第50話 松村陽菜はミタ

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▼松村陽菜視点▼


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今日は待ちに待った輝と遊ぶ日。

いつもより早めに起きて、気合いを入れて準備をする。

服を選び、メイクをして、髪も整えるて……もう”デート”って言ってもいいよね。

そんな風に慌ただしく準備をしていると、咲音が起きてきた。


「咲音、おはよう。ごめん、朝からうるさかったね」

「……おはよ」


その挨拶にいつもよりすこし咲音の元気がないような気がしたが、いつもより朝早いからだろう。


「なにか食べる?」

「……お姉ちゃん……頭がぐるぐるする……」


咲音の弱々しい声が耳に届いた瞬間、私は咄嗟に彼女の額に手を当てた。

熱い。明らかに平熱ではない。


「熱あるんじゃない!?」


私は急いで咲音を抱え、布団まで連れて行き寝かせる。


「咲音、大丈夫?お布団に横になっててね。すぐ冷えピタとお水を持ってくるから!」


咲音を寝かせながら急いで準備を進める。

冷えピタを貼り、彼女の額に冷たいタオルを置いてあげると、ようやく少し落ち着いたようだった。


「……ありがとう、お姉ちゃん……」


汗ばんだ額に貼った冷えピタが少しでも効果を発揮したのか、咲音はか細い声で感謝を伝えてくれる。


「咲音、心配しないでね。今日はお姉ちゃんがずっとついてるから!」


しかし、咲音の体温計を確認した瞬間、私は息を飲んだ。

38.7℃。これはただの風邪では済まないかもしれない。

私は一度咲音の部屋から出ると、大きく深呼吸をした。


(今日は……デートだったのに……)


そんな喉元まで出かけた言葉を押し殺す。

数週間前から楽しみにしていた輝とのデートだけど、今日はお母さんもいないから咲音のことは私が見ないといけない。

多分、優しい輝なら理由を話せば許してくれる。

そんな彼の優しさにいつも頼ってしまう。

私はスマホを手に取り、輝に連絡を入れた。


『もしもし?』

「もしもし、輝?ごめんね、今日のデートなんだけど……」

『どうしたの?』


電話越しに聞こえる輝の声は、相変わらず穏やかだった。


「咲音がね、急に熱を出しちゃって……看病してあげないといけなくて、今日は……その……行けそうにないんだ……」


私がそう伝えると輝は少しの間を置いた後、優しく答えてくれた。


『そっか、それなら仕方ないよ。咲音ちゃんのこと、ちゃんと見てあげて。それよりも何か買って行こうか?』


その言葉に胸が少し軽くなる。輝は優しい。

こうやって私の事情をきちんと受け止めてくれる人だ。

でも、彼の優しさにすがりっぱなしもよくない。


「いや、大丈夫だよ。うつしたら悪いし、気持ちだけ貰っておく」

『分かった。陽菜も無理しないでね』

「うん。本当にごめんね。楽しみにしてたのに……」

『俺も楽しみにしてたけど、陽菜が謝ることじゃないよ。咲音ちゃんの看病、頑張って』


私は電話を切った後、大きく息を吐いた。


―――――――――――


しばらく看病を続けてお昼を過ぎたころ咲音はようやく浅い眠りについたようだった。

体温が高いせいか、寝苦しそうに額に汗を浮かべている。


(おかゆやポカリがあれば少しは楽になるかな……)


冷蔵庫の中を確認してから、私は小さくため息をついた。

夜の分も考えると、流石に買い物に行かないとどうしようもない。


「咲音、ちょっとだけお買い物に行ってくるね。すぐ帰ってくるから、お姉ちゃんがいない間は寝ててね」


咲音の小さな手を握りしめ、私は彼女を安心させるように微笑んだ。



夕方少し前の商店街は、主婦の人たちで少し賑わっていた。

私は人混みを抜けて、必要なものを手早く買い集める。


(早く帰らないと咲音が心配するよね……)


レジを済ませて店を出ると、沈みかかった太陽がオレンジになり始めていた頃だった。

その時だった。

視界の端に見覚えのある後ろ姿が映った。


――輝?


思わず目を凝らすと、そこには間違いなく輝の姿があった。

隣には、長い黒髪をポニーテールにまとめた女性――西原菜月がいた。

二人は並んで歩きながら何かを話しているようだった。菜月ちゃんが何か冗談を言ったのか、輝が楽しそうに笑っている。


(どうして……?)


私の足は自然とその場に止まった。声をかけようか迷ったが、どうしても声が出ない。

二人がこちらに気づく様子はなく、楽しげに会話しながらゆっくりと歩いていく。

その姿が、だんだんと遠ざかっていく。


「……嘘、でしょ?」


胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。

頭では分かっている。輝はそんな人じゃないし、菜月ちゃんもきっとただの偶然で一緒にいるだけ。

でも、私とデートの約束をしていたのは今日だった。


(私のことはもう、どうでもよくなっちゃったのかな……)


不安や悲しみが押し寄せてきて、心がどうしようもなくざわついた。

家に帰る道中、私はずっと自分の気持ちと戦っていた。

輝に直接聞くべきなのか、それとも何もなかったことにするべきなのか。


(でも、こんなことを聞いたらまるで彼を疑っているみたい……)


一方で、黙っているのも苦しかった。

私は彼のことを信じたいのに、どうしてもさっきの光景が頭を離れない。

玄関に戻り、咲音の部屋をそっと覗くと、彼女はまだ眠っていた。

安心しながらも、心の中は全く落ち着かなかった。


咲音のためにおかゆを作り、彼女が少し元気を取り戻したのを確認した後、私は一人リビングで座っていた。

手元には輝とのメッセージアプリのトーク画面を開いていた。

そこには私が家に帰って来た時間くらいに送られてきた『咲音ちゃん、体調良くなった?』と輝からのメッセージがあった。

『だいぶ落ち着いたよ』とメッセージを送ろうかと考えたが、どうしても送る気になれなかった。


菜月ちゃんと歩いていた彼の笑顔――その記憶が、どうしても胸を締め付ける。


「……私、どうしたらいいんだろう?」


静かな部屋の中、私は誰にも聞こえない問いを自分に投げかけた。

信じたい。

でも、不安。

彼のことを信じられない自分が嫌だ。

咲音が眠る寝室の扉をそっと開け、私は彼女の穏やかな寝顔を見つめた。


「強くなるって決めたんだし……」


その夜、月明かりが窓から差し込む中、私は咲音の寝顔を見つめながら、静かに心を整理していた。



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この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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2024年12月3日 18:00
2024年12月5日 18:00
2024年12月7日 18:00

【長編】迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと知ったクラスのマドンナがぐいぐいやって来る みっちゃん @nanashi689

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