第35話 体育祭⑥ fin

無事、体育祭も俺の所属する白組の勝利に終わり俺は他の皆よりも先に帰路についていた。

それはもちろんある人を待たせているためである。


「咲音ちゃん、お待たせ。それじゃあ、帰ろっか」


校門の前で大人しく一人で立って待っている咲音ちゃんに声をかけると満面の笑みで出迎えてくれた。


「お兄ちゃん!待ってたよ~!」


咲音ちゃんは元気いっぱいに答えながら、俺の手をしっかりと握る。

その小さな手のぬくもりが、なんだか心地よい。

俺たちはゆっくりと学校から家に向かって歩き出した。


「体育祭、どうだった?楽しかった?」

「うん!お姉ちゃんも輝お兄ちゃんも一生懸命で、すっごくかっこよかったよ!特にお兄ちゃんの最後のリレー!すごく早かったね!」

「ありがとう」


咲音ちゃんは無邪気にそう言って、興奮気味に手を振り回す。

俺は照れながらも、彼女の言葉にリレーの時を思い出す。



午後の競技もいよいよクライマックスを迎え、最後のリレーが始まろうとしていた。

運動場は異様な熱気に包まれている。

赤組と白組、黄組と青組、それぞれの応援団が声を張り上げ、ゴールの向こうからも歓声が響く。

俺たち白組は、ここで勝てば逆転優勝が決まる。何が何でも負けられない戦いだ。


「いよいよだな、輝」

「おう、ここで決めようぜ」


1年が第1,2走、2年が第3,4走、3年が第5,6走を担当することになっていて、隆貴が第3走、俺が第4走だ。

スタートラインには第1走者が並び、ピストルを持つ先生が一歩前に出る。

全員が息を潜め、緊張が一気に高まる。


――パンッ!


ピストルの音が運動場に響き渡り、第1走者が一斉に走り出す。

土埃が舞い上がり、足音が激しく響く中、先陣を切ったのは赤組。追って黄、白、青の順。

リードされている状況に、他組の応援団は一瞬静まり返ったが、すぐに声を上げ直す。


「負けるな!」「まだ行けるぞ!」


俺の心臓も一気に鼓動を早める。まだ焦る時間じゃない。

後方から仲間を見守りつつ、全神経を集中させる。

第2走者にバトンが渡る瞬間、赤組が少しずつ追い上げ前の黄組に並ぶ。

お互いの距離が縮まり、グラウンド中が沸き立つ中、走者たちは腕を大きく振り、全力で走り抜ける。

1位の赤との差もほとんどなく、どの組が勝つのか分からない状態が続き、観客席も手に汗握る状況だ。


そして隆貴にバトンが渡ると、並んでいた黄組を追い越しピッタリ赤組の後ろに着く。

そしてついに、俺の番がやって来た。


「頼むぞ…!」


俺は自分の心の中で叫びながら、息を整える。

手を伸ばし、全力で彼からバトンを受け取った。


「輝、いけー!」


周りの応援の声が耳に届く。

だが、今は俺の足にすべての意識を集中させ、トラックのコーナーを力強く回り、目の前に見える赤組の走者を狙う。

「追い付く…!」そう自分に言い聞かせ、さらにスピードを上げた。

日ごろの運動のしなさなのか、この炎天下の中一日中外にいたせいなのか体は限界に近づいているが、負けられない気持ちが足をさらに前へ進ませる。


ラストの直線に入った瞬間、赤組との差はわずかだった。

俺は全力で地面を蹴り、最後の力を振り絞る。周りの歓声が耳元で轟き、体中にアドレナリンが駆け巡った。

そして、俺はついに白組の走者に並んだ。肩が触れるほどの距離で競り合いながら、俺は第5走りの先輩にバトンを託す。


「お願いします!」


そして、名もなき先輩は赤組の走者を置き去りにしていき、悠々と第6走の先輩がゴールテープを切った。


「やった――!!」


仲間たちが一斉に駆け寄り、俺の周りに集まる。

歓声と抱擁、握手が次々と交わされる中、俺はランナーズハイになったのかただ無心で空を見上げた。



「ドレミファソラシド ドシラソファミレド レミファソラシド!だ~れにも ないしょで おでかけなのよ!」


そんな風に咲音ちゃんが楽しそうに某番組の歌を歌って家に帰っている最中、後ろから見知った声が背後から聞こえた。


「誰に内緒なのかな?」


振り返るとそこには弁慶の立ち往生のような凛々しく腕を組んだ仁王立ちで立っている陽菜の姿があった。

俺も咲音ちゃんもヤバいという思いを共感するように目を合わせるけどもう後のフェスティバル。

それからみっちり俺たちは叱られた。


――――――――――


▼咲音の日記▼


――――――――――


今日は、お姉ちゃんとお兄ちゃんのがっこうの運動会をないしょで見にいきました。

お姉ちゃんの走るのも、お兄ちゃんが高いところでがんばるのもどっちもかっこよかったです!

お兄ちゃんとお姉ちゃんが手をつないではしっているところのシャシンもとれました。

咲音はシャシンやさんになれるかも!


でも、おひるごはんをわすれちゃってかなしくて、お兄ちゃんにも見つかってしまいました。

でもお弁当をはんぶんこしていっしょにたべてたのしかったです。

お兄ちゃんには咲音がとったシャシンでお姉ちゃんにヒミツにしてもらったのに、かえりみちお姉ちゃんに見つかってしまいました。

たくさんたくさん怒られました😢


でも、咲音がとったシャシンをあげると言ったらゆるしてくれました。

こんどまた3人でシャシンをとれたらいいな。

先生にはまたこんど見せてあげるね!


※咲音ちゃんの幼稚園の先生になったつもりで、返信をコメント欄に書いてね!



――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


私事で大変恐縮ではございますが、次回11月1日の更新から更新の頻度を毎日から隔日に変えさせていただきたいと思います。

楽しみにしていただいていた方、申し訳ありません。


みっちゃんでしたorz

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