第55話 問題1つ目③ -to be continued

陽菜が眠る部屋で、俺は彼女の横に座りながらぼんやりと時計を見つめていた。

時間はすでに夜を越えようとしているが、彼女が心配でとても帰る気にはなれない。

額に置いた冷えたタオルは少し湿り始めている。

熱はだいぶ下がったけれど、まだ気を抜ける状態じゃない。


「ったく、なんであんな無茶するんだよ……」


小声で呟くと、自己嫌悪が胸の奥から湧いてきた。

陽菜が雨の中をさまよっていた理由はまだ聞いていない。

でも、彼女が苦しんでいるのを見て、俺が何かの原因だとしたら――。


「……馬鹿だな、俺……」


ベッドの横に地面に座りながら、疲れた目を閉じた。

陽菜が穏やかな寝息を立てているのが唯一の救いだ。




いつの間にか眠りに落ちたらしい。

目を覚ますと、目の前にはぼんやりとした視界の中、陽菜が俺を見ていた。


「……輝?」


彼女のか細い声に、俺はすぐに目を覚ます。


「陽菜、起きたのか?熱はどうだ?」


慌てて彼女の額に手を伸ばすと、彼女は少し驚いた顔をした。


「あ……もう平気。ありがとう、付きっきりで看病してくれて……」

「当たり前だろ。お前、昨日の状態で一人にしておけるわけないだろうが」


俺の言葉に、陽菜は少し俯きながら苦笑いを浮かべた。


「……ごめんね、心配かけて。私、ちょっと自分勝手だったかも」

「どういう意味だ?」


俺が尋ねると、陽菜は小さく息を吸い、言いづらそうに言葉を続けた。


「昨日、校舎の裏で……菜月ちゃんと輝が一緒に歩いているのを見たの」


その瞬間、昨日の光景が脳裏に浮かんだ。

放課後、菜月が俺を呼び止めて少しだけ話をした後、夕陽の中で笑いながら並んで歩いていたあのシーンだ。

陽菜は、それを見ていた?


「それに咲音が熱出して遊べなくなった日も、たまたま輝と菜月が一緒にいるのも見ちゃって」


どちらも見られていたとは思わなかった。


「それで、なんかすごくショックで……私、勝手に勘違いして……」

「勘違い?」


彼女の顔は真剣そのもので、どこか悲しげだった。


「……菜月ちゃんと付き合ってるのかなって」


その一言に、俺は思わず吹き出しそうになった。

いや、笑っちゃいけないけど――そういうことかよ!


「おいおい、陽菜。それ、本気で思ってたのか?」


俺が苦笑しながら言うと、彼女はますます視線を下げていく。


「だって、すごく仲良さそうで……私には見せない顔してた気がして……」

「違う。それは全然違うから」


俺は少し身を乗り出して、陽菜をまっすぐ見つめた。


「菜月はただ、俺に相談があって話してただけだよ。彼女の悩みを聞いてたら、少し時間が長くなった。それだけ」

「……相談?」


陽菜がきょとんとした顔をする。


「そうだよ。昨日は菜月が困ってたらしくて、それを解決するのを手伝っただけだよ」


俺は菜月のプライバシーも考えて具体的な内容は言わなかった。


「……本当にそれだけ?」


少し疑うような彼女の視線に、俺は笑いながら首を横に振った。


「それだけだってば」

「……そうなんだ。それじゃあ、遊ぶ予定だった日は?」

「それは……」

「やっぱり言えないんだ」


その問いに俺は正直に答えるかどうか迷った。

できれば誕生日当日にプレゼントを渡して驚かせたいが、今ここで嘘をつくとこの先陽菜とは一緒にいられない気がする。

そんな大事な帰路に俺は迷わず片方の道を選ぶ。


「俺が本気で考えていたのは、陽菜、お前の事だよ」


彼女は驚いたように目を見開き、俺の言葉に言葉を失っているようだった。


「お前、もうすぐ誕生日だろ?菜月にアドバイスしてたついでに、お前へのプレゼントも考えてたんだよ」

「……私に?」


陽菜の頬が少し赤く染まるのを見て、俺はますます恥ずかしくなった。


「まあ、まだ決まってないんだけどな。何がいいか全然分からなくて……昨日の帰り道も、それを菜月に聞いてただけだよ」


その瞬間、陽菜の目に涙が浮かんでいるのに気づいた。


「……陽菜?」

「……私、本当に馬鹿だね……」


彼女は涙を拭いながら、ぎこちない笑顔を浮かべた。


「ずっと、ずっと一人で悩んでたのに……輝はそんな風に私のことを考えてくれてたなんて」

「おいおい、泣くなよ。ほら、泣くとまた熱上がるぞ」


俺が慌てて言うと、彼女はクスクスと笑いながら涙を拭った。


「ありがとう、輝……本当に、ありがとう」


その言葉に、俺はただ静かに頷くことしかできなかった。

陽菜の笑顔が、心の中で何かを温かく溶かしていくのを感じながら。


「プレゼントは当日のお楽しみな」

「うん!」


その後、俺たちは夜遅くまで話し続けた。誤解を解き、互いの気持ちを確認するように。

陽菜が安心した顔を見せたとき、俺はようやく少し肩の力を抜くことができた。

雨上がりの夜空には、月が静かに輝いていた。



――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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