第7話 夏の終わりに

夏休みが終わる直前、真由美は亮と過ごす最後の日を迎えていた。学校が始まると、これまでのように自由な時間を二人で過ごすことはできなくなる。そんな現実が、真由美の心に重くのしかかっていた。


この日、二人は久しぶりに海へ行くことにした。夏の始まりに一緒に見た夕日が、二人の思い出の場所となり、またそこへ行きたくなったのだ。真由美は、自分の気持ちに整理をつけるためにも、ここで亮としっかり向き合おうと決意していた。


海辺に着くと、真由美と亮は少し離れた場所に座り、波音を聞きながらゆっくりと時間を過ごした。空は、夏の終わりを告げるように、淡い夕焼けで染まっていた。


「今日で夏休みも終わりか…早いもんだな」と亮がつぶやいた。


「うん、本当にあっという間だったね」と真由美は答えた。


二人はしばらくの間、何も言わずに夕日を見つめていた。亮が静かに口を開いた。


「真由美、俺たちの夏、どうだった?」


真由美は少し考えてから、ゆっくりと答えた。「すごく楽しかった。亮君と一緒に過ごした時間、全部が特別だった」


亮は真由美の言葉に安心したように微笑んだ。「俺も同じだよ。君と一緒に過ごしたこの夏、絶対に忘れられないものになった」


その言葉を聞いて、真由美は一瞬、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。亮にとって、この夏は本当に特別なものだったのだ。そして、真由美にとってもそれは同じだった。


「亮君…私、ずっと考えてたんだ。君の気持ちにどう応えればいいのか、自分の気持ちがどうなのかって」


真由美は言葉を慎重に選びながら、亮に向き直った。彼女の心臓は鼓動が速く、手のひらには汗がにじんでいた。


「私も、亮君のことが好き。君と一緒にいると、すごく安心できるし、楽しい。でも…」


亮は真由美の「でも」という言葉に少し不安そうな表情を浮かべた。


「でも?」と彼はそっと問いかけた。


「でも、それが恋愛感情なのか、まだ自分でも確信が持てないの。君のことが大切だからこそ、もっとちゃんと自分の気持ちを理解したい。私、焦らずに、自分に正直になりたいんだ」


真由美の言葉を聞いた亮は、しばらく何も言わずにいた。そして、静かに頷いた。「真由美がそう感じてるなら、それでいいよ。無理に答えを出すことが全てじゃない。俺たちはまだ若いし、これからも一緒にいられる時間はたくさんあるからさ」


亮のその優しさに、真由美は涙がこぼれそうになるのを感じた。彼の理解と思いやりに触れて、自分がどれだけ恵まれているのかを改めて実感した。


「ありがとう、亮君。私、君のことをすごく大切に思ってる。その気持ちは変わらないから」


亮は少し照れくさそうに笑った。「それが聞けて、俺は嬉しいよ」


その後、二人は再び静かな時間を共有し、沈む夕日を見送った。真由美の心はまだ揺れていたが、亮と過ごす時間が彼女にとってどれだけ大切なものかを強く感じていた。


「ねぇ、亮君。これからも一緒に秘密基地で過ごそう。夏だけじゃなくて、秋も冬も…」


真由美がそう提案すると、亮は嬉しそうに頷いた。「もちろんだよ。これからもずっと、二人の場所にしよう」


夕日が完全に沈み、空が暗くなり始めた頃、二人は海辺を後にした。帰り道、亮は真由美の手をそっと握り、彼女もそれに応えた。二人の手はしっかりとつながっていて、これからも共に歩んでいくことを約束しているかのようだった。


---


夏の終わりは、二人にとって新たなスタートだった。真由美の心にはまだ迷いが残っていたが、亮との絆がますます強くなっていることを感じていた。そして、これからも一緒に過ごす時間が、彼女にとってどれだけ大切かを知ることができた。


物語はもうすぐ終わりを迎えるが、真由美と亮の青春の日々はまだ続いていく。夏の終わりが、新しい季節の始まりを告げていた。

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