第40話 文化祭①-2 お化け屋敷

「どうする?」

「悩むな~」


カフェの自分の担当時間を終えた俺と陽菜は自由時間に二人で過ごすことにして、ふらっと空いていたカフェに入りこれからの予定を決めていた。

陽菜はスマホの電子パンフレットを見ながら答えた。


「こんだけありゃな……」


俺も先程から見ていた電子パンフレットを見ながら苦笑いで返す。


「ま、今日一日で全部は無理だろうから興味ある所に行こうぜ」

「うーん……」


スマホを眺めながら唸る陽菜の前に置いてあるコーヒーは一口も飲まれていないのに湯気が弱まって来ていた。

対して、俺は先程からチマチマと飲んでいるのでコーヒーはもうすぐ空になる。


「閃いた」


突如陽菜がスマホからこちらを見て言い出したので俺は、陽菜のスマホを見る。


「お化け屋敷」

「お化け屋敷……だと……」


そんな俺の反応が気に入ったのか、陽菜が少し含みのある笑みを見せてくる。


「苦手?」

「ば、ばばばバカ言っちゃいかん!お化けなんてあれだろ?文明科学では証明されていない人間の妄想であって、現実に存在するはずないんだから、お化け屋敷なんてものは存在しないはずなんだって。あはは、やだなー」

「3年2組に存在するよ」

「そ、それはあれだよあれ。中世の時代に適当な蛇捕まえて『これがツチノコだぜ!』と言ってるのと一緒だっての」

「例えが意味不明。あと、早口でちょっとキモい」

「早口なのはあれよ?最近魔法の詠唱にハマっててさ。もうすぐ出そうなんだよね。きゃめひゃめ波的なエネルギー弾的な何かが」

「うん。ともかく質問に答えて!もしかして、苦手なの?」


答えはイエス。紛れもなくイエス。ホントマジでイエス。

こちとらホラー映画の類いも苦手で、見た日にゃ夜一人で寝るのも怯える位に苦手なんだ。

文化祭如きのお化け屋敷? はは、笑わせるな。俺にとったらハリウッド級ホラー映画に成り代わるぜ。

だが、ここでイエスと答えると「ふぅん」と小馬鹿にした笑いをされるに違いない。

ここではかっこつける一択だ。


「いやぁ?別にふちゅーだけど?てか、ヨユーだけどね。ははん。所詮は愚かな人間が考え出した娯楽の一つに過ぎないだろ。そんなもの科学の前で無となって浄化してやるぜ」

「そう」


陽菜はからかう様子もなければ、呆れた様子でも無く、ただニコニコと笑顔で椅子から立ち上がった。


「それじゃあ行こう」

「マジ?」

「浄化するんでしょ?」

「あ、あははー。マジ全員浄化してやるわ」


泣きそうな声が出てしまい、陽菜はこちらの態度に気が付いているのかどうか分からないが、せっせとカフェを出て行った。チラチラとこちらに視線を感じるのは間違いなく陽菜へ対してだろう。

彼女が学内を歩くだけでそこはファッションショーと化し、生徒の注目を浴びている。

彼女は可愛い。だから目立つ。そんな事は分かっている。

「誰だよあれ」とか「何様だ? あいつ」なんて声が小さく聞こえてくるのだって今に始まった事じゃないから別に気にも留めていない。


「輝、眉間にシワ寄せがエグいよ」

「んぁ? そ、そうか?」

「怖いなら怖いって素直に言えば良いのに」

「いやいやいや。あれだよ。あれ。俺のイカつい顔の恐いとお化けの怖いのどちらが正真正銘のこわいか勝負してやらうと思ってな。あ、勘違いすんなよ。俺自身は怖いと思ってないから。むしろ俺自身が恐いから」

「なら、輝の完敗だね」


俺の態度に陽菜が「やれやれ」と溜息混じりで呆れた声を出すと問題の場所に到着する。


「いらっしゃい……」


3年2組の教室はそれはそれは禍々しい姿に変わっており、受付の人は何だか分からないがボロボロのコートにフードを被っており、声の低さから男性だとは見受けられるが顔が良く見えない。


「二名様で?」

「はい」


聞かれた質問に陽菜が答えると、受付の人がこちらに向いてくる。


「ここは楽しい楽しい楽園だよ。是非楽しんで行ってね」


そう言って俺に握手を求めてくるものだから、反射的に「ど、ども……」と手を握ってしまうと――。


「うわっ!!」


手が取れたので俺は悲鳴を上げてしまう。


「楽園と言ってもそれは私達にとっては――だけど……。ひっひっひっ」

「あわわわわ……」


俺の反応に陽菜が無表情で俺の握ってる生手を取り上げると受付の人に返す。


「あ、ども」

「いえいえ」

「お連れさん大丈夫っすかね?」

「大丈夫らしいので大丈夫です」


そんなやり取りをしていて普段なら何か言ってやる所だが、今の精神状態じゃ何も思い付かない。簡単に言うとめっちゃビビってる。


「ほら、行くよビビりさん」

「お、おう」

「大丈夫かな……」


中に入ると、薄暗く視界が悪いが何とか歩けると言った感じで何となく背筋が寒い。


「ふ、雰囲気あるなぁ……」

「そう?」

「いやー。中々に。うん。良いね。悪くない。悪くないよー。ま!全然ビビってないけどなー。ヨユーだけどなー」

「そう」


ふぅ……。何とかビビってるのは隠せているが、これじゃバレるのも時間の問題……だな。

俺と言う存在の威厳を保つ為にもこんな時は感情のコントロールだ。

恐怖という感情は『怖くない』なんて思う程に恐怖を増してしまうおそれがある。それだと全くの無意味だ。

そういう時は別の感情で補うのが良いだろう。

喜怒哀楽の中で最で最も効果が期待出来るのは感情は『怒』だ。

人は怒っている時は喜ばない。人は怒っている時に哀しまない。人は怒っている時に楽しまない。原理で言えばその逆もあるのだが、簡単に思い出せるとしたらやはり『怒』の感情ではなかろうか。

そんな風に俺の海馬に働きかけようとした瞬間ーー。


「――ばぁ」


いきなり現れた白い布を被ったザ・お化けみたいな奴が出てきた。その瞬間である。


「うわぁ!」

「え?」


俺の驚いた声にザ・お化けが首を捻った。


「あ、え、えっと……」


お化けは頭をポリポリとかいて焦っている。


「いや、俺、ジャブ中のジャブなポジション……。あの……お連れさん大丈夫っすか?」

「すみません。大げさな人で」

「いえいえ。一応非常口は中間辺りまで行かないとないんで……。あれでしたら引き戻った方が良いんじゃないっすか?」

「親切にありがとうございます。でも、大丈夫です。お化けさんも頑張って下さい」

「うはぁマジ天使っすねー。いやー俺自信無かったんすけど出ましたわー。あざす」

「ばいばい~」


世間話をする陽菜に、何をお化けと世間話してんねん! 何てツッコミも出ずにただ、呆然と立ち尽くす。


「ほら、行くよビビりマン」

「お、おうふ」


お化けに見送られて奥に進む足は震えており、それを見た陽菜が「やれやれ」と言いながら俺の腕にしがみ付く。


「これで怖くないでしょ?」

「は、ははは」

「この程度が怖いなんてマジで言ってんの?」

「こ、怖くないし。あれだろ? 陽菜がビビって俺に抱きついてきてんだろ? はっはー」

「あー面倒くさい。それで良いや」

「しょ、しょーがねーな」


俺は一旦腕を離して陽菜の肩を引き寄せる。


「こ、これで怖くないだろ?」

「こんな状況じゃ無かったらキュンとしたのに勿体無い」


――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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