第4話 探求者

翌朝、乃斗は一睡もできないまま夜を明かした。窓の外にはもう深きものたちの姿はなかったが、昨夜の恐怖は彼の心に深く刻まれていた。彼は、このままではいけないと感じ、再びあの古書店「古書 斎藤」に向かうことを決意した。


店に到着すると、店主はすでに彼を待っていたかのように微笑んでいた。その微笑みはどこか不気味で、何かを知っているような表情だった。


「また来たか、若いの」と店主は言った。「昨夜のことで君もわかっただろう。この本はただの古書ではない。」


乃斗は黙って頷いた。何か言いたいことがたくさんあったが、言葉が見つからなかった。


「深きものたちが君を狙う理由は、その本の中にある。だが、それだけではない。」


店主は棚の奥から別の本を取り出し、乃斗の前に差し出した。今度の本は、薄汚れた表紙に「エルダーサイン」と呼ばれる古代のシンボルが描かれていた。


「この本には、異形の生物や失われた知識に関する情報が記されている。エルダーサインの力も記されているんだ。このシンボルには、悪しき者から身を守る力がある。」


乃斗はその言葉に戸惑いながらも、本を受け取ってページをめくった。そこには、エルダーサインとともに、いくつかの呪文が記されていた。文字は見慣れないもので、意味はわからなかったが、それらの文字がかすかに光を放っているように見えた。


「これらの呪文は、君が昨夜見たようなものから身を守る手助けをするものだ。ただし、全てがうまくいくとは限らない。君には何か覚悟が必要だ。」


店主の言葉は曖昧でありながらも、どこか核心をついているようだった。乃斗は思い切って尋ねた。


「あなたは一体何者なんですか?なぜそんなことを知っているんです?」


店主の目が一瞬だけ鋭く光り、乃斗はその目の奥に何か別の存在を感じた。


「私か?私は…まぁ、ただの本屋の店主さ。ただ、少しだけこの世界の裏側に詳しいだけだよ。」


その曖昧な答えに乃斗は不信感を抱いたが、同時にその背後に隠された真実を感じ取ろうとした。彼はさらに尋ねた。


「昨夜のことです。深きものたちが家に押し寄せてきました。でも、どうして僕を狙っているんですか?何か関係があるんですか?」


店主はしばらく沈黙し、何かを考えているようだった。やがて口を開いた。


「深きものたちは古代からの知識を守る者たちだ。君の手にあるその本に記された知識が彼らにとっては脅威なのだ。だが、それ以上に、君自身が何か特別な存在だからかもしれない。」


乃斗はその言葉に驚き、自分が特別だと言われても何のことかわからなかった。


「特別って…どういう意味ですか?」


店主は謎めいた笑みを浮かべたまま答えなかったが、やがて店の裏から一つの物を取り出した。それは古びたショットガンだった。


「これを持っていけ。深きものたちを撃退するにはこれが役立つだろう。だが、注意しろ。これは最後の手段だ。彼らは力で解決できる相手ではない。」


乃斗はショットガンを手に取り、その重さに驚いた。彼は銃を触ったことすらなかったが、そのときは恐怖と混乱で何も考えることができなかった。


「この銃が…役に立つのですか?」


「場合によってはな」と店主は冷たく答えた。「だが、本当に必要なのは、君の覚悟と意志だ。」


乃斗はショットガンを握りしめ、深く息をついた。そのとき、店主が一言、意味深な言葉を漏らした。


「君がこの道を進む限り、君は何者かの目に留まるだろう。非常に狡猾で危険な者のね。」


乃斗はその言葉に心臓が凍りついた。店主の言う「何者か」とは一体何なのか、彼には見当もつかなかった。しかし、店主の言葉には一種の確信があった。


「その者は、まるで混沌そのもののような存在だ。君の前に現れるかもしれないし、すでに君の影に潜んでいるかもしれない。」


店主は再び微笑んだ。「君の選択次第で、道は開けるだろう。」


乃斗はショットガンを握りしめたまま、店を出た。彼の心には恐怖と不安、そして新たな決意が渦巻いていた。彼はまだ若く、全ての真実を知らないままだったが、その運命に抗うためにできることをしなければならないと感じていた。


これからどうするべきか、乃斗にはまだわからなかったが、一つだけ確かなことがあった。彼はこの道を進む限り、もう後戻りはできないのだ。どんな危険が待ち受けていようとも、彼はその先にある真実を追い求めるしかないと決意した。

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