第61話 修学旅行①-2 ハプニング
「よーし、揃ったな。じゃぁ北海道組、搭乗手続行くぞー」
先生の号令で、俺たち北海道組は一斉に動き出した。
空港の独特の匂いとざわついた空気の中、陽菜が隣でニコニコしながら話しかけてくる。
「輝、楽しみだね!」
「そ、そうだね」
俺は普通そうに返事をするも内心はワクワクとバクバクである。
理由は言わずもがな。
1つはアレ。
もう1つは俺実は飛行機が初めてなのだ。
「輝、窓際に座りな」
「いいの陽菜」
「私はいいよ!輝の方が初めてだし、景色見たいでしょ?」
俺は「ありがとう」と言い、窓際の席に腰を下ろした。
座席に腰を下ろしてから気づいたことだが、窓って意外と小さい。
外を覗き込むと、地上にいる車や人が忙しなく動いているのが見える。そんな景色をぼんやりと見ていると、プ~ンという音とともに機内アナウンスが流れ始めた。
「当機は、○○空港を定時で離陸予定です。飛行時間は、……」
CAのアナウンスが機内に流れる。
へぇ~、楽しみだなぁー。
飛行機は、滑走路に向けて静かに進む。
ジェットの音が一段と大きくなり、滑走路を走り出す。
フワっと機体が空に昇っていく。
「オォー」
思わず声が出る。
「アハハ、輝子供みたい」
「だって陽菜、空だよ俺達飛んでるんだよ。」
「輝、飛行機なんだから」
窓の外は、自分の住んでいる街が豆粒のように広がっている。
「あれ、俺達の学校かな?」
「んッ?どこ?」
陽菜が俺を越えて窓に顔を近づける。
陽菜の髪が俺の顔にかすかに触れ、ほんのり甘い香りが鼻をくすぐった。
――近い。いや、近すぎる!
今の心情もあってか俺には刺激が強すぎるが陽菜はそんなことをまったく気にする様子もなく、俺の肩に体を乗せて景色をじっと見ているため、俺も何とか自我を保つ。
「おおー、こうして見ると小さいねぇー」
陽菜が窓から顔を引き戻し、振り返った瞬間、俺たちの顔があと数センチで触れそうな距離に。
「凄いね輝」
「二人とも、機内でイチャつかないでくださいよ」
振り返ると、西原菜月が呆れたような顔をしている。
「あはっ。ゴメンゴメン、菜月ちゃん。でも、ほらッ」
陽菜が、通路側の菜月を引っ張る。
「わッ!!」
小さな窓に菜月まで顔を近付ける。
まるで俺に二人が重なるように接近する。二人からいい匂いが
そっと、二人を支える。
「ヒャ」
菜月が、妙な声をあげる。
陽菜越しに菜月を抱き寄せたみたいになってる。
「輝〜っ、私の前で菜月ちゃん抱きしめて〜」
「あの、コレは、その」
菜月の顔が真っ赤になっているのを見て、俺もつい目を逸らしてしまう。
「うふふっ、わかってるよ。菜月ちゃん支えてくれたんだよね。ごめんごめん、私も強く引っ張りすぎた」
「ウ、ウンッ。大丈夫……」
飛行機は、順調に飛行を続ける。
今回は、道南を中心に巡る3泊の予定だ。
札幌、小樽、函館が、有名な観光地。
班別の行動、自由行動は、函館を予定されている。
「陽菜、富士山って見えるのかな?」
「富士山は、高度から見えないんじゃない?」
「そうかぁ、ちょっと残念だな」
そんなやり取りをしていると、またビンボーンという音が鳴り、CAさんの機内放送が流れる。
「お客様にお知らせいたします。当機は、順調に飛行を続けておりますが、現地の空港で現在、障害が発生した模様です。調査中ではありますが、状況によっては、他の空港に着陸もしくは到着に遅れが生じる恐れがあります。詳細が分かり次第お知らせいたします。お客様には、ご迷惑ご心配をおかけいたしますことを、心よりお詫び申し上げます」
「へっ!!なんで?」
陽菜と顔を見合わせる。
「ありゃりゃ。どうしちゃったんだろう」
「どうするんでしょ?」
引率の先生が、添乗員とヒソヒソと話を始めた。
アチコチから、不安のヒソヒソ話が漏れる。
着陸出来るのかな?ニュースなんかじゃ、他の空港に着陸するっていうのもあるよな。
乗客は、殆どが俺達の学校の生徒。
前の席の隆貴がこっちを振り返って来る。
「ニャハハ、大変な事になりそうだねぇ」
隆貴、お前意外とこの状況を楽しんでないか?
「オイ、千歳で滑走路閉鎖みたいだぞ」
「マジか?!俺達何処に行くんだ?」
後ろの男子生徒がスマホは使えないはずで、何で得た情報なのか騒ぎ立てている。
「滑走路に小型機が停まってるんだって」
その周りの女子生徒もヒソヒソと話をしてる。
ビンポーン
「機長の〇〇です。当機は空港の閉鎖に伴い、現在上空待機をしております。閉鎖解除を待ち着陸する予定ですが、状況によっては、他の空港に着陸することもございます。お急ぎのお客様にご迷惑をお掛けしますが、ご理解頂きますようお願い申し上げます。レデースアンドジェントルメン・・・」
墜ちたりしないよな?イヤな汗が背中を流れる。
「輝、墜ちたらって思ってる?ダイジョーブだよ、飛行機は、車よりも安全な乗り物なんだって」
「そうは言ってもさぁ、俺、飛行機初めてだし」
だから隆貴は何で笑ってんだよ。
「初めてでこんな体験、流石、輝」
「ホントだよぉ、輝だけのことはある」
陽菜も菜月までもそう言ってくる。
ピンポーン
「ご搭乗のお客様にお知らせいたします。空港の閉鎖が長引いております。当機は、目的地を変更し仙台空港に目的地を変更いたします……」
仙台?宮城だよな。どうするんだ?
機内がざわめく。
「ありゃりゃ。仙台だって輝、どうなるんだろうね?」
「北海道まで行けるのかな?」
「私は、仙台でもいいけどなぁ。仙台も良いところだろうし」
陽菜はそう言っているけども俺は違う。
俺にとっては修学旅行だけど、ただの修学旅行ではないからそうもいかないのだ。
何とかしてくれ機長さん。
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