第51話 プレゼントの決め手

土曜日の朝。

遠足を楽しみにする子供のように俺は落ち着かず、待ち合わせ場所に早めに向かっていた時、俺の携帯が鳴った。

画面で相手を確認すると、そこには陽菜ちゃん陽菜の文字があったため俺は急いで電話を取る。


「もしもし?」

『もしもし、輝?ごめんね、今日のデートなんだけど……』

「どうしたの?」

『咲音がね、急に熱を出しちゃって……看病してあげないといけなくて、今日は……その……行けそうにないんだ……』


残念な知らせが俺の耳に伝えられる。

だけど、仕方がないと思い俺は心配の旨を陽菜に伝える。


「そっか、それなら仕方ないよ。咲音ちゃんのこと、ちゃんと見てあげて。それよりも何か買って行こうか?」

『いや、大丈夫だよ。うつしたら悪いし、気持ちだけ貰っておく』

「分かった。陽菜も無理しないでね」

『うん。本当にごめんね。楽しみにしてたのに……』

「俺も楽しみにしてたけど、陽菜が謝ることじゃないよ。咲音ちゃんの看病、頑張って」


そう言って俺は陽菜との通話を切る。


「これからどうするか……」


家からは結構歩いてきたために今からすぐに家に帰るというのも憚られる。

咲音ちゃんの熱のお見舞いも断られてしまったため、俺は手持ち無沙汰になってしまったが、これもいい機会だと思いそのまま陽菜の誕生日プレゼントで何かいいものが見つかればいいなとこの付近のショッピングモールに向かうことにした。




ショッピングモールの広々としたフロアを歩きながら、俺は携帯に目を落とした。


「陽菜の誕生日か……何が喜ぶんだろうな」


あと数日で陽菜の誕生日がやってくる。

俺としては、ちゃんと彼女が喜んでくれるプレゼントを用意しておきたい。

けど、女子へのプレゼント選びなんて、正直慣れていない。


「なんかそれっぽいの、全然見つからないな……」


雑貨屋、アクセサリーショップ、アパレル……一通り見て回ったけれど、どれもピンと来ない。

陽菜の喜ぶ顔を思い浮かべながら探しているはずなのに、どれも彼女にしっくりこない気がして、迷いばかりが増えていく。

そんなとき、背後から明るい声が俺を呼び止めた。


「おーい、輝!」


振り返ると、そこには西原菜月が立っていた。

定番ラブコメ転校生のように転校してきたばかりなのに、明るい性格ですっかりクラスの人気者になった彼女が、ショッピングモールのエスカレーター付近で手を振っている。


「西原?」

「そう!まさか輝にここで会うなんてね~。何してるの?」


菜月は俺の近くまで駆け寄り、ニコニコとした表情で尋ねる。


「えっと……ちょっと買い物だよ」

「買い物?何買うの?」


どう言えばいいか一瞬迷ったが、変に隠す必要もないだろう。


「プレゼントを探しててさ。でも、全然決まらなくて困ってるんだ」

「へぇ~、プレゼントねぇ……」


菜月は興味津々といった様子で俺を見つめる。


「もうすぐ陽菜ちゃんの誕生日だから~もしかして、陽菜ちゃん?」

「なんで分かるんだよ!」


図星を突かれて思わず声が上ずる。

菜月は「ふふっ」と小さく笑った。


「だって、輝たちのこと見てると、陽菜ちゃんのこと気にしてるのバレバレだもん!」

「そ、そんなことないし!」


明らかに挙動不審になっている俺を横目に、菜月は腕を組んで何かを考え始める。


「なるほどねぇ……でも、陽菜ちゃんへのプレゼントかぁ。それなら、私が手伝ってあげる!」

「え、いいのか?」

「もちろん!女子へのプレゼントなら、女子に相談するのが一番でしょ!」


菜月の勢いに押されて、俺は彼女と一緒にモール内を回ることになった。


「これなんかどう?陽菜ちゃんの雰囲気に合いそう!」


菜月が手に取ったのは、小さなシルバーのペンダント。

ハートのモチーフが上品で、確かに陽菜に似合いそうだ。


「確かに悪くないけど……なんか、もっと特別感が欲しいっていうか」

「ふむふむ、特別感ね~。それなら、名前とかイニシャルが入るものとかどう?」


菜月の提案に、俺は少し感心した。

自分一人で回っていたら、そんなアイデアは浮かばなかっただろう。


「それ、いいかもな!」


次の店では、イニシャル入りのブレスレットやスマホケースなど、いくつかの選択肢が見つかった。


「でも、陽菜ちゃんってスマホケースとかもう持ってる?」

「確か、前に気に入ってるやつなんだよって言ってた気がするな」

「そっか。じゃあブレスレットかな~?」


菜月はそう言いながら、キラキラした目で商品を見ている。

彼女の明るさにつられて、俺の気分も少しずつ晴れてきた。


最終的に選んだのは、キーケースだった。

陽菜の雰囲気にぴったりだし、普段使いできそうなデザインが気に入った。


「これなら陽菜ちゃん、絶対喜ぶよ!」


菜月がそう太鼓判を押してくれるのを聞いて、俺もようやく安心できた。


「ありがとうな、西原。おかげで良いのが見つかったよ」

「いいってば!むしろ私も楽しかったし!」


菜月は笑いながら、軽く肩をすくめた。

買い物を終えた俺たちは、フードコートで軽く飲み物を飲むことにした。


「でもさ、輝って意外とロマンチストなんだね」

「は?どこがだよ」

「だって、陽菜ちゃんが喜ぶ顔を思い浮かべながら選んでたでしょ?そういうの、女子は意外と気づくんだよ」


菜月はストローをくわえながら、少し得意げに言った。


「……まあ、喜んでくれたら嬉しいなとは思うけどさ」

「うん、大丈夫だよ!絶対喜ぶって!」


彼女の自信満々な言葉に、俺はつい笑ってしまった。

その日の夜、家に帰ってからも、菜月の明るい笑顔が何度も頭をよぎった。


「なんか、助かったな……」


陽菜の誕生日が来るのが、今から少し楽しみだ。



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