くしても大丈夫かな。網目の大きさは一センチぐらいで。
「よっ!クラッシュ」
「ふん!クラッシュ」
俺は再び素材集めに精を出す。
声に出す必要はないのだが、触れた瞬間フワッと粒子になり袋に吸い込まれていく様を見ているとついつい声が漏れてしまう。
「こんなもんかな」
横は川幅と同じく十メートルは欲しいが、縦の長さはそれほど気にしなくていいだろう。
「ビルド」
川の中央まで歩いて行き網を生成。
俺が触れた位置を起点に前方へ左右対称に網が出来上がっていく。
「オーケー。あとは固定するだけだ」
川下側は河原の石を程よい形にビルドし、網を水面の上に出して堰き止めるようにした。しばらくしたら川上側から網をめくりあげ引っかかった川の幸(食料)をいただく作戦だ。
設置から三十分。
「そろそろいいかな」
予定通り俺は川上側から網を持ち上げ川下へと歩いて行く。水深はやはり深いところでも腰くらいほど。
結果、小魚が五匹かかっていた。
これは鮎じゃないか?
前世のディテールをはっきりとは覚えていないが、確かこんな見た目だ。
群れて泳いでいたところを一網打尽できたらしい。他にも数センチの小魚や小エビなどが少し入っていたが、それはリリースしてあげた。大きくなったらまた俺に捕まってくれ。
鮎はできれば塩焼きにしたいところだけど、あいにく塩も火もない。
魔法世界のはずなのに魔法は一向に使える気配がない。やはり前世にない能力は簡単には使えないのかな。
今のところ、かなりの脳筋サバイバルだ。
「でも、俺にはこれがあるからね」
鮎を一旦収納すると、持ち物欄に【鮎5匹】が追加された。
一匹だけ取り出しクラッシュすると、今度は素材欄に【鮎100G】が追加される。
しかし、それをビルドしてみても元の鮎そのものに戻すことはできなかった。
「うえ!やっぱりクソまずい!」
骨や内臓ごとすりつぶしたものを俺のイメージした形に粘土細工したに過ぎず、生臭くて苦味のある固形物にしかならない。
背に腹は代えられないので我慢して俺はそれを口の中へ。
吐き気を抑え、一気に飲み込む。
刺身のような状態を期待していたのに、このスキルは名前の通り粉砕して形を変えるための能力なんだな。
とりあえず少し腹は満たされたが、これはクラッシュせずに後で何とか火を起こして焼いたほうがいいだろう。一応、備蓄用にもう少し獲っておくか。
いろんなものが引っかかっていた網の川下部分を補強し、先ほどと同じように網を設置。
少し欲を出して、前回よりも水深の深い位置で大物を狙う。
「よし!頼むぞ」
設置からニ十分ほど。
俺がハンモックでウトウトしていると、何やら網に異変が発生した。
設置した付近の水面がバシャバシャと異常に波打っている。
「大物の予感!」
俺は嬉々として近寄り、急いで川上から網を引き上げてみると、魚とともにかかっていたのは体長ニメートルほどのワニだった。
「こんな小さな川にワニ?」
前世と似た世界だからと油断していると、たまに想像できないことが起きるな。
ワニは藻掻きながらも網を破壊しつつ一緒に獲れた魚たちを片っ端から食い散らかしている。
網もすでにボロボロで役に立ちそうにない。
「くそぅ、俺の貴重な食料を」
そんな声が通じたのか、魚を一通り食べ終えたワニがこちらに向かって突進してきた。
「次は俺かよ」
慌てて近くの木に登って難を逃れるも、ワニは木の下に居座ったまま動かなくなってしまった。
あのくらいの大きさなら戦えなくもなさそうだが、異世界のワニが俺の知っている戦闘力なのか分からない。
誰もいない、何もない、魔法も使えないこの状況でリスクは負えないよな。
何か追い払う良い方法がないものかしばし考える。手の届く範囲にあるのは木の枝と葉っぱくらい。
ちょうどいいから木のクラッシュも試してみるかな。俺は近くの枝を何本か折ってみた。
収納袋に入れるとコリーナの枝が追加されている。この木もコリーナか。
続いて袖の一部を少しクラッシュ。
さすがに自分の体まではクラッシュされないんだな。
「ビルド」
初めての武器製作。弓矢の完成だ。
俺はワニ目掛けて矢を射るが、矢は全く違う方向に飛んでいく。
「結構難しいな」
何度も根気よく続けていると、最初は当たらなかった矢が、少しずつ当たるようになってきた。
そのうちの一本が奇跡的に登ろうと近くまで迫っていたワニの目に命中。驚いたワニはその場を去っていった。
「ふう。この先が思いやられるな」
放った矢は三十本ほど。
飲料水として川の水を10kgほど補充し、俺は拠点へと戻った。
【魔 力】75
【能 力】筋5 知5 速5 器9
【スキル】収納Max
【ギフト】クラッシュ&ビルド
【素材】
コリーナ草2.6kg/水10kg
コリーナの枝700g
【持ち物】
鮎4匹
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