第49話 焼肉祝賀会

「お待たせしました!ここが今日の戦場です!」


店内に響く活気ある声と香ばしい匂いに迎えられながら、瑠華先輩が意気揚々と個室の扉を開ける。

時刻は夕方6時を回ったころ、俺たちは瑠華先輩に連れられて焼肉屋に来ていた。


「なんか戦場って言うか、もう平和そのものじゃん」


相澤が苦笑いしながら座布団に腰を下ろす。


「いや、これから戦場になるんだよ。肉の争奪戦ってやつが」


瑠華先輩がメニューを片手に不敵な笑みを浮かべると、武藤が真剣な表情で静かに言った。


「……俺、タン塩」

「ちょっ、勝手に注文するなよ!」


思わず俺がツッコむと、瑠華先輩が笑いながら頷いた。


「大丈夫大丈夫。ちゃんと全員の分頼むからね~」

「……俺、タン塩」

「はいはい。タン塩ね」


それから、みんなの注文を済ませてた。


「それじゃ、改めて――ライブ成功、お疲れさまでした!」


瑠華先輩の音頭で、俺たちはジュースの入ったグラスを高く掲げた。


「お疲れ~!」


グラスが軽く触れ合い、思い出話が次々と飛び出す。


「いやぁ、田原君があんなに緊張してるの見たの、俺初めてだったな」


相澤が笑いながら話すと、瑠華先輩も思い出したように笑った。


「そうそう、袖でそわそわしててさ。でも、その分演奏は完璧だったよね!」

「……うん。田原のキーボードが、曲を支えてた。」


武藤が静かに、でも力強く言ってくれる。


「そ、そうかな……ありがとう」


褒められ慣れてない俺は、顔が熱くなるのを感じた。


「でもね、田原君だけじゃないよ。全員が最高だったから成功したんだよね」


瑠華先輩の言葉に、俺たちは自然と頷いた。

しばらくして、炭火で焼かれる肉の香ばしい匂いが部屋中に漂う。


「これ、もう食べごろじゃね?」


相澤がトングで肉をひっくり返すと、武藤が無言で箸を伸ばす。


「ちょ、待てよ!全員分取ってからだろ!」

「……早い者勝ち。」


俺たちが騒ぎながら肉を分け合う中、瑠華先輩がふと俺を見て微笑んだ。


「田原君、なんか楽しそうだね」

「え、そうですか?」

「うん。ライブの時はちょっと緊張してたけど、今はすごく自然体でいい感じ」

「田原君、ほら。これ食べて元気出して!」


瑠華先輩が俺の皿に、焼きたてのカルビをそっと置いてくれた。


「あ、ありがとうございます……」

「いいのいいの。私もいっぱい食べるから!」


そうしてそれからは皆で他愛もない話をしながら焼肉を楽しんだのだった。


「よし、じゃあ最後にみんなで写真撮ろう!」


瑠華先輩がスマホを取り出し、俺たちは肩を寄せ合ってポーズを取る。


「ハイ、チーズ!」


シャッター音が響いた瞬間、俺は思った。

このメンバーと一緒にライブができたこと、この時間を共有できたことは、かけがえのないものであると。


「次もまた、最高のライブやろうな」


相澤が言うと、全員が頷いた。

そして俺たちの「最高の打ち上げ」は、静かに幕を閉じた。

そして、みんながそれぞれの帰途に付き、俺と瑠華先輩は方向が同じため二人並んで帰る。

店を出た時、外は冷たい夜風が吹いていた。

焼肉屋の中の熱気とは対照的で、思わず肩をすくめる。


「寒いね~。田原君、大丈夫?」


瑠華先輩が隣で少し震えながら問いかけてくる。


「俺は平気ですよ。瑠華先輩、薄着じゃないですか。寒くないんですか?」

「これでも結構慣れてるんだよ~。でも田原君って、意外と気遣い屋さんなんだね」


先輩はクスッと笑う。


「……あの、今日はありがとうございました。ライブも、打ち上げも、すごく楽しかったです」

「お礼なんていいよ。みんなが楽しんでくれたなら、それが一番嬉しいし!」

「またぜひやりましょうね」

「そうだね!」


そして俺は少し時間が経った後、思い切って瑠華先輩に話を切り出した。


「先輩、ちょっとお話いいですか?」



――――――――――


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