第5話 揺れる気持ち
夏休みも終盤に差し掛かり、蝉の声が少しずつ弱くなってきた頃、真由美と亮は再び秘密基地に集まった。二人が最後にここで会ってから、少しだけ距離ができていた。夏祭りの夜、亮が言いかけた言葉が真由美の心に残り続けていたからだ。
「亮君、今日の目的は?」真由美が少しぎこちなく尋ねた。
「今日は…ちょっと話したいことがあってさ」亮もいつもと違って、どこか落ち着かない様子だった。
「話したいこと?」真由美はその言葉に胸が高鳴るのを感じた。
二人は秘密基地の中、作ったばかりのベンチに座りながら、しばらく無言のまま過ごした。風が木々を揺らし、葉のざわめきが耳に心地よく響く。真由美はこの静けさが心に重くのしかかるのを感じた。
「真由美…」亮が口を開いた。彼の声はいつもより低く、真剣そのものだった。
「なに?」真由美は小さな声で答えた。
「俺…ずっと言いたかったことがあるんだ」
亮の目は真由美を真っ直ぐに見つめ、その視線に真由美は逃げ場がなくなるような気持ちになった。彼女は、心のどこかでこの瞬間を待っていたが、同時に恐れてもいた。
「俺さ…真由美のことが好きなんだ」
その言葉は、夏の風と共に真由美の心に深く刺さった。心の中で何度も繰り返し聞いたはずの言葉が、今、現実のものとして耳に届いた瞬間、真由美は何を言えばいいのか分からなくなった。
亮は続けた。「最初はただの友達だと思ってたんだ。でも、この夏、君と一緒に過ごしてるうちに、その気持ちがどんどん大きくなってさ…」
真由美の心は大きく揺れていた。彼の気持ちに応えたいという思いと、これまでの関係を壊したくないという不安がせめぎ合っていた。
「私も…」真由美は口を開きかけたが、その言葉をどう続ければいいのか分からなかった。
「私も、亮君のことを…」
しかし、真由美は自分の気持ちがまだはっきりしないことに気づいた。亮への感情は確かに特別なものだったが、それが「好き」という言葉で表現できるものかどうか、自分でも分からなかった。
亮は彼女の迷いを察したように、微笑んだ。「無理に答えなくていいよ。ただ、俺は君に伝えたかったんだ」
その言葉に、真由美は少し安心した。そして、自分の心を落ち着かせるために深呼吸をした。
「ありがとう、亮君。私も…自分の気持ちがもっとはっきりしたら、ちゃんと答えを言うね」
亮は優しく頷き、二人の間に再び静かな時間が流れた。遠くで蝉が鳴き、夏の終わりを告げるように感じられた。
その後、二人は少しずつ日常の話に戻り、いつものように冗談を言い合った。しかし、真由美の心には、亮の告白がずっと響き続けていた。秘密基地を後にする頃には、夕日が再び空を朱に染め、影を長く引きずっていた。
「じゃあ、また明日ね」亮が別れ際に言った。
「うん、また明日」真由美も微笑んで応えたが、その笑顔の裏には、亮への想いをどうすればいいのかという迷いがまだ残っていた。
---
その夜、真由美は眠れないままベッドの中で悩んでいた。亮の言葉が頭の中で何度も繰り返され、心の中の迷いは深まるばかりだった。
「私は…亮君のことをどう思っているんだろう?」
自分の気持ちに向き合おうと決意した真由美は、この夏が終わる前に、心の答えを見つけることを決めた。夏の終わりが、二人の関係の新たなスタートとなるのか、それとも別れの時を告げるのかは、まだ分からない。真由美は、その答えを求めて、もう一度亮と向き合うことを心に誓った。
夏はまだ続いている。だけど、残された時間はもう少ない。二人の心が交差するその瞬間が、すぐそこに迫っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます