9月 ②文化祭

第36話 ホールはタキシードらしい

学校側のこういう大きな行事は一気に終わらせてしまおうという考えなのか体育祭が終わるとうちの高校ではすぐに文化祭の準備が始まる。

そう言えば、これも夏休み前に話あって何するかを決めたっけな。



「というわけで、クラスの出し物を決めるぜーい!」


教壇に立っているのは隆貴の指揮により文化祭の出し物の話し合いが開始された。


「えー、文化祭の出し物だけど、まず大事なのは飲食店の数が決まってるから、飲食店を希望するときは他のクラスと戦うことになる。3年生が優先されるらしいけど、毎年2年の半分くらいは飲食できるらしいから俺に任せてくれたら取ってきてやる!」


そんな隆貴のセリフにヤジを飛ばすクラスメイト達。

俺はその風景を、みんなをやる気にするのが隆貴は上手いなと思いながら傍観していた。


「それから予算や既存の道具のリストは、今さっき配ったプリントに書いてあるから確認しとけよ。もし追加で必要なものがあれば、その都度確認する。じゃあ、やりたい出し物がある人は挙手してくれ!」


すると、クラスメイトたちは次々に手を挙げ、出し物の提案が始まった。

文化祭は学生にとって特別なイベントだから、皆の目が輝いている。

俺は去年の文化祭では特に積極的に関わらず、指示された通りに作業をこなすだけだったので今年もそれがいいなと死んだ魚のような目をして鎮座する。


「はいはい! やっぱり定番のカフェがいいと思います!」

「ほうほう、ありきたりだけど悪くないな。まあ、予算のことは考えずに言ってるけど、とりあえず候補に入れておこう」


それからいくつもの候補が挙げられていく。

焼きそば、タピオカ、から揚げ、ドーナツ、お化け屋敷、射的。

食べ物からそうでないものまで幅広く上げられて、殆どクラス内の案が煮詰まると、黒板に書き上げていた隆貴が口を開く。


「手っ取り早く多数決にしようと思うけど、大丈夫か?……それじゃあ5分後くらいに聞くから考えとってくれ~」




「えーじゃあカフェが得票最多だからカフェに決定だけどいいかー?」


結局のところ、いい感じに票がばらけて集団票を獲得したカフェが当選した。

何かどこかのお国の選挙を風刺しているようで笑えて来た。

ちなみに俺は射的に入れておいた。だって、得意なんだもん。


「ただまあこれから生徒会に決定を伝えてそこからは恐らく抽選だから、抽選から漏れたら2番の射的になるぞー。じゃあ、もう少し時間があるし詳細を決めていくか」


俺の射的になる可能性を匂わされた俺は、2位じゃ意味が無いんだよと思いながら机に突っ伏せるとそのまま睡魔に襲われて眠ってしまった。



「夏休み前に決めた通り、うちのクラスはカフェをやることになりました」


体育祭の振り替え休日が明けた日、文化祭のましてやカフェの準備なんて今から始めて間に合うのかと思ったが、隆貴を含めたしごできのクラスメイトの何人かが夏休みに必要な手続きを終らせていたらしく後はクラス内の内装や当日のシフトを決めるとなっていた。

夏休み何の仕事もやってない俺は少しこの話し合いには肩身が狭いと思いつつ、係の人の話に耳を傾ける。


「それじゃあ、まず当日のシフトから決めようと思うけどキッチンとホールに分かれるんだけど、キッチンやりたい人は挙手!」


そう言われてクラスを見渡すと多くの人(特に女子)が我先にと手をあげる。

それを料理があまり得意ではない俺はホール一択だなと思いながら傍観する。


「ちょっと多いな~。そう言えば、ホールの人の格好は男子も女子もタキシードな」


ふぇ?!

今、聞き捨てならない言葉がスラっと発表されたが。

普通のブレザーとかじゃなくて、タキシード?


「それと、実行委員の俺の権限を使って何人かの男は強制的にホールになってもらう!俺の親が働くホテルからタキシードも準備してきたからそいつらに拒否権は無い!」


嫌な予感がする。

って言うか、お前の親ホテルマンだったのかよ初耳だよ。

そして数人の男の名前が呼ばれて行き、いい返事をする奴もいればやる気のない返事をするやつ。

逆に嫌そうに返事をする奴など様々だった。


「そんで最後は~……輝!」

(ですよね~)


心の中で深く溜息をつく。なんとなく嫌な予感はしてた。


「タキシードな~、似合うんじゃない?輝!」


教壇から降りて、小声でそんなことを言ってくる。

俺はあからさまに嫌そうな顔をしながら、座ったまま肩をすくめた。


「いや、似合うかどうかより、俺にホールやらせるのが間違いだろ。接客とか無理だって」

「大丈夫だよ、俺が言ってんだから間違いないって! それに、ホテルマンの父が選んだタキシードだぜ? 格好良く決まること間違いなし!」


冗談じゃない。

タキシードなんて今まで一度も着たことないし、そもそも俺はカフェとかオシャレな空間での接客なんて性に合わない。


「頼むよ、輝。ここは俺たちの文化祭のためだと思ってさ。それに、寝てたのが悪いな」


隆貴はそう言ってニヤついているが、正直、俺には反論の余地がない。

これ以上反抗しても無駄だと悟り、仕方なく頷く。


「……わかったよ」


俺が了承すると隆貴は教壇に戻って行った。


「女子はかわいそうだから強制にはしないけど、やりたい奴他にいるか~?」


隆貴のそのセリフにそんな奴いないだろと思いながらクラスを見渡すと、一つ高々と右手が挙げられていた。

その目線は何故か俺の方を向いているような気がするのは気のせいだろうか。


「おっ、松村さん!いいね~」


陽菜の立候補により、陽菜がやるなら私もと何人かの女子も立候補しそれからはつつがなく役割が決まって行ったのだった。


――――――――――


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