第4話 夏祭りの夜

秘密基地での冒険が続く中、真由美と亮は少しずつお互いの気持ちを意識し始めていた。そんなある日、町内で毎年恒例の夏祭りが開かれることを知った二人は、一緒に行く約束をした。


祭りの夜、真由美は鏡の前で自分の姿を見つめていた。浴衣に袖を通すのは久しぶりで、少し緊張している。青い地に白い花が咲く浴衣は、母親が選んでくれたもので、帯も鮮やかなピンク色だ。髪も少しだけアップにして、髪飾りを付けた。準備が整った頃、外から亮の声が聞こえた。


「真由美、準備できた?」亮の声に、真由美は胸が高鳴るのを感じた。


「うん、すぐ行くね!」真由美は小走りで玄関に向かい、ドアを開けた。


そこには、甚平姿の亮が立っていた。普段は明るく無邪気な彼も、今夜は少し緊張した様子で真由美を見つめている。


「すごく似合ってるよ、真由美」亮は照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとう、亮君も似合ってるよ」真由美も少し恥ずかしそうに微笑み返した。


二人は並んで祭りの会場へと向かった。町の中心にある神社では、すでに提灯が灯され、賑やかな音楽が流れていた。夜空には星が瞬き、祭りの雰囲気は夏の夜を一層特別なものにしていた。


「まずはどこに行こうか?」亮が興奮した様子で尋ねた。


「うーん、まずは金魚すくいかな?」真由美は少し考えてから答えた。


「いいね、俺、結構得意なんだよ」亮は自信満々に言うと、金魚すくいの屋台に向かった。


屋台の前には色とりどりの金魚が泳いでいて、亮はすぐに挑戦することにした。彼は器用にポイを使い、次々と金魚をすくっていく。真由美はそれを見て、思わず拍手した。


「亮君、すごい!全部で何匹すくったの?」


「えっと…全部で5匹かな?ほら、真由美にあげるよ」亮はすくった金魚を袋に入れて真由美に手渡した。


「ありがとう、大切にするね」真由美は嬉しそうに笑った。


その後、二人は焼きそばやたこ焼きなどを食べ歩き、いくつもの屋台を回った。射的やくじ引きにも挑戦し、笑い声が絶えなかった。


祭りも終盤に差し掛かり、二人は最後に神社の境内にある大きな木の下で休むことにした。そこからは、提灯の光が柔らかく揺れているのが見える。


「今日は楽しかったね」真由美が言った。


「うん、すごく楽しかった。真由美と一緒だったからかな」亮は真由美を見つめながら答えた。


その視線に気づいた真由美は、胸がドキリとした。亮の目がいつもより真剣で、何かを言いたそうに見えた。


「真由美、俺さ…」


亮が口を開こうとしたその瞬間、夜空に大きな音が響き渡った。二人が驚いて空を見上げると、花火が打ち上げられ、鮮やかな色彩が夜空を彩っていた。


「わぁ、綺麗…!」真由美はその美しさに目を奪われた。


亮も一瞬、花火に見とれていたが、再び真由美に視線を戻した。


「真由美、俺、君のことが…」


その言葉が再び遮られるように、大きな花火が夜空で爆発した。その音が真由美の耳元で響き、亮の言葉はかき消されてしまった。


「えっ、何か言った?」真由美は花火の音で聞こえなかったことに気づき、亮に尋ねた。


亮は少し困ったように微笑み、「いや、何でもないよ」と言って、再び夜空を見上げた。


その時、真由美の胸の中にある気持ちが少しずつ明確になっていくのを感じた。亮の言いたかったことを、彼女は何となく察していた。だけど、それを確かめる勇気がまだ出なかった。


二人はその後、花火を最後まで見届け、祭りが終わる頃に家路に着いた。帰り道、亮はずっと何かを考えているようで、口数が少なかった。


「今日はありがとう、すごく楽しかった。また一緒にどこか行こうね」


玄関の前でそう言って別れた真由美だったが、心の中は亮の言葉が気になっていた。あの時、亮は何を言おうとしていたのか、次第にその答えを知りたくなっていた。


---


夏祭りの夜は、二人の関係に新たな何かをもたらした。しかし、まだその感情を言葉にするには少し時間が必要だった。夏の終わりに向けて、二人の心はますます近づいていく。そして、真由美と亮は、もう一度秘密基地であの続きを話すことになるだろう。

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