第45話 文化祭②-4 バンドは誰かの心を押す

3人で謎解きを楽しみ終わり、学年クラスそれぞれの出店を一通り回った。

そしてひと段落したところで俺はふと教室に掛かった時計に目を向けた。

時刻は2時を回るころ。


「陽菜、咲音ちゃん。ごめん。俺3時からやらなきゃいけないことがあってそっちに行かなきゃいけないんだ」

「えっ、そうなの?カフェのシフト入ってたっけ?」

「え~、咲音もっとお兄ちゃんと遊びたい!」


俺が離脱することを伝えると、陽菜も咲音ちゃんもそれぞれ悲しそうな顔をして俺の方を見つめて来る。

そんな顔をされてしまうと、行こうにも行きづらいのだが仕方がない。

俺は覚えているかどうかは分からないが事情を知っているはずの咲音ちゃんを自分の方に手招きして呼び寄せ、陽菜には聞かれないように背中を向けると耳打ちで理由を伝える。


「お兄ちゃん、今からバンドでピアノ弾きに行かないといけないんだ」

「ピアノ?」

「ほら、この前二人でお買い物行ったときに引いたやつ」

「あっ!そーだった!それが今からなんだね」

「うん。30分くらいで終わると思うから、その後からはまた一緒に回ろ」

「分かった。頑張って!咲音たちも見に行くね」


どうやら思い出してくれたらしくそれからは大人顔負けの咲音ちゃんの物わかりの良さによりトントン拍子で話が進む。

そんな俺たちの様子をただ見ていることは出来なかった陽菜が声をかけてきた。


「ちょっとお二人さん。またまた内緒話ですか!」

「あぁ、いや何でもないよ。ね、咲音ちゃん」

「うん!お兄ちゃん30分くらいで戻って来れるって」

「陽菜、ホントごめんね。あとでチーズハットグ買ってあげるから……」


俺は陽菜に手を合わせ、頭を下げながら謝る。

ここでチーズハットグを選択したのは、さっきサラっと回った時にチーズハットグの屋台を眺めたが、長蛇の列を見て後ろ髪を引かれる思いで断念した陽菜の姿をめにしたからである。

本来イケてるメンズならばそこで買うことを提案するのだが、俺はそこまでイケてはないためにこんなこすい手段で使うのである。


「2個……。2個で許してあげる」


俺の思惑通り提案に乗って来た陽菜は、食べ物につられて許してしまうのが恥ずかしいのかそれとも、チーズハットグが嬉しいのかは分からない。しかし、顔をぷくっと膨らませて少し赤らめた頬はとっても可愛かった。


「咲音も咲音も!」

「分かったよ。それじゃあまた後で。終わり次第連絡するから」

「うん。待ってるね」

「お兄ちゃん、また後でね~。ほら、お姉ちゃん行こっ。咲音行きたいとこあるんだ!」


そう言って俺は二人と離れて、バンド演奏の会場である体育館へ向かうのだった。





体育館の舞台袖に到着するとすでに今からの有志企画の参加者の何人かが待機しており、俺は一緒に演奏する仲間を見つけ彼らの元へ向かった。


「田原君、今日もよろしくね。練習通りにやれば大丈夫だから」


俺を見つけ真っ先にそう声を掛けてきたのはボーカルを務めるこのグループ唯一の紅一点かつ先輩の鳴海 瑠華なるみ るか

長い黒髪をポニーテールにまとめた彼女は、普段落ち着いた性格で、教室では目立たない存在だが、その歌声は別格。

柔らかくも力強い声は、まるで心の奥底まで響くようだと言われている。俺も彼女の歌を初めて聴いた時、自然と鳥肌が立ったのを覚えている。


「おーい、天才キーボード君、今日も頼むぜ!」


そう肩を組むように後ろからのしかかって来たのはギター担当の相澤 翔真あいざわ しょうま

いつも飄々としていて、何事にも動じない性格の彼は、ギターを持つと別人のように真剣な表情になる。

高校生らしからぬテクニックで奏でるリフやソロは、聴く者すべてを惹きつける力があるが、そんな彼の一番の魅力は、どんなに複雑なフレーズも楽しそうに弾いてしまうことだ。


「相沢君の方が天才だと俺は思うよ」

「言ってくれんじゃねーの。そんなに褒められたら照れちゃうよ」

「相沢君。田原君にプレッシャーをかけちゃダメよ!彼のお陰でバンドとして文化祭に出られるんだから」

「はいはい。お堅い先輩だ事」

「何ですって~!……」

「田原君……ミスしないように頑張ろう……」

「わっ!」


そんな賑やかな二人の言い合いを眺めていると、耳元でそんなセリフがささやかれた。

驚き俺は急いで振り向くとそこにはドラムの武藤 陽介むとう ようすけが立っていた。


「武藤君、気配出してよ。びっくりしたじゃん」

「……ごめん」


無口で無骨な彼は、話しかけるのが少し難しい雰囲気を持っている。

だが、そのドラムプレイを一度でも聴けば、彼の内側に燃える情熱を感じ取れるだろう。

彼のスティックさばきは正確無比で、まるで時計のようにリズムを刻む。


「よし、全員揃ったね」


瑠華先輩が手を叩いて声をかけると、みんなが一斉にこちらを向いた。


「今日限りのバンドだけど最高の演奏をして、観客全員を虜にしてやろう~!」

「「「おー」」」


それぞれの楽器を手に、俺たちは一つのチームとしてステージに挑む。


「続いては有志バンドによるライブです。バンドの皆さん、よろしくお願いしますっ!」


眩しかったライトがすべて消えて足元を照らす小さな明かりが点灯していつかやったリハーサル通りに進行していく。

さっきまであんなに騒がしかったはずなのに今はガチャガチャとした金属音と辺りを縦横無尽に駆け巡るスタッフさんたちの足音しか聞こえない。


「緞帳あがりますっ」


少しづつ体育館に集まってくれた人たちの姿が見えてくる、全員が俺のために来てくれたわけじゃないだろう。

だけどやるからには全部終わったころに、俺達が一番盛り上げたってここにいる全員に言わせてみせるっ!

そういう気持ちで向き合わないと、一緒に演奏する彼らに、準備してくれたみんなに申し訳ない。


「会場のみんな!盛り上がってる~!」


そう……これは俺たちの人生の中で”史上最高”のライブのはじまりだった。



――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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