第56話 問題2つ目

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▼西原菜月視点▼


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ある日の夜。

部屋の窓から差し込む月明かりが、机の上に広げたノートの隅をぼんやりと照らしていた。


「はぁ……」


私は机に肘をつき、手のひらで顔を覆いながら大きなため息をついた。

いつもは陽菜と話しているだけで楽しかった。

だけど、最近は陽菜と会うたびに胸の奥がチクチクと痛む。

それがなんでなのか、菜月自身が一番よく分かっていた。


「……私、最低だよね」


呟いた声は夜の静寂の中で吸い込まれるように消えた。

陽菜が輝のことを好きなのは、最初から知っていた。

転校してきてすぐに陽菜と仲良くなって、彼女がぽつりと話してくれたのだ。

「好きな人がいるんだ」って。

その時、陽菜の目はほんのりと輝いていて、まるで誰かのことを考えるだけで幸せそうに微笑んでいた。

その表情を見て、私は思った。


――こんな素敵な親友を持てて、本当に幸せだなって。


だけど今、その記憶を思い出すたびに、胸の奥に重たいものを感じる。


それなのに、自分は――


「なんで……輝のこと、気になるんだろう」


思わず口に出してしまった言葉に、自分で驚いた。

けれど、その理由は自分でも分かっている。

私の頭には、放課後に輝と話したときの記憶が鮮明に浮かんでいた。

陽菜の誕生日プレゼントについてアドバイスを求められたとき、なんでもないことなのに胸が高鳴った自分。

陽菜のためだと分かっているのに、少しだけ輝と話す時間が嬉しかった自分。


「ダメだよ……こんな気持ち……」


私は机の上に広げた手帳を見つめた。

そのページには、昨日の出来事が簡単なメモとして記されている。

・陽菜の誕生日プレゼントの相談

・放課後、輝と話す


その横に小さく「少しだけ嬉しかった」と書き加えた自分が恥ずかしい。

私は思わず手帳を閉じた。


「陽菜に、こんなこと……言えるわけないじゃん」


言えるわけがない。

陽菜のことを考えたら、そんな気持ちを口にする資格なんてない。

それなのに、輝のことを考えると勝手に胸が高鳴る自分が憎らしかった。


彼女は椅子から立ち上がり、ベッドに倒れ込んだ。

天井を見つめると、心の中にある混乱がさらに大きくなっていく。


陽菜のことは大好きだった。

親友だと思っているし、これからもそうでありたい。

でも、輝のことを考えると、心がざわざわする。

この感情は間違いなく――


「恋だよね……これ」


認めたくなかった。だって、それを認めてしまったら、陽菜との友情を裏切ることになる気がするから。

でも、どうしようもなく心が揺れてしまうのだ。


「もし、私が陽菜にこの気持ちを伝えたら……どうなるんだろう」


私は両手で顔を覆った。陽菜の優しい笑顔が頭に浮かぶ。

輝が陽菜をどう思っているのかは分からない。

でも、陽菜が輝を好きだということを知っていながら、自分がその間に割り込むようなことをしていいはずがない。


「でも……」


私は自分の胸に手を当てた。

心臓が早鐘を打つように脈打っている。

これが恋じゃなければ何だというのだろう。

輝が笑う姿を見るだけで嬉しくなる。

彼と話すたびに、もっと一緒にいたいと思ってしまう。


「私、どうしたらいいの……」


誰にも相談できない孤独感が、自分の胸にのしかかる。

夜が深まるにつれて、部屋の中はますます静かになった。

私はベッドの上で膝を抱えながら、窓の外をぼんやりと見つめていた。


「……考えても仕方ないよね」


私は自分にそう言い聞かせたけれど、心の中で答えを見つけることはできなかった。

陽菜の気持ちを知りながら輝に惹かれてしまう自分。

それをどうするべきか分からない自分。

でも、ひとつだけ分かっているのは――この気持ちを誰かに打ち明けたら、きっと取り返しのつかないことになるということだ。


「……陽菜には、何も言わない。それでいいよね」


自分にそう言い聞かせながら、私は目を閉じた。

だけど、胸の奥にあるモヤモヤは消えることなく、彼女の心を締め付け続けていた。


静寂の中で、私の心は揺れ続ける。

友情を取るのか、それとも自分の気持ちに正直になるのか――。


私の答えは、まだ見つからないまま眠れない自分を無理やり寝かしつけるのだった。



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