10月&11月 日常と非日常

第48話 もうすぐ誕生日!?

文化祭終わりと同時に9月も終わりを告げ、少し肌寒さを実感する10月が始まった。

10月の初め数日は文化祭の余韻や片付けなどで一瞬で過ぎ去ってしまっていたが今日、俺は久しぶりに陽菜と2人で放課後帰宅していた。


「ねぇ、輝」

「どした?」

「今週の土曜日って空いてる?」


陽菜にそう尋ねられ、スマホのカレンダーで予定を確認する。

そこには”打ち上げ”の文字が綴られていたため、俺はそのまま陽菜に伝える。


「今週の土曜日は、この前のバンドのメンバーで打ち上げするんだ」

「そっか~」

「土曜日がどうしたんだ?」

「いや、久しぶりに二人で遊びたいな~って思って。でも予定があるのか~」


そう言いながら少し残念そうな顔をする陽菜の顔を見て、俺は再度カレンダーを確認する。


「来週の土曜日なら、空いてるぞ」


俺がそう言うと、陽菜の表情がぱっと明るくなった。


「本当!? じゃあ、決まりだね!」

「何かしたいことあるのか?」

「うん、ちょっと行ってみたいカフェがあってさ。前から気になってたんだけど、行くならやっぱり輝と一緒がいいなって思ってたの」


陽菜の声はどこか弾んでいて、久しぶりの2人の時間を心から楽しみにしているのが伝わってくる。


「カフェね。どんなところなんだ?」

「ふふ、当日のお楽しみ。場所は私が調べておくから、任せて!」


陽菜がそう言って少し得意げに笑う。その笑顔につられて、俺も自然と口元が緩んだ。


「わかった、任せるよ。でも、あんまり変なところじゃないよな?」

「変なところって何それ!大丈夫だよ、オシャレなカフェだから!忘れないでよ~」

「カレンダーに入れとくから忘れないよ」


俺はそうして来週の土曜日に”陽菜”と入れておいた。

俺がカレンダーに予定を入れると聞いてか、「私も入れとこ~」と陽菜も自分のスマホを開いてカレンダーに予定を入れる。

一瞬陽菜のカレンダーが見えてしまったが、見てはいけないと思いその瞬間に顔を逸らした。


「再来週、楽しみだね!」

「う、うん。そうだね」


予定を入れ終わり、少しテンションの高い陽菜の満面の笑みに俺は、一瞬だけ見えた事実にすこし焦りを感じながらも頷く。

それからは、どこか上の空で陽菜との会話をして彼女を家まで送り届けた。



一瞬だけ見えた彼女のカレンダーのある予定。それが彼女のであるのか確認すべく、俺は頼みの綱の男にすぐさまコールした。

彼にはワンコールもならないうちに繋がった。


「もしもし。隆貴か?」

『俺に掛けたんだから当たり前だろ。どした?』

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、ひ…、松村陽菜の誕生日っていつだ?」

『俺がなんでも知ってると思うのを辞めてくれよ』


俺の問いに隆貴は大きくため息をつきながらそんなことを言った。


「お前に知らないことは無いだろ?」

『俺はゼウスか!俺だって知らない事だってある。例えば松村陽菜の誕生日とかな』

「そっか。お前でも知らないか……」


頼みの綱のゼウスが知らないとなると、俺はどうするべきなのかと頭をフル回転させる。

そんななか、電話口で連呼される俺の名前でようやく正気に戻る。


『…カル!輝!』

「あ、ごめん」

『俺も松村さんの詳しい誕生日の日付は知らないが、大体の時期は分かるぞ』

「ホントか!?」

『あぁ。確か、毎年女子たちがハロウィンの後くらいに祝っていたはずだから、そろそろなんじゃないか?』

「だよな~」

『お前もしかして何も用意してないとか?……そんな訳ないか。って言うか早く…ってまさか』

「そのまさかだ」

『お前……マジで何も用意してないのかよ!?』


隆貴の声が電話越しに大きく響き、俺は思わず耳から携帯を離す。


『ほんっとお前、肝心なとこでダメだな……』

「返す言葉もないです……」


電話口で隆貴がまたため息をつく音が聞こえた。

しばらくの沈黙の後、彼は呆れた声で言った。


『……仕方ねぇな。手伝ってやるよ。って言いたいところなんだが、流石に俺にそんな時間も、女の子のプレゼントをいっしょに考える知識もない!自分でどうにかしろ!じゃあな』

「あっ、隆貴!」


俺が呼び止めようとしたときにはすでに電話は切られていた。


「あと約3週間後か……」


それから俺は一人、今日知らされた迫りくる欠かせない予定の事を考え続けて家に帰るのだった。



――――――――――


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